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鉄道事故のない一年を インフラの老朽化、安定・定時運行の不在が「公共交通」を毀損、社会を壊す

小林拓矢フリーライター
昨年、オーバーランを起こした山形新幹線E3系(写真:イメージマート)

 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

 昨年は鉄道では気になる事故が多かった。相次ぐ事故、天災での被災は、「公共交通」というものの価値を毀損し、人々の鉄道離れ、公共交通離れを引き起こす。

 鉄道業界は人手不足であり、会社によっては資金不足である。その中で脅かされるのが「安全第一」と「定時運行」だ。この両者は、この国の鉄道のアイデンティティとも言える。公共交通の中で、鉄道には高い要素でこの2つが求められている。

 その他の公共交通も、安定した運行体制が確保されていることが、人々の信頼の源となっている。

 鉄道を中心とした公共交通が、この国の骨格となっており、社会の重要な基盤となっている。ここが壊れることで、社会が壊れる。公共交通の維持は単に鉄道会社など運営組織だけの問題ではないのだ。

 昨年はどんな事故や被災があったのか。

被災や事故が多かった昨年

 まず昨年の1月1日に、能登半島地震が起こり、のと鉄道が被災した。1月23日には、JR東日本の東北新幹線上野~大宮間で架線が垂れ下がるトラブルが発生した。3月6日には山形新幹線「つばさ」が郡山駅でオーバーラン。4月22日には札幌市営地下鉄でタイヤのパンクが発生した。

 7月には大雨で東北地方の鉄道が被災した。9月19日には古川~仙台間を走行中の「はやぶさ・こまち」で連結器が外れた。このころに各社で輪軸不正問題が発生している。10月4日にはいすみ鉄道でマクラギ腐食による脱線事故。11月10日にはJR四国の瀬戸大橋線児島~宇多津間で架線トラブルが発生した。11月16日にはJR北海道函館本線の森~石倉間で貨物列車が脱線した。12月12日にはJR九州鹿児島本線の川内付近で貨物列車が脱線。

瀬戸大橋線の線路
瀬戸大橋線の線路写真:イメージマート

 主要な被災や事故だけでも、これだけのものがある。

 そのたびに公共交通網は断たれ、人々は移動に不便するようになった。

 このほかにも、JR九州やJR西日本を中心に過去の豪雨等で被災したものの、鉄路がもどっていないところがある。

とくに事故は避けるべき

 被災、そして事故。ものによっては仕方がないとは思えるものもあるものの、なるべくなら避けるべきものであり、可能な限り対策をあらかじめ取っておくべきものではないか?

 とくに、事故は避けるべきである。事故は安全対策の失敗であり、「安全第一」「定時運行」を大きく毀損するものである。

 鉄道は安全な乗りもの、時間がしっかりした乗りものとして人々から絶大な信頼を集めている。その鉄道ネットワークが各地に行きわたっていることが、この国と社会を形作っている。

 だが、そのあたりが年々怪しくなりつつある。

 近年各地で相次ぐ豪雨などの被災だけではなく、昨年相次いだ事故が、人々の鉄道への信頼を失わせる。安全性・定時性がない鉄道は、どうなるかわからないという複雑性を利用者に抱かせ、鉄道がこれまで持っていた信頼を失わせる結果になる。

「『信頼』は社会的な複雑性の縮減メカニズムである」というのは社会学ではよく知られた命題(これはニクラス・ルーマンによる)だが、それがダメになっているのが現状である。

 事故やトラブルが、鉄道の維持に大きな影響を及ぼし、信頼を失わせ、場合によっては存続にも影響する。それが国や社会の崩壊にもつながる。

廃止になる鉄道も

 利用者が少ない鉄道や、なにかあった鉄道では、その際に廃止にするかどうか議論が起こる。昨年は廃止が決まった鉄道もあった。

 利用者の少ないJR東日本久留里線の久留里~上総亀山間や、過去に被災し地元自治体が復旧を断念したJR東日本津軽線の蟹田~三厩間は仕方がないといえる。

 しかし弘南鉄道大鰐線では2019年4月と2023年8月に脱線事故が発生、また2023年にはレールに異常が見つかり、弘南線を含む全線で運休することになった。

弘南鉄道大鰐線
弘南鉄道大鰐線写真:イメージマート

 2024年に入り国土交通省東北運輸局から弘南鉄道に対し改善措置を講じ、JR東日本にも技術支援を頼んだものの、11月に弘南鉄道大鰐線は2028年3月をもって運行を休止すると発表した。事実上の廃止となる。

 経営状況の厳しさや人手不足が事故を引き起こし、対応できない状況になり、さらに人々が乗らなくなり、万策尽きる。

 事故の多くは、原因に人手不足や経営環境の厳しさがあり、それでメンテナンスがおろそかになる。大きな鉄道会社も例外ではない。

 こういう事態が相次ぐと、鉄道を中心とした公共交通が信頼されなくなる。

「クルマ社会」と「鉄道社会」の分断

 多くの人が鉄道を中心とした公共交通を利用することで、この国の形は保たれていた。しかし、長い年月にわたり地方の公共交通は縮小しており、自家用車の利用がどんどんさかんになっていく。その上で都市に人口が集中するようになる。

 現在の日本は、「クルマ社会」と「鉄道社会」に分断されている。

 ここで引っかかるのは、昨年の11月に行われたアメリカ大統領選挙である。近年のアメリカ大統領選挙においては、「分断」がキーワードになっている。選挙結果は、共和党のドナルド・トランプが当選した。

 アメリカ大統領選挙では選挙人総取り方式を採用している。結果を見ると、ドナルド・トランプが選挙人を獲得した地域は、面積が広く公共交通が充実していない地域である。全体としてトランプが選挙人を確保した州でも、州の中心部、すなわち公共交通が充実した地域で、民主党のカマラ・ハリスのほうが票を多く獲得している状況があった。

 ただでさえポピュリズム傾向が強く、権威主義的人間が多い日本で、アメリカのように公共交通を大切にしないようになると、社会のありようが大きく変わると考えられる。

 公共交通の維持は、この国と社会の維持に重要であり、そのためには鉄道の根幹である「安全第一」「定時運行」はなんとしても守らなくてはならない。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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