技能実習生の異業種への転職が可能に、「特定活動」への変更と次の雇用先確保が要件:雇用の維持が課題
法務省は17日、新型コロナウイルスの感染拡大による企業の経営悪化を受け、外国人技能実習制度のもと日本で就労する技能実習生について、特例として「特定活動」への在留資格の変更を認めると発表した。これにより技能実習生は、別の業種・職種の企業に転職できるようになる。申告は20日から受け付ける。
◇「特定技能」への移行を視野
法務省出入国在留管理庁(入管庁)は17日付で「新型コロナウイルス感染症の影響により実習が継続困難となった技能実習生等に対する雇用維持支援について」という書面を出した。
入管庁の担当者が17日、筆者に説明したところによると、今回の措置の対象となるのは、新型コロナウイルスの影響により解雇などをされ、技能実習の継続が困難となった技能実習生、特定技能外国人等。技能実習生が別の業種・職種への転職が認められるには、新たな受け入れ機関(受け入れ企業)を見つけた上で、申告することが要件となる。この際、監理団体が申告をすることが想定されている。
申告が認められれば、技能実習生は2019年4月に新設された在留資格「特定技能」の試験を受けることを前提とし、特定活動の在留資格が付与され、日本で1年間就労できるようになる。この際、「受入れ機関において特定技能外国人の業務に必要な技能を身に付ける活動」に従事できる。一方、その後に特定技能の在留資格を得るには、特定活動での就労期間中に、特定技能の試験のための学習をし、特定技能の試験に合格することが求められる。
また、新しい受け入れ企業に関しては、外国人技能実習制度で必須となっている監理団体の関与が不要になる。ただし、新しい受け入れ企業は外国人労働者を受け入れる体制があることが要件となる。受け入れ体制がない場合、特定技能の登録支援機関を利用し、受け入れ体制を整備することが要求されるという。
一方、技能実習生は通常、「技能実習1号」の在留資格で1年間、さらに試験を受けた上で「技能実習2号」の在留資格で2年間、「技能実習3号」で2年間の計5年就労ができる。今回の措置が適用された場合、対象となる技能実習生は在留資格が変更になるため、人によっては当初予定していた在留期間との齟齬が生じる可能性がある。特定技能の試験に不合格になれば、特定活動の在留期限が切れた後、就労を継続できないリスクも想定される。
入管庁の担当者はこうした状況に関して、「この特定活動での就労期間に関しては現時点では1年とするが、運用を見ながら検討していくことになるだろう」と述べている。
◇技能実習生の雇用維持が困難に
1990年代にスタートした外国人技能実習制度は、「発展途上国への技術移転」「国際貢献」という建前を掲げつつ、実質的に中国やベトナム、インドネシア、フィリピンなどアジア諸国出身の労働者を日本の産業部門に配置する制度として機能してきた。これまでに技能実習生の受け入れは拡大し、法務省の2020年3月27日付発表によると、2019年末時点で「技能実習」の在留資格で日本に滞在する外国人は41万972人に達した。 40万人を突破した上、前年からの伸び率は25.2%と2桁増を記録している。
外国人技能実習機構の資料によれば、技能実習生が就労できる移行対象職種・作業は2020年2月25日時点で、82職種146作業に上る。これには農業、漁業、建設、食品製造、繊維・衣服、機械・金属、家具製造、印刷、製本、プラスチック成形、塗装、溶接、工業包装、紙器・段ボール箱製造、陶磁器工業製品製造、自動車整備、ビルクリーニング、介護、リネンサプライ、コンクリート製品製造、宿泊、空港グランドハンドリングまで幅広い業種・作業が含まれる。この業種・作業をみると、日本の産業はもはや外国人技能実習生なしには成り立たないことが分かる。
そんな中、法務省が今回の措置に踏み切ったのは、新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う景気低迷を受け、雇用情勢が悪化するとみているためだ。
入管庁の担当者は、「技能実習生の雇用を維持することが難しいとの声が多数きているため、今回の措置に至った」と説明する。
◇制限された技能実習生の権利
外国人技能実習制度においては、かねて技能実習生に対する様々な人権侵害が起きてきた。職場において賃金の未払い、最低賃金を下回る残業代、身体的・精神的な暴力、セクハラ・性暴力などの問題が起きてきたことは、読者もご存じだろう。
中には、きちんとした受け入れをし、技能実習生を大切に扱う監理団体や受け入れ企業もある。しかし、違反行為は後を絶たない。
また、技能実習生は労働基準法の適用を受ける「労働者」であるにもかかわらず、その権利は制限を受けてきた。その最たるものが、原則として転職を認めないということだ。技能実習生は、外国人技能実習制度という国家がお墨付きを与える正式な制度のもと、正規の在留資格を持ち就労し、日本経済にとって欠かせない存在となっているのに、自由に企業を変えることができない。
転職は受け入れ企業に違反行為があるなど特別な場合においてしか認めらないだけではなく、同じ職種の受け入れ企業にしか移ることができない。別の職種の企業への移籍はそもそも認められてこなかった。
受け入れ企業に問題があり、同じ職種内で移籍する場合でも、新たな受け入れ企業を探すには手間と時間がかかる。通常、移籍を希望する技能実習生は受け入れ企業での搾取や人権侵害にさらされているケースが多い。そのような支援を緊急に要する場合でも、支援の現場では移籍先探しが難航することも多く、かねて課題となってきた。
◇より踏み込んだ支援が必須
今回の措置は、技能実習生の雇用維持という面ではプラスだ。ただし、新たな受け入れ企業を見つけた上で、監理団体による申告がなされることが前提となっているため、技能実習生は受け入れ企業、監理団体の協力を得る必要がある。言い換えれば、監理団体、受け入れ企業の協力なしには、技能実習生は行き場を失う可能性がある。
入管庁の担当者は、受け入れ企業、監理団体の協力を受けられない技能実習生に関しては、「外国人在留総合インフォメーションセンターや外国人技能実習機構に個別に相談してほしい」と説明する。
他方、筆者のこれまでの聞き取りでは、技能実習生が個人で外部に相談することは、容易ではないことが分かっている。
また懸念されるのが、技能実習生の中に借金を背負っている人が存在することだ。特に筆者が聞き取りをしたベトナム人技能実習生の場合、ベトナム側の営利目的の仲介会社(送り出し機関)に時に100万円に上る手数料を支払うことが一般的だ。そのために大半の人が銀行や親族などに借金をする。ベトナム人技能実習生は借金を背負い来日し、給与から借金を返済するというケースが多い。
技能実習生の賃金は各都道府県の最低賃金に近い水準であることが多い。賃金から家賃、水光熱費、社会保険料などを引かれると、場合によっては手取りが10万円を切ることも少なくない。ここから食費を中心に生活費として2万円程度を出し、残りは借金返済に振り向けるというのが、筆者の聞き取りした技能実習生の主なパターンだった。
技能実習生が次の受け入れ企業を探す際、受け入れ企業や監理団体の協力を受けられない場合、本人だけで対応するのは容易ではない。その場合、借金だけが残るという技能実習生や、借金は返したけれど貯金ができなかったという技能実習生が出てくる可能性もある。
このような事態を想定し、技能実習生の失職をはじめとする不利益を防ぐため、より踏み込んだ対応をすることが求められる。(了)