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イケメンというより二枚目。町田啓太が『SUPER RICH』で見せる令和に無二な存在感

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)フジテレビ

江口のりこのプライム帯の連続ドラマ初主演で注目の『SUPER RICH』(フジテレビ系)。彼女が演じる女社長を慕い支える役で町田啓太が出演している。様々な作品で見る人気俳優だが、“イケメン”というより“二枚目”がハマる存在感と演技スタイルは令和に貴重だ。

カッコ良すぎる演技が不要になった80年代

 “二枚目”の語源は歌舞伎にある。江戸時代の芝居小屋の前に置かれていた看板で一枚目に主役、二枚目に美男役、三枚目に道化役……と書かれていたのが由来。一般には、昔なら“ハンサム”、現在なら“イケメン”とほぼ同じ意味で使われている。

 芸能界では、昭和20年代から映画スターに使われることが多くなったようだ。『君の名は』の佐田啓二、東映任侠路線の高倉健、『太陽の季節』の石原裕次郎、『若大将』シリーズの加山雄三などが代表格。顔立ちもたたずまいもどこから切ってもカッコいい。大衆の憧れで、ある意味、浮世離れした存在だった。

 テレビが普及して娯楽の中心になると、田宮二郎、加藤剛、竹脇無我、草刈正雄といった銀幕スターの匂いを持つ二枚目俳優たちもドラマに進出。だが、70年代、80年代とテレビが生活に根差すにつれて、ドラマのテーマはより身近なものになっていった。『3年B組金八先生』のような教師モノ、三流大学生の青春を描いた『ふぞろいの林檎たち』、働く男女の群像劇『男女7人夏物語』などがヒット。そうなると登場人物として、周りに絶対いなさそうな二枚目は需要がなくなる。

 90年代にはトレンディドラマのブームもあり、今でいうイケメン俳優は次々と現れた。しかし、ひたすらカッコいい二枚目芝居は見られなくなっていた。木村拓哉の肩の力が抜けた、良い意味で軽さのある演技がひとつのスタンダードとなり、美形度の高い福山雅治や竹野内豊も隣りのお兄さん的な見せ方を身に付けていた。

『中学聖日記』での絶妙な非の打ちどころのなさ

 前述の昭和の二枚目俳優たちの輝きは、作品を今観ても色褪せない。だが、令和に再現するのは難しい。カッコいい俳優がカッコいいことをし過ぎると、キザに見えて鼻についたり、逆にギャグのようで滑稽に映ったりするはずだ。直球な二枚目はむしろキツくなったが、そこで町田啓太の立ち居振る舞いは絶妙に見える。

 スタンダードで端正な顔立ち。181cmでバランスもいい長身。折り目正しいたたずまい。大学時代にダンスサークルからLDHが運営するスクールでレッスンを受け、劇団EXILEのメンバーに合格しただけに、ちょっとした身のこなしにもスマートさを感じる。往年のスターにも通じる完璧な二枚目ぶりだが、ギリギリ現実感も保ち、令和に成立している。

 そんな町田啓太の持ち味がひときわ活きたドラマといえば、2018年の『中学聖日記』だろう。有村架純が演じた、教え子の中学生と恋に落ちる教師の婚約者役。エリート商社マンで、やさしくて大人の包容力も持ち合わせていて。非の打ちどころのない恋人を町田が体現したことで、それでも募る有村の教え子への想いを際立たせることになった。

 昨年の『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』では社内一のイケメンで営業部のエースという役を演じ、クールな裏で30歳・童貞の主人公への恋心が溢れるストーリーが国内外で話題を呼んだ。今年主演した『西荻窪 三ツ星洋酒堂』では小さなバーの美しい青年バーテンダー役で、カウンターにたたずむだけでも絵になっていた。劇中の悩みを抱えた客たちと同時に、視聴者も癒すような笑顔の接客を見せた。

ストレートな正統派ぶりが今の時代でも浮かない

 『SUPER RICH』では、江口のりこが演じる氷河衛が社長を務めるベンチャー企業の秘書・宮村空役。衛に想いを寄せていて、彼女よりひと回り年下の春野優(赤楚衛二)と恋敵の関係になるのは、図らずも『中学聖日記』と同じ構図になっている。

 空は仕事ぶりもスマートで物腰は柔らかく、スーツの着こなしも決まっている。衛をリスペクトしながら、経営難の会社へ融資を得るため、衛が不本意な提案を受け入れかけると、「やりたくないって僕には言ってください! 僕にウソはつかないでください!」と熱く訴えたりも。町田らしい正統派の二枚目ぶりが光っている。

 4話では、前の会社でひどいパワハラを受け、死のうとしていたところを衛に救われた過去も明かされた。いたたまれないほどの弱さも見せながら、過去を断ち切るために元上司と対峙。タコ殴りされたと赤く腫らした顔で、衛の手を握り「好きです。ずっと好きでした」とまっすぐに告白。そんな姿も純粋でカッコ良く映り、キザっぽく浮くことはなかった。

 世にイケメン俳優は多い。しかし、令和にストレートな二枚目演技をして、違和感なく形になる町田啓太は貴重な存在だ。4話では、衛が部屋に入ってきた空に「堅いな。高倉健か」と言うくだりもあった。単なる軽口だったが、若かりし高倉健の時代のスター俳優の系譜を、町田啓太は令和流にアレンジして継いでいるように見える。もちろん、本人はそんなことは意識してないだろうが。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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