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東北楽天の新星・西口直人が初勝利をマークする【アジア・ウインター・ベースボール2018レポート】

横尾弘一野球ジャーナリスト
今季、初登板を果たした西口直人は、アジア・ウインター・ベースボールで成長を目指す

 11月24日に台湾・台中市の洲際棒球場で開幕したアジア・ウインター・ベースボール(AWB)は、出場5チームがひと回りの対戦を終えた。CPBL(中華職業棒球連盟)選抜が4連勝し、イースタン選抜は3勝1敗、日本の社会人(JABA)選抜が1勝2敗1引き分けで続く。ウエスタン選抜は2敗2引き分け、KBO(韓国野球委員会)選抜は3敗1引き分けと、まだ初勝利を挙げられない。若手育成のリーグゆえ、チームの勝敗はあまり重視されないが、それでも好調のチームからはイキのいい新星が次々と飛び出す。

 イースタン選抜は、JABA選抜と対戦した第2戦で、2門の大砲が期待通りの炸裂。1点を追う6回表に三番の村上宗隆(東京ヤクルト)が逆転2ラン本塁打を放つと、追加点のほしい8回表には村上と四番・安田尚憲(千葉ロッテ)が2者連続弾で勝利の立て役者となる。そして、この試合で勝利投手となったのが、東北楽天の2年目右腕・西口直人だ。

 高校時代の西口は、知る人ぞ知るダイヤの原石だった。甲賀健康医療専門学校監督で、日米で実績を残した建山義紀(現・日本代表コーチ)や内野守備の達人・藤本敦士(現・阪神コーチ)を育てた藤本政男は、当時をこう振り返る。

「西口が在学していた山本高は同好会のようなレベルで、3年夏の大阪府大会も上宮太子高に一回戦で0-7のコールド負けです。ただ、西口のストレートは145キロ出ていましたし、コントロールもまずまず。何より、センターを守っていた時に、右中間のフライを捕球すると、ノーバウンドでバックホームしてきた。この地肩の強さには、度肝を抜かれました」

 その素質に目をつけた藤本に声をかけられ、甲賀健康医療専門学校へ入学するが、1年生の冬まではこれと言った成長が見られなかった。「このままでは素材のまま終わってしまう」と感じた藤本監督が「上から下まですべて」フォームを改造し、徹底して投げ込み、走り込みに取り組ませると、翌春にはプロ球団のスカウトが足を運ぶまでの力をつけた。そうして、2016年のドラフト会議では、全体のしんがり(87番目)となる東北楽天10位指名で入団。隠し球と話題になった。

チェンジアップの習得で7回まで2安打無失点の鮮烈デビュー

 プロの世界は、入団してしまえばドラフト順位は関係ないという。一方で、下位指名は上位に比べてチャンスが少ないのは確か、という声もある。西口はどうか。ルーキーとして臨んだ春季キャンプでは、遠投で見せたボールの質で首脳陣の関心を集めた。立ち投げでもスピンの効いた速球は唸りを上げたが、捕手が座ると制球面で経験の少なさが露呈したという。愛敬尚史スカウトは、西口の課題をこう明かす。

「ストレートの精度と、勝負できる変化球を何かひとつでも身につけること。それが西口の1年目のテーマでした」

 また、高校で本格的な練習を積み重ねていない分、甲賀健康医療専門学校で藤本が徹底した反復練習を課すと、すぐに肩や肘に痛みを訴えたという。張りと痛みの区別もできず、体力強化はプロに持ち越されていた。

 だが、2年目になって体力が備わると、いよいよ豊かなポテンシャルが花を開かせる。イースタンで4勝を挙げ、ペナントレース終盤に一軍へ昇格。9月30日のオリックス戦に先発で初登板すると、キレのいいストレートにチェンジアップを織り交ぜる投球で7回まで2安打無失点の好投を見せる。8回表二死から宗 佑磨に同点2ラン本塁打を許して降板したが、鮮烈なデビューはファンにも強い印象を残す。

 鉄は熱いうちに打て――フェニックス・リーグでもスキルアップに励み、さらにAWBへ。初登板は、自身が2年間揉まれた社会人の日本代表だったが、5回を2安打1失点、6奪三振となかなかの内容で白星を手にした。

「チェンジアップをマスターし、一軍レベルでも投げられるようになった。来年は、初勝利から3~4勝を目指し、ゆくゆくは先発ローテーションに定着してほしい。そのためにも、台湾でカーブをものにしてもらえれば」

 愛敬スカウトが描く未来図を上回る速度で前進する西口が、AWBでどこまで成長し、自信を得られるか楽しみだ。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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