島嶼防衛用「高速滑空弾」「新対艦誘導弾」の事前の事業評価
8月31日の記事「自衛隊の新兵器「島嶼防衛用高速滑空弾」とは」で紹介した自衛隊の新兵器開発予算「島嶼防衛用高速滑空弾」と「島嶼防衛用新対艦誘導弾」に付いて、新たに「防衛省・自衛隊:平成29年度 事前の事業評価」からより詳しい情報が公開されましたので、追加で解説を行いたいと思います。
実質上の本格的な巡航ミサイルである新対艦誘導弾に付いては、地上発射・艦載発射・空中発射の全てが考えられています。対地攻撃は一言も言及されていませんが、対地攻撃能力を付与されることはほぼ確実でしょう。また平成30年度概算要求との相違点は、添付された参考画像には機体上部の空気取り入れ口が見当たらなくなっている点です。
ステルス性を重視した場合、上空に居る敵の早期警戒機から見下ろされる場合では、ミサイルの機体上面に空気取り入れ口があるとレーダー波が反射しやすく不利なので、空気取り入れ口は機体下側に移すことが検討されているのかもしれません。
謎の多い「滑空弾」に付いてですが、防衛省の説明文には超音速とあり極超音速(マッハ5以上)という記述は有りません。すると諸外国が開発している長射程のブーストグライド兵器(極超音速グライダー)とは若干性格が異なる兵器という事になります。飛翔高度に付いては敵SAM(地対空ミサイル/艦対空ミサイル)では迎撃困難な高高度、添付された参考画像からも大気圏内での滑空であると見られます。
滑空弾は対艦用ではなく対地攻撃専用ですが、参考画像で注目すべき点があります。攻撃方法がマルチプルEFPなのです。マルチプルEFPとは一つの爆発体に多数のEFP(自己鍛造弾)のライナーとなる窪みを付けて、一度の爆発で多数のEFPを撃ち出す弾頭です。クラスター爆弾に近い効果を得られた上で不発弾の心配も少なく、規制条約にも触れません。
自衛隊は過去に短距離弾道ミサイルATACMSをアメリカから購入する寸前まで行きましたが、2007年に発覚した防衛装備品の汚職事件である山田洋行事件に巻き込まれて話は流れました。その後も2013年に短距離弾道ミサイルの国産開発の計画が産経新聞で報道されましたが、立ち消えになっています。島嶼防衛用滑空弾はその代わりとなるものなのでしょう。弾道ミサイルでも巡航ミサイルでもない、滑空ミサイルという新たなカテゴリーの兵器ですが、目指す役割は高速な長距離対地兵器であり、弾道ミサイルと同じ役目を果たすことが出来ます。