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禁錮30年の判決を受けたトップアーティストが歌った「モハメド・アリ」

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
(写真:ロイター/アフロ)

 ニューヨークの連邦地裁は現地時間6月29日、R&BのトップミュージシャンであるR・ケリーに「禁錮30年」の判決を言い渡した。ケリーの弁護団は控訴を表明したが、未成年者や女性への数々の性的暴行に及んだ罪に問われている。

 自らの立場を利用して、名も無き女性たちを性の捌け口としたケリーの罪は重い。ここ数年、声を上げた何人もの被害者がメディアに登場し、生々しいDetailでケリーに受けた恥辱を語っていたので、実刑は免れないと感じていた。

写真:Shutterstock/アフロ

 ケリーは現代社会に放たれた野獣そのものであるが、一方でモハメド・アリをモチーフとして歌った「The World's Greatest」は名曲だ。2016年6月3日にアリが74歳で鬼籍に入った際、そのニュースを報じたあるラジオ局が、バックに同曲を流した。

 2001年11月13日に世に出た「The World's Greatest」は、ケリー自身が作詞を担当した。

 以下のような内容である。一部を訳してみた。

I am a mountain, I am a tall tree

Oh, I am a swift wind sweepin' the country

I am a river, down in the valley,

Oh, I am a vision, and I can see clearly

俺は一つの山であり、背の高い一本の木であり、長閑な田舎を吹きぬける風、平野を流れる一本の川でもあって、ハッキリと目に留まる美しい景色だ

If anybody asks you who I am

Just stand up tall

Look 'em in the face and say

もし誰かに、俺が一体誰なのかと訊ねられたら、

しっかりと立ち上がって、彼らの顔を見ながら、言ってやれ

写真:Shutterstock/アフロ

I'm that star up in the sky

I'm that mountain peak up high

Hey, I made it

I'm the world's greatest

And I'm that little bit of hope

When my back's against the ropes

I can feel it, mmm

I'm the world's greatest

俺は空にある星で、高く聳える山だ。よぉ、俺は成し遂げた。世界で最も偉大な男さ。俺は人々にとって小さな希望であり、ロープを背負っても、感じることが出来るのさ。世界で一番偉大な存在なんだって

I am a giant, I am an eagle,

I am a lion, down in the jungle

I am a marchin' band, I am the people,

I am a helping hand, I am a hero

俺は巨人であり、鷲であり、百獣の王、ライオンであり、マーチングバンドでもあり、大衆でもあり、他者を救う一つの手でもあり、そしてヒーローだ。

If anybody asks you who I am

Just stand up tall

Look 'em in the face and say

もし誰かに、俺が一体誰なのかと訊ねられたら、

しっかりと立ち上がって、彼らの顔を見ながら、言ってやれ

写真:ロイター/アフロ

 超人気のR&Bミュージシャンが「The World's Greatest」を歌う度に、若い世代もアリの足跡に触れ、黒い肌の意味を問い掛け、反戦、反米を唱えたその姿を注視することに繋がる……非常に価値を感じさせる作品だった。

 「The World's Greatest」はメロディーやテンポも、私好みだっただけに、ケリーの素の顔については、ただただ残念でならない。

 今後、囚人服を着たケリーは、「The World's Greatest」を口ずさむことがあるのだろうか。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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