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ブランジェリーナも泥沼化。ハリウッドによくある長期の離婚争い

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
最初は親権だけだったが、お金の問題も浮上してきたジョリーとピットの離婚(写真:ロイター/アフロ)

 結婚なんて、紙切れ1枚。だが、それを破るのは、そんなに簡単ではなかった。今になって、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーは、それを思い知らされている。

 ジョリーがピットに離婚を申請したのは、2016年9月のこと。それから2年も経つのに、ふたりの離婚はいまだに成立していないばかりか、当初の冷静さを失い、泥沼の状態になってきているのだ。

 離婚申請当時、ジョリーはピットに金銭的援助をまったく求めず、単独親権だけを主張した。共同親権が一般的なカリフォルニアにおいては、これ自体が異常なことで、ジョリーの「子供たちの安全のため」という主張と合わさり、ピットは父親失格の悪者というイメージを塗りつけられることになっている。離婚調停の間にも、ピットが子供たちと会うに当たってはさまざまな条件が課せられた。

 子供たちを何よりも愛するピットにとって、これは本気で目が覚める出来事となったようである。子供たちに会わせてもらえるよう、ピットは完全に酒をやめ、裁判所の言うことに100%従った。そうなると、もう「子供たちの安全」に関する問題はなくなったのだからジョリーも満足なはずなのだが、彼女はピットが子供たちに会うのに制限をかけ続け、今年6月、裁判所から警告を受けている。

 さらに、ここにきてお金の問題も出てきた。

 ジョリーは先週、新しい離婚弁護士をふたり雇って、早く離婚を成立させてほしいと裁判所に改めて嘆願。その中で、ピットがきちんと養育費を払っていないため、過去に遡ってそれを払わせてほしいとも述べた。それに対し、ピットの弁護士は、ピットがこの2年に130万ドル(約1億4,400万円)もの養育費を払った上、ジョリーがL.A.の新居を買うに当たって800万ドル(約8億8,700万円)を出してあげたと反論。そもそも、早く離婚に決着をつけたいと連絡したのはピットの弁護士であるのに、ジョリーは戦略的に先に裁判所に訴えを出したとも述べている。

 さらに、ふたりの間には、アメリカのセレブやお金持ちの間では絶対的な常識である婚前契約(prenup)が結ばれていなかったという驚きの事実も、今になって浮上した。ふたりは2006年から事実婚状態にあり、2012年に婚約、2014年になってようやく正式な夫婦となっている。それだけ慎重だったのに、基本中の基本であることをやらなかったのはなぜなのか。いや、それだけ慎重に決めたからこそ、離婚はありえないと安心したのか。

 結婚していたのはたった2年だったが、一緒にいた期間が長かったことを引き合いに出して、ジョリーがもっとお金を取るべく闘おうとするならば、この争いはますます泥沼になっていく可能性がある。ジョリーが雇っていた離婚弁護士業界の女王ローラ・ワッサーが、今月になって彼女との仕事を辞めると言い出したのも、悪い予感をますます増長させる。ピットのほうも、ジョリーの新居に出した800 万ドルはあくまで貸した金であり、しっかり利子を取るとのことで、決して言いなりにばかりなってはいない。

 ジョニー・デップとアンバー・ハードの離婚も、prenupを交わしていなかったことから長い闘いになるかと思われたが、離婚申請から決着までは3ヶ月で、その4ヶ月後には正式に離婚が成立している。もっとも、たった1年の結婚に対し、7ヶ月かかったというのは、短くはない。

 ほかにも、ハリウッドには、離婚に何年もかかったケースが多数ある。たとえばキム・カーダシアンとクリス・ハンフリーズの結婚は72日だったが、離婚成立には1年半がかかった。アメリカはこれだけ離婚率が高いのだから、離婚はちょろいのだろうと思ったら、そうではないのだ。かわいさ余って憎さ100倍と言われるように、もう顔も見たくなくなった相手からは取れるものを全部もぎ取ってやろうとするものなのである。長期戦と化したハリウッドの離婚を振り返ってみる。

マライア・キャリーとニック・キャノン(結婚6年、離婚成立まで2年)

 ふたりは2008年に結婚。男の子と女の子の双子を授かるも、2014年に離婚申請がなされた。しかし、キャノンが離婚手続きを先に進めることを渋ったことから、なかなか成立しない。その間にもキャリーはオーストラリアのビリオネア、ジェームズ・パッカーと知り合い、婚約をする。彼との結婚を急ぐキャリーは、キャノンをせかし、2016年秋、ついに離婚成立に至った。だがその数日後、キャリーはパッカーから婚約を破棄されている。

 キャリーとキャノンは結婚前にprenupを交わしており、金銭面では揉め事がそれほどなかったとのことだ。親権は共同で、キャノンは子供たちのための口座に毎月5,000ドル(約55万円)を入れることが条件になっていると報道されている。

 

リチャード・ギアとキャリー・ローウェル(結婚10年、離婚成立まで4年)

 ローウェルはギアの2番目の妻(最初の妻はシンディ・クロフォード)。ふたりの間には息子ホーマー君がいるが、親権に関しては共同ということですぐに合意がなされている。だが、それ以外の件に関しては揉めたようで、ふたりは何度も裁判所に出廷し、ギアがパパラッチを傘で殴りつけたこともあった。離婚条件は明らかにされていないが、ギアは当時1億2,000万ドル(約133億円)の資産があったとのことと、ふたりの結婚期間が10年であることから、相当に払ったのではと推測されている。トム・クルーズがニコール・キッドマンと離婚した時も、クルーズは結婚期間が10年に満たないようにするためか、別居したとする日を実際より早く申請している。

 ギアは今年、33歳年下の3度目の妻とめでたく結婚をした。

チャーリー・シーンとデニス・リチャーズ(結婚2年、離婚成立まで1年半)

 リチャーズはシーンの2番目の妻で、彼のふたりの娘の母。離婚申請をしたのはリチャーズで、理由にはアルコール、ドラッグ、DV、女性問題、ギャンブルが挙げられていた。離婚申請後、シーンがリチャーズを殺すと言ったことから、リチャーズは裁判所に接近禁止命令を申請し、受け入れられている。シーンがアメリカのメディアに語ったところによると、離婚は、彼女が彼から毎月6万ドル(約665万円)と、それとは別に養育費として5万2,000ドルを受け取ることで決着したようだ。

 シーンは次にブルック・ミューラーと結婚し、息子をふたり授かるも離婚。シーンが素行の悪さから仕事を失う中、リチャーズとミューラーの元妻同士は結束し、シーンから養育費を確保しようとした。だが、今月、シーンは、収入の低下を理由に、養育費減額のお願いを裁判所に申請している。離婚成立から12年経っても、まだ話は続いているのだ。

アレック・ボールドウィンとキム・ベイシンガー(結婚7年、親権争いに7年)

 結婚は1993年。夫妻にはひとり娘アイルランドちゃんが生まれるも、2000年に離婚申請する。2年後に成立したが、問題はそれからだ。ベイシンガーが、裁判所の通達を無視し、ボールドウィンと娘が会うことを制限するようになったのである。親権をめぐる争いは悪化し、そんな中で、ボールドウィンが当時11歳だったアイルランドちゃんを汚い言葉で罵るボイスメールが浮上することにもなった。このボイスメールがメディアに露出された時、ボールドウィンは自殺を考えたと、後に語っている。

 アイルランドちゃんは現在22歳で、モデルとして活躍している。父娘の関係は、現在、良好とのことだ。ボールドウィンは2012年に現在の妻ヒラリアと再婚し、4人の子供を授かっている。

 離婚に長くかかっているほかの例には、アーノルド・シュワルツェネッガーとマリア・シュライバー、ベン・アフレックとジェニファー・ガーナーがいる。シュライバーがシュワルツェネッガーに対して離婚申請したのは2011年。だが、離婚はまだ成立しておらず、元夫婦は友好な関係を保っているようである。ふたりの結婚期間は25年。一方、アフレック夫妻は2015年6月に別居宣言。それから1年近く経って、ようやくガーナーが離婚申請をした。しかし、その後、何の動きもないため、このままだと離婚申請を却下するとの警告が、最近、裁判所から送られてきたようである。アフレックはすでに新恋人との関係を公にしている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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