「ケンタウロス」と呼ばれるオミクロン株亜系統BA.2.75は日本でも広がるのか?
7月頃から「ケンタウロス」と呼ばれる変異株BA.2.75がニュースで話題になっています。
このウイルスにはどのような特徴があるのでしょうか?また日本で拡大するリスクはどれくらいあるのでしょうか?
BA.2.75 通称ケンタウロスとは?
BA.2.75はオミクロン株の亜系統BA.2から分岐した変異株であり、SNS上では「ケンタウロス」と呼ばれています。ケンタウロスとは、ギリシア神話に登場する馬の首から上が人間の上半身に置き換わったような姿をしている半人半獣の種族の名前です。
ちなみにBA.2は今年の4月から6月くらいまで日本でも主流になっていた変異株です。
そして現在はBA.5という別の亜系統が主流になっています。
これらは全て同じオミクロン株の仲間ではありますが、少しずつ遺伝子の配列が異なることから、別々のウイルスとして区別されています。
このケンタウロスは、インドで広がっていることで世界から注目を集めています。
今世界中で広がっているオミクロン株亜系統であるBA.5を押しのける形でインド国内で広がっていることから、BA.5の次に世界で広がるのはこの「ケンタウロス」ではないかという懸念が広がっています。
このケンタウロスは、2022年5月にインドで最初に見つかって以降、世界28カ国ですでに見つかっており、日本でも見つかっています。
東京都では2022年7月に11株が報告されており、現在東京都でゲノム解析が行われている変異株のうち0.06%を占めています。
ケンタウロスはBA.5より感染力が強い?
ではこのケンタウロスはBA.5よりも拡大しやすい変異株なのでしょうか?
少なくともインドにおいては実際にBA.5よりも拡大してきていますし、インドでの変異株の分離状況からの解析では、ケンタウロスはBA.5よりも1.13倍広がりやすいという報告もされています。一時期は「BA.5の3倍」とか、完全に界王拳の世界に突入していましたが、現在はこれくらいの数値に落ち着いているようです。
ケンタウロスは、新型コロナウイルスの侵入門戸であるACE2受容体への結合力がBA.5よりも強いということが分かっており、このことが感染力の強さと関係している可能性はあるかもしれません。
とは言え、現時点でインドでは爆発的に感染者が増える状況ではないようです。同様に入院率や死亡率が急増しているということもなさそうです。
また前述の研究において、このケンタウロスという変異株は、BA.2に感染したハムスターが持つ血清の中和抗体でもBA.5と同等に十分に中和されず、またBA.5に感染したハムスターが持つ血清の中和抗体でも中和されませんでした。
要するに、この結果からヒトで起こることを予想すると、BA.2やBA.5に感染した人もケンタウロスには感染するかもしれない、ということになります。
基本的には、変異株は「それまでに広がっている変異株に感染した人が持つ免疫からも逃れて感染しうる」ものが優位になり置き換わっていく傾向にありますので、この結果からするとBA.5が広がったあとにケンタウロスが広がる可能性もありそうです。
しかし、ワクチンや過去の感染によって得られた免疫から逃れる、いわゆる免疫逃避の能力についてはBA.5とケンタウロスはほぼ同等であり、研究によってはむしろBA.5よりも劣るという報告もありますので、この辺りはまだ結論が出ていないところのようです。
今後、日本で広がる可能性は?
インドでケンタウロスが広がっている理由として、かつてのデルタ株が持っていた「L452R」という変異をBA.5が持っていることを挙げている専門家もいます。
つまり、デルタ株が最初に広がったインドではデルタ株に感染した人が非常にたくさんいたことから、デルタ株に対する免疫を持っている人が多く、このデルタ株に感染した人では共通する変異「L452R」を持つBA.5にもある程度免疫を持っているのではないか、という仮説です。
実際にワクチン接種後にデルタ株に感染した人の血清にはケンタウロスに対する中和抗体よりもBA.5に対する中和抗体の方が多く観察されました。
この結果からはデルタ株に感染した人では、BA.5よりもケンタウロスに感染しやすいということが推測され、現在インドで起こっていることが説明できます。
日本でのちょうど1年前の第4波においてデルタ株に感染した人は約100万人程度と推計されます。これは人口の100分の1未満となります。
一方、オミクロン株以降に感染した人は1400万人と比べ物にならないくらい多くなっています。
この違いによって、インドと日本とでケンタウロスの広がり方が変わってくる可能性があります。
ただし、この仮説についてもそもそも「ワクチン接種後にデルタ株に感染した人」という比較的少ない人のデータを根拠にしており、慎重に判断すべきという意見もあるようで、日本国内でケンタウロスが広がらないかはしばらく注意が必要です。
また、すでにケンタウロスの中にはL452Rを持つものが見つかっており、このようなケンタウロスはデルタ株に感染した人が少ない地域でもBA.5よりも広がりやすいという可能性もありそうです。
そんな中、アメリカやヨーロッパではBA.4から分岐したBA.4.6が少しずつ拡大しており、不穏な動きを見せています。
BA.5が広がっている地域の中で今後はっきりと拡大する傾向が見えてくれば、このBA.4.6も警戒すべき変異株となるでしょう。
国のサーベイランス体制として、このケンタウロスに加えて、BA.4.6も増加していくのかしっかりと見ていく必要があります。
いずれにせよ、私達一人ひとりができることに大きな変わりはありません。
こまめな手洗い、屋内でのマスク着用、会食時は少人数で短時間にとどめてできる限りマスク会食で、といったこの2年半で身についた基本的な感染対策をしっかりと続けていきましょう。
※大阪大学大学院医学系研究科では、新型コロナに感染したことのある方の後遺症の症状について継続的に調査を行っています。研究の詳細はこちらからご覧ください。これまでに新型コロナと診断されたことのある方は、こちらからアプリをダウンロードいただきぜひ研究にご協力ください。