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デンマークの哲学者が示唆する「将来への漠然とした不安」を解消させる方法とは?

ひとみしょう哲学者・作家・心理コーチ

この先ずっといまの彼氏と一緒にいることのなにが不安というわけではないけれども、しかし「なんか不安」。そんな悩み方をしている女性がいます。

さて、その「なんか不安」とはなんなのでしょうか。そしてそれはどのように解消すればいいのでしょうか。以下に一緒に見ていきましょう。

彼と話し合う、相手の親に会いに行く

当たり前のことですが、「なんか不安」なのであれば、その「なんか」を箇条書きにして1つ1つ問題をつぶしていくといいです、というのが、もっとも現実的が対処法でしょう。

たとえば、いまの彼と結婚した場合、彼のご両親と上手くやっていけるのだろうかという不安があるのであれば、彼の両親に会いに行くといいのです。

あるいは、彼の仕事の先行きが不安なのであれば、「あなたの仕事はあと何年ぐらい続きそうですか」とか「あと何年くらいいまの収入を続けられますか」などと問えばいいのです。

そうやって相手に問うことによって答えが返ってき、その答えをもとにさらに問う……ようするに普通の会話をすることによって漠然とした不安が消えるのであれば、それが最もいい方法でしょう。

しかし、それでも残る「なんとなく不安」という気持ちがあるからこそ、あなたはこの項を読んでおられるのではないでしょうか。では、それでも残るなんとなく不安という気持ちとは何なのでしょうか?

渡辺美里「言い出せないまま」

ところで、渡辺美里さんの曲に「言い出せないまま」という曲があります。ある女子に片思いをしている男子の、切ない恋心を描いている作品です。

彼は彼女のことが好きすぎて、というか彼女に憧れすぎていて、彼女と目が合っても本当に言いたいことを言えません。「彼女の心の中を覗いてみたい」「彼女を瓶に閉じ込めてずっと眺めていたい」と思っています。ようするに彼は、憧れにがんじがらめにされてどこにも行けないのです。

その行けなさが彼に、「彼女がふと遠くへ消えてゆくのではないか」という漠然とした不安をもたらします。つまり、彼女に対する憧れの気持ちが原因で、漠然とした不安を抱いてしまい、その不安を彼女に問うことができないのです。

彼女になんら憧れを抱いていない、ごくふつうの友だちであれば、彼はきっと彼女に、さらりとさまざまなことを問うことができるでしょう。「ねえ、きみは急にどこかに消えたりしないよね?」「きみは心の中で何を考えてるの?」「君のことを瓶に閉じ込めてずっと眺めていてもいい?」などとふつうに言えるでしょう。憧れの気持ちがあるからこそ、言えなさが生じ、その結果、漠然とした不安が次々に押し寄せてくるのです。

漠然とした不安とは言えなさのこと

つまり、将来への漠然とした不安とは言えなさのことなのです。彼に言いたいけれど言うことのできない問題、あるいは自分自身に問いたいけれど問うことのできない問題。それらの問題があなたの心に、将来への漠然とした不安をもたらしているのです。

では、どうすれば言えなさが解消されて言えるようになるのでしょうか?

同じことを違う言葉で繰り返すようですが、彼に対する憧れの気持ちを捨て去れば、将来への漠然とした不安が消えると言えます。あるいは、自分自身の人生に対する憧れを捨て去ることができれば、将来への漠然とした不安を解消させることができると言えます。

まず、彼に対する憧れについて具体例を挙げてお話しましょう。

たとえば、彼の経済力に惚れた結果、彼との結婚を検討している女性の場合、彼女は彼の経済力に憧れていると言うことができます。自分にないものを「下から上を見上げるかのように」眺める状態が憧れなわけですから、彼女は彼の経済力に憧れています。そういう彼女は、彼に対して具体的なお金の話を切り出せません。彼のふるまいから、「なんとなく彼は1億円くらい貯金を持っているだろう」などと頭の中で計算するだけです。すると当然のように「彼はいつまでお金持ちなのだろうか。結婚生活の途中で貧乏になったりしないだろうか」という漠然とした不安が押し寄せてきます。

この彼女は、彼の経済力に対する憧れを捨てて、彼と対等な目線でお金の話をする自分になる必要があります。あるいは、最初から対等な立場でお金の話をすることのできる男性(たとえば自分と同じ経済力の男性)とつきあうのがベターでしょう。

「なんか不安」を解消させる方法

次に、自分の人生に対する憧れについてお話します。たとえば、以前私のもとにカウンセリングに訪れたある女性は、町の子どもピアノ教室でアルバイトをしていました。彼女は自分の仕事にやりがいを感じていると言いますが、じつは心の片隅で世界的なピアニストに憧れていました。彼女は自分の実力や経済力の限界を熟知しつつも、できれば人生をやり直して世界的なピアニストになりたいとひそかに思っていたのです。つまり、彼女は自分の人生に対する憧れを持っていました。

そういう人の特徴は、言えなさをたくさん抱えている点にあります。自分が自分の人生に対して憧れを抱いている、すなわち人生を「下から上へと見上げている」わけですから、そこには当然、言うに言われぬ不安がたくさん含まれています。

その種の不安は、自分が憧れている対象について具体的に知ることでおおむね解消されます。たとえば、世界的なピアニストに憧れている人は、往々にして、世界的ピアニストのいい面しか見ていません。世界的ピアニストだって人の子ですから、年収が何億円もあればまったく知らない人が「私はあなたの親戚ですからお金をください」と言い寄ってきて大変だ、という事実を知りません。あるいは、友だちと遊んでいても絶えず10年先のコンサートの承諾をとりつける音楽プロモーターに追い掛け回されて「人気者も良し悪し」とため息をついていることを知りません。

つまり、この世の中には憧れるほどの人はおらず、みんな自分と同じ「ただの人」なのだという認識がないのが、憧れの気持ちを抱いている人なのです。

というわけで、将来への漠然とした不安を解消させる方法は、あなた自身が抱える言えなさをどうにかしましょう、となります。

ちなみに、今回も、おちこぼれの哲学の始祖であるキルケゴールの哲学をもとにお話しました。

哲学者・作家・心理コーチ

8歳から「なんか寂しいとは何か」について考えはじめる。独学で哲学することに限界を感じ、42歳で大学の哲学科に入学。キルケゴール哲学に出合い「なんか寂しいとは何か」という問いの答えを発見する。その結果、在学中に哲学エッセイ『自分を愛する方法』『希望を生みだす方法』(ともに玄文社)、小説『鈴虫』が出版された。46歳、特待生&首席で卒業。卒業後、中島義道先生主宰の「哲学塾カント」に入塾。キルケゴールなどの哲学を中島義道先生に、ジャック・ラカンとメルロー=ポンティの思想を福田肇先生に教わる(現在も教わっている)。いくつかの学会に所属。人見アカデミーと人見読解塾を主宰している。

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