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多発している高齢者施設クラスターに、今どういった対策が必要なのか

忽那賢志感染症専門医
(写真:イメージマート)

第6波の新規感染者数は減少傾向になっていますが、医療機関や高齢者施設のクラスターが多発しており、重症化・死亡する人が急増しています。

現場では今何が起こっているのでしょうか。

新規感染者数は減少しているが施設クラスターが増加している

新型コロナウイルス感染症の新規感染者数と死亡者数の推移(Yahoo!JAPAN 新型コロナウイルス感染症まとめより)
新型コロナウイルス感染症の新規感染者数と死亡者数の推移(Yahoo!JAPAN 新型コロナウイルス感染症まとめより)

日本国内の新規感染者数は1月下旬〜2月下旬にピークを迎え、現在は緩やかに減少傾向となっています。

一方で、1日あたりの死亡者数はまだ増加中であり、300人を超える日も出ています。

新型コロナでは重症者や死亡者は遅れて増えてくるため、新規感染者数がピークを越えた後もしばらくは重症者や死亡者は増える、というのはこれまでの流行でも経験してきたことです。

大阪府の第6波における死亡者の内訳(第70回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議資料より)
大阪府の第6波における死亡者の内訳(第70回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議資料より)

特に大阪府では連日数十人の死亡者が報告されています。

この内訳を見ると、医療期間関連、高齢者施設関連、が最も多くなっています。

第6波のクラスターの占める割合の推移(第70回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議資料より)
第6波のクラスターの占める割合の推移(第70回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議資料より)

大阪府では現在の陽性者に占める割合も、医療機関関連、高齢者施設関連だけで半分以上を占めている状況です。

つまり、現在の流行の場は市中からこうした施設クラスターへと移行している状態です。

デルタ株を主体とした第5波では、高齢者の2回のワクチン接種によってクラスター発生を最小限にすることができましたが、オミクロン株を主体とした第6波では再び医療機関・高齢者施設のクラスターの問題に直面しています。

高齢者施設では今何が起こっているのか

私の勤務する阪大病院のある吹田市では、依然から吹田市保健所と医療機関が連携して、感染対策の支援を行っています。

私自身もこの第6波になってから7つの医療機関・障害者施設・高齢者施設のクラスター支援に入っています。

第6波のクラスターは、

・施設数が多く、これまでにクラスターが発生していなかった施設でも発生している

・クラスターの規模が大きい

といった特徴が挙げられます。

多くの高齢者施設では面会を制限している施設が大半であることから、多くの場合スタッフの持ち込みが契機になります。

スタッフから周りのスタッフや入居者に感染が広がり、またさらにその二次感染者から周りに広がり・・・という拡大が起こっています。

特に高齢者施設でクラスターが発生しやすい理由として、

・入居者は、特に認知症があると、「マスクの着用が難しい」「部屋にとどまることが難しい」などの場合がある

・介護者は必ずしも感染対策の訓練を受けているわけではない

・施設によっては構造的に感染対策が難しい

などが挙げられます。

例えば、認知症のためにマスクを着けることができない入居者に、新型コロナに感染をした無症状の職員がケアをすることで感染しているということが見受けられます。

入居者の中に感染者が出た場合も、現在の逼迫した医療体制では容易に入院することもできず、施設内での療養を余儀なくされますが、その場合に感染者からさらに周りに感染が広がってしまう、という悪循環が起こっています。特にオミクロン株では感染者が1人見つかった時点ですでに周りに広がってしまっているということが多々あります。

さらに、本来は診断された軽症の時点でモノクローナル抗体や抗ウイルス薬などの適切な治療を受けることで重症化を防ぐことができますが、病院での治療を受けることが困難であり、また高齢者施設内でそういった治療を適切なタイミングで実施するのは困難なことから、重症化していく入居者が増えていっています。

高齢者施設クラスターの対策に必要なことは

前述の通り、現在の高齢者施設のクラスターの問題は、大きく分けて2つあります。

・感染対策が適切に行われないことで感染が広がっている

・治療が早期に行われないことで入居者が重症化している

この2つの問題を解決するためには、医療機関や診療所で勤務する医師や看護師が直接施設に赴き、

・高齢者施設での適切な感染対策(ゾーニング、個人防護具の着脱や健康管理の指導)を行ってさらなる感染拡大を防ぐ

・早期診断・早期治療を行い入居者の重症化を防ぐ

という2つのことが重要になります。

医療者だけでは高齢者施設の流行状況を把握することはできませんので、地域の流行状況を把握している保健所などの自治体と医療機関とが連携をして、こうした取り組みを行うのが理想的と考えられます。吹田市では以前から保健所と医療機関との連携が取れていることから、こうした医療者の派遣がスムーズに行われています。

第6波が今後落ち着いてくれば、今後起こると思われる第7波に向けてそうした高齢者施設への支援の体制整備を進め、また高齢者のブースター接種率をできる限り高めておくことが重要になります。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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