【これも反日?】韓国で小学生対象に「日本式表現を変えよう!」の冊子配布「欠席届」「敬礼」などが対象に
韓国慶尚南道の教育庁が、8日、地域の小学生対象のとある冊子の配布を発表した。
「欠席届」「敬礼」などの単語を学校で使うのをよそう。”日本式表現”だから――
そのタイトルは「学校内の日本式表現 こうやって変えよう」
全国版ではない、地方の小学校関連の小さな話題ながら国内最大のポータルサイト「NAVER」に11本の記事が掲載されるなど、注目を集めた。
どういうことかというと…。
冒頭の言葉は日本統治時代からの名残である「日本式」。漢字の言葉を韓国語読みにしただけ。だから韓国語式に言い換えようというキャンペーンだ。
「欠席届(キョルソクゲ)」→「欠席申告書(キョルソクシンゴソ)」
「敬礼(キョンレ)」→「人事(インサ)」※人事という言葉自体が韓国語では「あいさつ」の意味も持つ。
195ページの冊子にはこういった表現が333個収録されているという。
学校以外の場では「残業」「始末書」「真剣勝負」なども
では、この”日本式表現”とは何なのか。
「(日本統治時代の)日本語の残骸」
ともよく言われる。
今回、韓国社会でこの問題が提起されるのは初めてではない。
2019年8月16日(つまり日本統治からの解放記念日の翌日)に、「YTN」が国内大手の世論調査会社「リアルメーター」と共同で関連の世論調査を行った。
これを報じた同媒体の記事では「私たちが使う言葉や文章のなかには日本式表現が決して少なくはない」として次のようなものを挙げている。
・日本語の発音がそのまま用いられる言葉(→は韓国語式に改めるべき表現)
タマ→クスル(韓国固有語)
段取り→チェビ(同)
ゆとり→融通性
つまり、韓国語のなかにポロッと「タマ」「ダンドリ」という言葉がそのまま出てくるということ。
・そのニュアンスが残る言葉
エキス→真液
カラ(空っぽのニュアンス)→カチャ(韓国固有語)
・区別の難しい日本式の漢字語
古参→先任者
始末書→経緯書
仕様→性能
真剣勝負→最後の勝負
忘年会→壮年会
翌日→次の日
食費→ご飯代
残業→時間外業務
残飯→残った食べ物
筆者自身、この言語を専攻し、25年来使用する立場から思い出すエピソードがある。1999年に取材で(今回冊子が配布された)慶尚南道の巨済島という場所にかつてのサッカー選手を訪ねたことがある。取材場所に指定されたのは、当時ご本人が指導していたサッカー部のある小学校だった。
そこの校庭を訪ねたタイミングがちょうど休み時間だった。筆者(当時はまったく韓国には存在しなかった「ボンバーヘッド」=爆発頭だった)の姿を見つけるや、一人の子どもが校舎の3階の窓から大声で叫んだ。
「サシミ!」
するとぞろぞろと窓際に子どもたちが集まり、一斉に指さされながら、言われた。
「サシミ!」
「サシミ!」
子どもたちははっきりと日本語の「サシミ」と発音していた。
幾度も周囲の大人から日本という国について話を聞かされている田舎の子どもたち。そこに実物の日本人が現れた。思わず取ったリアクションが、知っている日本語を言うこと。
韓国語では正式には「フェ」というが、海の近い島にあって大人から「サシミ」という言葉を聞かされていたのだろう。筆者自身にとっては、まったく気分は悪くない、微笑ましい体験だった。同時に「こうやって日本語が伝わっていっているのだな」と感じたものだ。確かにソウルよりも今回冊子が配られた慶尚南道のほうが地理的に日本に近いため、”日本式表現”が多い印象だ。
世論調査では85%が「改めるべき」
この”日本式表現”が近年の韓国では問題視されているのだ。上で紹介した韓国メディア「YTN」の記事では、同社と国内大手の世論調査会社「リアルメーター」に依頼し、行った世論調査の結果が報じられた。
「日本式表現を直そうが”85%”…若くなるほど”一部だけ変更を”」
(同記事は映像ニュースでも報じられた)
調査の結果では、じつに85%が”日本式表現”について「大部分」もしくは「多くを」を変更すべきと回答したのだ。
逆の「今まで通り使ってもよい」という回答は8.9%だった。また20代の若い層のほうが「寛容」という結果だったという。
またそのいっぽうで、この調査では支持政党別での結果が分かれた点が興味深い。
左派・革新系の与党「ともに民主党」支持者のじつに95%が「日本式表現は問題と認識」と答えた。
右派・保守系野党の第一党「国民の力(当時は自由韓国党)」の支持者もまた73%と比較的高い水準を見せた。ただし一番強い「大部分を変更すべき」という回答項目選択者は22%と低め。逆に18%は「そのままでもいいのでは」と回答。平均の8.9%を大きく上回る数字となった。
革新層のほうが問題視しており、保守層のほうが寛容。そういう結果となったのだ。
”反日炎上おじさん”が最近噛み付く”日本式表現”は?
確かに「日本=帝国主義」として強い民族主義を打ち出す左派のほうが、この「日本式表現の変更」に強い姿勢を見せている。
この思想を強く持つ抗日抗争の遺族会「光復会」の会長、キム・ウォヌン氏が象徴的な存在だ。以前にも幾度か「反日演説」「炎上」の話題で紹介してきた。
氏は1992年に国会議員に初当選した後、韓国での小学校世代を「国民学校」としていた当時の名称を「初等学校」に変更させる議案を推進した。「国民」は日本統治時代から使うもので、「日本国民」を表しているのだと。
また氏が現在躍起になっているのは「幼稚園」の名称変更。
これもまた日本統治時代からの名称であり”日本式表現”というのだ…。
ちなみに北朝鮮では日本語のみならず、漢字を含めた外来語全般を「自国語化する」という運動がある。
(キム・ウォヌン氏。韓国メディアJTBC公式アカウント)
「言い換え」の現実的な難しさも…
こういった動きについて筆者は「それを探し出すのも困難」「言語というのは本来異文化と混じり合って成立していくものでは?」という意見だ。
たとえば上のYTNの原稿では次の4つの言葉が「日本的」として紹介された。
「真剣勝負」「猟奇的」「食傷」「曖昧」
韓国語読みでは「ジンコムスンブ」「ヨプキチョク」「シクサン」「エメ」。
日本でも「猟奇的」という言葉はそんなに使わない。これ、2001年に韓国で「猟奇的な彼女」という映画が流行し、もはや韓国でより多く使われているものだ。試しに日本語で”ググって”みても、この映画の話が目立つところに出てくる。筆者自身、この映画のタイトルを見て、「韓国には面白い漢字の言葉があるな~」と思ったものだ。
とはいえこの「日本的表現」、韓国内で「禁句」というわけでは決してない。
2013年、韓国でのラジオ出演時にこんなことがあった。
筆者が韓国語で普通に使われる「野菜(ヤチェ)」という単語を使った際、親しい友人の共演者から(40代男性)から冗談っぽくこう言われた。
「それ、日本式の言い方だからやめろ~ 蔬菜(チェソ)って言え~」
その時は韓国語ではっきりと「うるっさいわ。外来語が存在しない言語なんかこの世にあるのか?」と言い返して、これが冗談として通じる程度の話だった。
なにせ区別が難しいし、「コンジョー(根性)」といった言葉は、サッカー選手のインタビューでも時折出てくる。スラングのように浸透しているのだ。
現実的にこれを変えていくことの難しさは、今回紹介した「YTN」の2019年8月16日の記事にも記されている。
「光復(日本の植民地統治からの解放)から74年となりながらも、依然として使われている日本的表現。今回の調査を通じ”このままではダメだ”という世論を確認することができました。教育機関とメディアを通じ、何が日本式表現なのか、どんな問題があるのかを伝える役割が重要です。言語習慣とは一朝一夕で変化するものではないため、積極性とともに持続的な努力が要求されます」
今回の地方の教育庁の冊子配布もそうだが、雰囲気としては決して”反日言葉狩り”のように強い締めつけがあるものではない。いっぽうで韓国には「日本からの統治の記憶は決して忘れまい」と社会全体がアラートするタイミングが時折ある。日本にも「戦争の痛手」で同じくあるように。
今回の冊子配布は「大韓民国臨時政府樹立100周年記念」(2019年)で配布されるものだ。その一環ということ。ただし「左派の文在寅政権時代だから少々締め付けが厳しい」という面はあるか。
(了)