肥満は息切れのリスクを2倍にする 海外の研究結果から
肥満の人が息切れしやすいのは何となくイメージできると思いますが、これまで大規模な研究はほとんどありませんでした。オーストラリアから最新の研究結果を報告したいと思います。
その息切れ、グレードは?
呼吸器内科では息切れ(呼吸困難)の評価をよく行います。しかし、「Aさんの息切れは、見た目かなりしんどそうです」だと、客観的に伝わりません。
「あの人は走りが得意」では、どのくらい陸上競技ができるのか伝わりません。「100メートル走で〇秒」「長距離で■キロメートル走れる」などのように数値が必要です。
国際的に息切れを評価するときに使われるのが表のようなスケールです。グレード0からグレード4まであって、4が一番しんどいです。呼吸器内科診療では、グレード2以上を「病的な息切れあり」と判断します。
また、私のように中年のオッサンになると、階段をのぼると息がしんどくなることもありますし、息切れがあるイコール病気というわけではありません。
息切れを感じること自体は病気ではありません。非常に主観的なもので、同じくらいの運動量でもしんどい人とそうでない人がいるくらいですから。
肥満の人は息切れのリスクが2倍
オーストラリアの成人において「肥満の人は息切れしやすい」という興味深い研究結果が発表されました(1)。
この約1万人の調査によると、成人の28.1%が肥満に該当しました。この研究ではボディマス指数(BMI:体重[kg]÷身長[m]÷身長[m])が30超というのが肥満の定義です。日本の場合、肥満人口が増えているとはいえ、BMI30超はまだ人口の約5%に過ぎません(2)。
さて、この研究では、グレード2以上の息切れを感じている人は全体の9.5%という結果でした。
解析の結果、息切れ症状の原因の約4分の1が肥満で占められていることが分かり、肥満は息切れのリスクを約2倍にすることが示されました。
肥満の人が息切れしやすい理由
肥満になると、脂肪の厚みなどで肺が広がりにくくなります。内臓脂肪も多くなり、横隔膜が圧迫されます。また、気管支が狭くなってしまい、空気が通りにくくなります。肺の血管の圧も上がり、これらが相乗的に作用して息切れをもたらします(図)。
つまり、この先肥満人口が増えてくると、日本も息切れする人が増えてくる可能性があります。
BMI30超というのは、身長160cmの人で体重76.8kg超、身長170cmの人で86.7kg超です。この水準になると、息切れを感じやすくなるので注意です。
まとめ
息切れの存在は、労働参画の低下と関連することが示されており(3)、国の経済を維持する上で重要な障壁になっています。
酸素飽和度が低下した息切れには在宅酸素療法が適用されますが、肥満による息切れにおいては減量することが何よりの治療です。
(参考)
(1) 令和元年国民健康・栄養調査報告(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/r1-houkoku_00002.html)
(2) Guo YL, et al. Respirology. 2022; doi: 10.1111/resp.14400.
(3) Clark J, et al. BMC Pulm Med. 2022; 22(1): 93.