大ヒット中の「艦これ」は、戦争を知らない中国・台湾の若者世代にも大人気って本当?
昨年4月にサービスが開始されたオンラインゲーム「艦これ」を知っているだろうか?えっ、まだ知らない? だとすれば、ぜひ周囲の10代後半~40代くらいまでの人々に聞いてみるといい。中にはその説明をスラスラとしてくれる人もいて、きっとびっくりすることだろう。「艦これ」は今や若者やゲーム好き、オタクの人々の間で大人気なのである。
「艦これ」とは「艦これくしょん」の略。詳しくは、こちらに絵と説明があるので見ていただきたいが、旧日本帝国海軍の艦船を「萌えキャラクター」に擬人化したゲームのことで、いわば「美少女」と「艦船」を一体化したもの。
ミリタリー系が人気
こう説明しても、ゲームをやったことがない人からすれば「何のこと?」と頭の中にクエスチョンマークが浮かぶだろうが、要はこの美少女たち―艦娘(かんむす)―をゲームの中での海戦を通して育て、敵と戦っていくゲーム。日本に実在した艦船の特徴、背景などが題材になっている。昨今は「戦車道」なる世界を描いたアニメ「ガールズ&パンツァー(ガルパン)」など、同じくミリタリー系の遊びも人気だ。
私の友人は地下鉄の中で、高校生の男の子たちがさかんに艦船の名前を挙げて「島風がさぁ…」「あの金剛の…」と固有名詞を挙げながらおしゃべりしていたので「一体、なにごと?」とびっくりしたと話していたが、あとで「艦これ」人気について知り、「あ、そういうことだったのか」と納得したという。知り合いの子どもは現在大学生だが、毎日のように「艦これ」に夢中になり、アルバイトに行く時間も忘れてしまうほどだとか。艦船模型や「艦これ」関連グッズ、関連本なども売れている。
なぜ今、ミリタリーブーム?と首をかしげるところだが、若い世代にとって、艦船は過去の戦争の歴史を彷彿とさせるものではなく、まったく新しいカテゴリーで新鮮なものだ。フォルムがカッコよく、初めて見るその姿に好奇心をそそられるらしい。ファンたちにとってはまるでAKB48のように、それぞれの「艦むす」を個性のある美少女として見ており、美少女について語れるだけでなく、艦船一隻一隻の歴史などについても“熱く語れる”ものになっているところが魅力のようだ。こうしたことが急激にファン層を拡大させている。
中国でもじわじわと「艦これ」がブームに
その勢いは日本国内にとどまらない。今春、私は中国に取材に行って、現地でも日本の「艦これ」ブームが巻き起こっていると聞いて仰天した。日本国内でならともかく、なんと中国で、だ。たかがゲームとはいえ、戦争で戦った相手の国の艦船に興味を持つとは、どういうことなのだろう?
私は南京や上海で取材をしてみた。20代の会社員の男性は「ええ、知っていますよ。夢中になっている友だちもいます。友人には絵を書いている人もいます。日中の歴史のことはもちろん知っていますけど、それとこれとは関係ない。絵がきれいで楽しいし、日本のものは何でも憧れているんです」と答えてくれた。その友人もまた、「艦これ? はい、大好きです。日本のアニメもよく見ます」と頬を赤らめる。
彼らは毎日インターネットを通じて日本の情報を入手しており、ゲームやアニメ、AV、ドラマなどもすべてネットで見ている。日本に行ったことがなくても、日本の食べ物、観光スポットなどについても「耳年増」で、とても詳しい。昔と違い、中国の若者が知りたいことは、(一部、政治的な問題を除いて)かなりネットで情報が得られる時代になった、といっても過言ではない。
私はたまたま2000~3000人規模の同人イベント(=冒頭の写真)に行く機会があり、その会場で並べられている若者手作りのアニメ・グッズ(キーホルダー、ノート、メモ帳、クリアファイルなど)を見て回ったのだが、そこでも中国人の若者が描いた「艦これ」のイラスト集などが当然のように販売されていた。上海に住む友人によると、今や中国各地でアニメ・ゲームなどの同人イベントが行われており、小規模のものでも2000人、多ければ数万人単位でオタクの若者が集まってくるという。日本人のアニメ関係者、DJなどが招待されることもある。
イラスト集を販売していた若者によると「今日ここで売りきれなくても、また別のイベントに行って売りますので。自分で描いたものだから、ぜひ多くの人に見てほしい」と話していた。彼は片言の日本語を話したが、日本に行ったことは一度もなく、「いつか行ってみたい」と目を輝かせながら話していた。
イベントではグッズを販売したり、ゲストがステージで歌を歌ったり、コスプレーヤーたちがコスプレして、写真撮影などが行われる。多くが日本のアニメやゲームに関連したもので、「日本」の人気ぶりに、逆にこちらのほうが驚かされる。戦争の歴史? 戦車? そんなものは彼らにはまったく関係ない。大人が心配する愛国教育などそっちのけで、日本のものを受け入れ、心から楽しんでいる人々が一部に存在するしているのは現実の現象なのだ。
たとえ題材が旧日本軍関係であっても…
こうした動きは台湾でも同様で、今春、台湾・台北で行われたイベントも大盛り上がりを見せたという。日本人で同イベントに参加した人も多く、台湾人オタクと「艦これ」の話題で盛り上がったようだ。台湾ではもともと日本文化に対する愛着と理解があり、日本のサブカルチャーが広まる土壌はすでにあったといえるが、やはり中国同様、題材が旧日本軍関係であることを考えると、感慨深い。
一定の年齢以上、しかもオタクではない人々から見るとぎょっとしてしまう光景だが、今日もお気に入りの艦船を巡って、日中台の若者たちが熱いゲーム話を繰り広げていることは確かだ。精緻でかわいらしい美少女の絵と艦船の深い歴史、そのスペックに対するこだわりに、余計な詮索は必要ないのかもしれない。絵画や音楽と同様、「艦これ」に夢中になる人々の間にもはや“国境”はないのだ。