「加熱式」で「大儲け」するタバコ会社:どうなる加熱式のタバコ税
日本では軍事費増額の財源として、タバコ税の引き上げが検討され、紙巻きタバコよりも税額が低い加熱式タバコへの増税が与党税制調査会などで議論されている。加熱式タバコのタバコ税は安いが、増税の根拠はあるのだろうか。
日本のタバコ税制はどんなレベルか
世界では、タバコ関連疾患によって毎年800万人が死んでいる。WHOは、こうしたタバコによる負担額は世界で毎年1兆4000億ドル(約210兆円)となると試算し、新型コロナのパンデミックから世界が立ち直るための一つの方策として、タバコ税を上げることで喫煙率を減らし、それによって医療資源への負担を軽減し、税収増によって国家財政にもいい効果があると主張している。
また、喫煙率を減らすことは、喫煙者や受動喫煙の被害者の命と健康を守ることにつながる。例えば、タバコ税を上げると新生児と乳幼児の死亡率が下がることがわかっている(※1)。タバコの税率を上げると特に若年層で喫煙率が下がるが(※2)、タバコ税制はシンプルであるべきで、全てのタバコ製品に対して同じ方法で課税するほうがいい(※3)。
では、日本のタバコ税制はどうだろうか。
日本のタバコ製品の種類は、紙巻きタバコ、葉巻タバコ・パイプタバコ、刻みタバコ(噛みタバコ、嗅ぎタバコ)、加熱式タバコがある。紙巻きタバコの場合、20本入り580円の製品ではタバコ税と消費税で357.61円となり、小売価格に占める税の割合は61.7%だ。
世界各国のタバコ税制を評価するスコアがある。これは米国イリノイ大学シカゴ校の研究グループが出しているもので、タバコの価格、一般的なタバコ価格の変化、タバコ税の構造、小売価格に占める税の割合を指標として5段階で評価する。これによると、日本のタバコ税制は決して自慢できるものではない。
加熱式タバコの税制は
これはタバコ税制全般に対する評価だが、現在、日本では軍事費増額の財源として、タバコ税の引き上げが検討され、紙巻きタバコよりも税額が低い加熱式タバコへの増税が与党税制調査会などで議論されている。
では、加熱式タバコは、どれくらい紙巻きタバコより安い税額なのだろうか。
加熱式タバコの課税方式は、従来の重量と小売価格(紙巻きタバコ1本平均約20円を加熱式タバコ0.5本に換算=1本が約10円相当)を1:1の比率で紙巻きタバコに換算される方法を採り、これを5年間の経過措置を設けて1/5ずつ重量制から小売価格との併用制にシフトさせていく方法で増税してきた。
加熱式タバコの課税はちょっと複雑で下の図のような仕組みになっている。
加熱式タバコは、デバイスではなくタバコスティックに課税される。現在(2023/11/20)、加熱式タバコのタバコスティックは、主にアイコス(フィリップモリス)用にテリア、センティアが、グロー(ブリティッシュアメリカンタバコ)用にラッキーストライク、ネオ、ケントが、ウィズ(旧プルーム、日本たばこ産業)用にメビウス、リル(韓国製でフィリップモリスが販売)用のスティックとリキッドがあり、それぞれフレーバーごとに多種多様なラインナップとなっている。こうしたスティックの種類により、課税対象重量が異なることで税額も変わってくる。
上記の国税庁の換算によれば、20本入り1箱では総じて加熱式タバコは紙巻きタバコよりも安いタバコ税額になっている。例えば、アイコス用テリアは20本で紙巻きタバコ15本相当、グロー用ケントは20本で紙巻きタバコ11本から14本相当、旧プルームテック用メビウスレギュラーが20本で10本相当で、紙巻きタバコに対する割合で1/2から4/5の税額となる。
タバコ会社は加熱式で大儲け
このように、加熱式タバコに対する税額は、種類によって多様で複雑だ。タバコ会社は、紙巻きタバコの低価格帯を含む新製品をどんどん出してきて、算定方法をより困難にしようとしている。財務省は、加熱式タバコの種類を制限して標準化させるよう、タバコ会社を指導するべきだろう。
一方、タバコ会社はグローバル化し、世界中で自社のタバコ製品を売っている。例えば、JTI(日本たばこ産業)は依然として経済制裁対象国であるロシアでタバコを売り続け、莫大な利益を上げている。こうしたグローバル化したタバコ会社は、各国のタバコ税制を巧みに利用しつつ、各国の喫煙者の傾向、小売価格、為替差益などを調整しながら多国間での利益移転をしている(※4)。
ところで、加熱式タバコを製造販売する各社の競争が激化し、加熱式タバコで世界でも主要な市場である日本で加熱式タバコのデバイスやスティックの価格引き下げが起きている。だがその一方、加熱式タバコ市場をリードするフィリップモリスは、アイコスの値段を下げていない。
すでにシェアを占めている余裕なのだろうが、これだけ加熱式タバコの喫煙者が増えてくれば、紙巻きタバコの増税分を吸収するくらいの利益を上げられることになる。実際、加熱式タバコのアイコスの場合、テリアは600円、センティアは550円、紙巻きタバコのマールボロは600円、ラークは540円、とほぼ同じ価格だ。
もしも加熱式タバコの有害性が低いなら、価格も紙巻きタバコより低く設定し、紙巻きタバコの喫煙者をシフトさせるべきだろう。だが、フィリップモリスはそんなことはしない。なぜなら、加熱式タバコの純利益は、紙巻きタバコより4倍も多いからだ(※5)。
タバコ増税とタバコ価格の値上げにより、紙巻きタバコの販売本数は減っている。だが、上のグラフのように全体の販売代金、つまり収益は減ってはいない。
むしろ、加熱式タバコの販売代金は伸びているので、紙巻きタバコよりも利益の多い加熱式タバコの伸びによって、タバコ会社は大儲けしていることになる。
ただでさえ、日本のタバコ価格は安い(※6)。1箱だいたい600円前後だが、欧米(ドイツ約1200円、フランス約1600円、オーストラリア約3800円)に比べると、まだまだタバコ税を上げられる。今回の税制改正では、加熱式タバコへの増税が議論されているが、以上のことを考えれば、加熱式タバコも紙巻きタバコと同じ程度になるようにタバコ税を上げるべきだろう。
※1:Marta K. Rado, et al., "Cigarette taxation and neonatal and infant mortality: A longitudinal analysis of 159 countries" PLOS GLOBAL PUBLIC HEALTH, doi.org/10.1371/journal.pgph.0000042, 16, March, 2022
※2-1:Jolene Dubray, et al., "The effect of MPOWER on smoking prevalence" Tobacco Control, Vol.24, 540-542, 9, December, 2014
※2-2:Luisa S. Folr, et al., "The effects of tobacco control policies on global smoking prevalence" nature medicine, Vol.27, 239-343, 21, January, 2021
※3:Michelle Scollo, J Robert Branston, "Where to next for countries with high tobacco taxes? The potential for greater control of tobacco pricing through licensing regulation" Tobacco Control, Vol.31, 235-240, 3, March, 2022
※4:Aaineb Danish Sheikh, et al., "Tobacco industry pricing strategies in response to excise tax policies: a systematic review" Tobacco Control, Vol.32, Issue2, 9, August, 2021
※5:Estelle Dauchy, Ce Shang, "The pass-through of excise taxes to market prices of heated tobacco products (HTPs) and cigarettes: a cross-country analysis" The European Journal of Health Economics, Vol.24, 591-607, 23, July, 2022
※6:Masao Ichikawa, Takahiro Tabuchi, "Are Tobacco Prices in Japan Appropriate? An Old but Still Relevant Question" Jounral of Epidemiology, Vol.32(1), 57-59, 16, October, 2021