亀海喜寛が米国でビッグマッチ、あの村田が「日本史上最大の試合」と期待
元日本スーパー・ライト級、東洋太平洋ウェルター級王者の亀海喜寛(帝拳)が8月26日、米カリフォルニア州カーソンのスタブハブ・センターで、元4階級制覇王者のミゲール・コット(プエルトリコ)とWBO世界スーパー・ウェルター級王座決定戦を争う。現地時間5月31日、ロサンゼルスで開かれた記者会見に両選手が顔をそろえ、早速フェイスオフを披露して前景気をあおった。
世界屈指の人気と知名度を誇るコットの相手に亀海が抜擢された。これがいかに大きな意味を持つのか。5月20日のWBA世界ミドル級王座決定戦で、日本人金メダリストとして初の世界王者、日本人として2人目のミドル級世界チャンピオンを目指し、不可解判定に泣いた村田はフェイスブックで次のように表現した。
「こんな心躍るカードが決まるなんて、正に日本人史上最大の試合かもしれません」
村田にこう言わしめる理由は、この試合が世界的にも層の厚い、つまりは日本人には難しいと言われるスーパー・ウェルター級(ミドル級の一つ下)の世界タイトルマッチであること、そして対戦相手が当代のスーパースター、ミゲール・コットだからに他ならない。
コットは1試合で10億円以上稼ぐ世界屈指のスター
コットはデビューからアメリカを主戦場とし、2004年に初めて世界チャンピオンになってからスーパー・ライト級王座を6度、ウェルター級王座を4度、スーパー・ウェルター級王座を2度防衛した。優れたテクニックと攻撃力で好ファイトを連発し、トップスターのマニー・パッキャオとは09年、フロイド・メイウェザーとは12年、サウル“カネロ”アルバレスとは15年に対戦。いずれも敗れはしたものの、ペイ・パー・ビューの売り上げは大きく、1試合で10億円以上のファイトマネーを何度も稼ぎ出している大物ボクサーなのだ。
この話を最初に海外の関係者から聞いた亀海は「何言ってんだこいつ。夢見るのもたいがいにしろ!」と我が耳を疑ったという。それほどコットは別格というわけだ。
日本で敵なし、アメリカで実力磨く
亀海は北海道出身の34歳。札幌商業高(現・北海道学園札幌高)でインターハイ優勝、帝京大学に進学後は国体と全日本選手権を制するが、前出の村田などに比べれば、アマチュア時代の注目度はそれほど高くはなかった。
2005年のプロ転向後は連勝を重ね、10年に日本スーパー・ライト級王座を獲得。自らトランクスに記した“マエストリート(小さな教授)”というニックネーム通り、頭脳的と評されるボクシングで国内敵なしを証明した。
無敗のまま満を持して11年に米国進出を果たすが、そこからの道のりは平たんではなかった。2戦目で引き分け、3戦目でプロ初黒星を喫し、これまでアメリカで残した戦績は3勝3敗2分。それでも亀海は持ち前の頭脳的なスタイルに、前に出て相手をつぶしていくような攻撃力を加え、徐々に「亀海の試合は盛り上がる」というイメージを本場のファンに浸透させていく。
昨年の試合が年間最高試合にノミネート
その結果、昨年4月にドローに終わったヘスス・ソト・カラス(メキシコ)との一戦は、全米ボクシング記者協会が選ぶ年間最高試合賞にノミネートされるほどの反響を呼んだ。知名度のまだまだ低い亀海がコットの相手に抜擢されたのは、アメリカで地道にファンの信頼を獲得した結果なのである。
とはいってもコット戦が決まり「亀海ってだれだ?」の声が聞こえてくるのも事実だ。拳を交えてきた相手、踏んできた舞台の大きさから考えれば、あくまでこの試合はコットの1年9か月ぶりの復帰戦にすぎないだろう。しかし亀海が、いままでの日本人選手であれば、決して手にすることのできなかった大きなチャンスを、自らの手でつかんだのは紛れもない事実。日本のボクシング界にとって大きな一歩が今、踏み出されようとしている。
亀海は「コットは世界チャンピオンになる前から見ていて、憧れの選手だった。でも今は勝つイメージしかない。アップセット・オブ・ザ・イヤーを狙う」と力強く宣言。コットもキャリアの総仕上げの段階にきているだけに、亀海の世界を驚かせる“番狂わせ”に期待せずにいられない。勝てばまさにアメリカン・ドリームだ。