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移住、キャリア、家族の時間…「やまなし農業女子」の挑戦 #令和に働く

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
やまなし農業女子のインスタグラムから(スクリーンショット)

「農業女子」という活動があると聞き、知りたくなった。東京駅近くのKITTEで8月に開かれたイベント「南アルプス市をもっと。」に、「やまなし農業女子」代表の片山京子さんが登壇した。東京でのキャリアを経ての移住や、農業という働き方について、お話を伺った。

 農林水産省によると、「農業女子プロジェクト」は、女性農業者が日々の生活や仕事、自然との関わりの中で培った知恵を様々な企業の技術・ノウハウ・アイデアなどと結びつけ、新たな商品やサービス、情報を創造し、社会に広く発信していくプロジェクト。今年、設立から10周年を迎え、全国でメンバーは1000名を超えた。
 山梨では、行政主催の講習会に集まった農業女子メンバーから、「与えられた場ではなく、活動の場を作りたい」と声があがり、2019年「やまなし農業女子」の活動を立ち上げた。

キャリアを積む中で感じた矛盾

 「やまなし農業女子」代表の片山京子さんは、神奈川出身。損保会社のSEとしてキャリアを積み、定年まで働こうと思っていたが、東日本大震災を経験した。どう生きていこうか考え、2017年に祖父が農業をしている南アルプス市へ移住した。

 SEの仕事が本業ながら、社内の人材育成や、人事関連の仕事も手がけていた片山さん。多くの企業で多様性が重視される近年、片山さんの勤めた会社でも、ダイバーシティ推進の真っ只中だった。

 「私は1999年入社で、子育てなどの理由で辞めてしまう女性が多かった時期。会社に、辞めないための制度を作るよう言われて、いろんな制度を作り、後輩の育成をしました。

 そうやって会社の中のカルチャーを変えていき、頑張っていたのに、入社した後輩に『お茶くみは、私の仕事ですか?』と言われて。そういう認識があることが、衝撃でした」

社内で努力しても、社会全体の課題は変わっていないのではー。片山さんは複雑な思いを抱えながら、「お茶くみなんて仕事は、ないよ」と伝えた。

 また、他社の人たちと一緒に、キャリア教育の勉強をした。社会に対してのアプローチが必要だと思い、視野を広げていった。

震災「お金はあるのに食べ物がない」

 2011年、東日本大震災が起きた。片山さんは、生き方を考えさせられた。

 「急に農業をやろう、山梨に行こうとはならないですよね。お金は会社勤めをしていて、十分ある。震災後に、お金があるのに食べ物がない、その事実に、無力感を感じました。

 そこから、食にすごく興味を持ち始めた。私は、すももが好きなんです。おじいちゃんが南アルプス市で作っていて。おじいちゃんの跡継ぎではなく、馴染みの土地ではあるけれど部外者として、この場所がいいかなと思って。

 夫と話し合い、農業をするために7年前、南アルプス市に移住しました。全く何もわからない状態でした。山梨県には農林大学校があり、農業を一から学ぶことができるので、そこに夫は通って、私は地域の地盤を築き、2人で進めました。

農業って、地域の中に溶けこまないとできないことがたくさんある。移住して、地域の皆さんに助けてもらいながら、今に至ります」

南アルプス市のイベントに並んだ野菜や果物(提供写真)
南アルプス市のイベントに並んだ野菜や果物(提供写真)

仕事、人生を子どもに見せられる

 片山さんは、きゅうりととうもろこしを中心に農業に従事する。

 「南アルプス市は山梨の中でも、果物も野菜も育てられる。上の方はフルーツの地域で、下の方は甲府盆地の底みたいなところで、山の水が全部集まってくる。私達は地下水をくみ上げて、それを使ってきゅうりを育てています」

 移住して良かったことは、おいしいものが多い地域ということだ。

 「でも一番は、自分が好きなこと、自分の選んだ人生、自分で生きているっていう実感を、子どもたちに見せられることです。

 あとは、家族の時間がたくさんあること。農業はとても忙しいですけど、家族で過ごす時間が増えたのが良かった。今はお父さんお母さんが、どういう仕事をしているのかわからない子が多いと思います。自分たちの背中を見せつつ、育てられます

商業施設「fumotto南アルプス」(公式サイトより)
商業施設「fumotto南アルプス」(公式サイトより)

地域の人とのつながりが大事

 移住した仲間の中で、活躍している農家に共通しているのは、地域の人とのつながりを大切にしていることだという。

 片山さんが代表を務める「やまなし農業女子」のメンバーは、多様な背景を持つ。ぶどう農家を継いだり、看護師として勤務しながら夫の農業のサポートをしたり、新規就農したり。

 町の中心に2024年、商業施設「fumotto南アルプス」ができて、ワークショップの時間帯だけ、畑から出てきて集まる。果物の食べ比べでは、お皿からあふれんばかりの大盛りをサービス。食べる人と作る人の距離を、縮めるようなイベントをしている。

 「私は新規就農で、しかも移住前に元々仕事を持っていたので違和感なく、どんどん外に出ていける。けれど、母親やおばあちゃんに囲まれ、地元で育った女性は、なかなかカラを破れないようです。

 ちょっとお茶をしに行くのも遠慮して、買い物に行っても、すぐに戻らないといけないみたいな、お嫁さん的な立場です。そんな中で、農業女子の活動を始めて、お父さんお母さんが、行ってきなって言ってくれる。メディアにも取り上げられ、農業女子の活動だったら、と集まりやすくなりました」

 「やまなし農業女子」の活動としては、

・ビジネスをして自分たちが成長していく

・イベントやマルシェに出店する

・企業や大学とコラボ

・学び合いと情報ネットワーキング

 等を行う。それぞれに農業を頑張っていこうというモチベーションを上げ、知りたいことを気軽に聞ける場だ。感じたことを共有し、疑問や不安、怒りもポジティブな形で提示する。

農業のこと、子育てのこと、何でも相談できる心の支えでもあります」(片山さん)

南アルプス市のキャラクター・かいまる(提供写真)
南アルプス市のキャラクター・かいまる(提供写真)

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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