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グアルディオラの苦言。世界最高サッカー選手はベルナルド・シウバか?

小宮良之スポーツライター・小説家
『TheBest』の選考を巡り、物議を醸したシティのグアルディオラ監督(写真:ロイター/アフロ)

「(発表された)10人の候補選手が賞に値しない、と言っているのではない。ただし、プレミアリーグから5,6人の選手が選出され、我々はそのタイトルを取っているのにもかかわらず、一人もノミネートされなかった。たぶん、UEFAチャンピオンズリーグ(以下CL)の決勝までの7試合だけが重要なんだろう」

 7月末に発表された『The Best』(FIFA年間最優秀選手賞)のノミネートについて、マンチェスターシティのジョゼップ・グアルディオラが皮肉っぽく批判を浴びせたことが話題になった。指揮官としては、「CLはベスト8止まりも、リバプールと歴史に残る激闘に勝って連覇したプレミアでの戦いへの評価が低すぎる」という憤りがあるのだろう。コメントの中では、とくにポルトガル代表MFベルナルド・シウバを推している。

グアルディオラの言い分と現実

 グアルディオラの批判は、当たらずとも遠くはない。年間最優秀選手と言いながら、CLを取れたか、もしくはそれに近い成績が選出条件になっているのは現実。1年のプレーを、トータルに見たノミネートとは言えない。1シーズンを通じ、ベルナルド・シウバのプレーは卓抜としたものがあった。

 では、10人のノミネートで選外になるべき選手はいるのか。

 サディ・マネ、モハメド・サラー、フィルジル・ファン・ダイク(リバプール)、ハリー・ケイン(トッテナム)、フレンキー・デ・ヨング(アヤックス→FCバルセロナ)、マタイス・デ・リフト(アヤックス→ユベントス)、リオネル・メッシ(FCバルセロナ)、クリスティアーノ・ロナウド(ユベントス)、キリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)、エデン・アザール(チェルシー→レアル・マドリー)。

 7人の選手は、優勝したリバプールなど所属クラブがCLベスト4以上だった。言うまでもないが、それは彼らの素晴らしいシーズンを示している。他にも、有力な選手ばかりと言える。ロナウドは初のセリエA挑戦で優勝し、CLでも得点ランク3位。エムバペもフランスリーグで優勝、得点王の活躍を遂げた。アザールはチェルシーのエースとしてヨーロッパリーグ優勝で頂点に立って、マドリーへの移籍を決めている。

 あえて言うなら、アザールの選出には若干、異論が出るか。

賞レースの難しさ

 しかしながら賞レースは、そもそも不条理な側面を持っている。『The Best』は各国の代表監督やキャプテン、記者、ファンなど広い層の投票で成り立っているが、それでも公平さは保てない。守備よりも攻撃の選手は目立つし(GKは別に選出も)、華やかなキャラクターの選手に目が行く(例えばアザールの場合は、世界王者マドリー移籍というニュースも後押しになったか)。勝てば官軍で、一人一人の選手のプレー内容を吟味するのは極めて難しい。

「世界最高の称号に値するCLで、上位に進んだチームから選手を選ぶのが妥当」

 そうなるのも無理はない。ただ、同じCLのベスト4進出プレーヤーでも、ドゥシャン・タディッチ(アヤックス)、クリスティアン・エリクセン(トッテナム)、アンドリュー・ロバートソン、トレント・アレクサンダー=アーノルド(リバプール)、セルヒオ・ブスケッツ(FCバルセロナ)は候補から外れた。10人を選ぶ、その難しさが伝わる。

シティはチームとしての優秀性

 シティにプレミア連覇をもたらしたベルナルド・シウバ、ラヒーム・スターリング、ダビド・シルバの3人のパフォーマンスはノミネートに値するものだった。FWセルヒオ・アグエロ、DFエメリック・ラポルト、GKエデルソンも追随。リバプールの3人のノミネート選手と何ら引けを取らない。

 やはり、誰もが納得する10人は存在しないのだ。

 一つ言えるのは、シティはチームとして高い評価を浴びた、という点か。彼らは一つのスタイルを確立し、プレーモデルを示した。挑戦的な攻撃サッカーを体現し、ポジション的優位を作って、世界の模範となった。しかし集団としての機能性が高まったことで、個人への依存度が低くなった。それだけに突出した個人がぼやけ、皮肉にもノミネートする難しさが出た。

 事実、チームを作ったグアルディオラ監督は10人の候補に入っている。もし、これでグアルディオラが最優秀監督に選ばれたら――。10人にノミネートされなかったシティの選手たちも、少しは留飲を下げることになるか。

 ちなみに、筆者が投票するなら1位メッシ、2位デ・ヨング、3位ロナウド。

 グアルディオラに怒られそうである。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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