アトピー性皮膚炎の治療に警鐘!抗生物質耐性菌の世界的な増加傾向とは
【アトピー性皮膚炎と黄色ブドウ球菌の関係】
アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う慢性的な炎症性皮膚疾患で、世界中の子どもの10~20%、大人の7~10%が罹患しているといわれています。この病気の原因は複雑で、皮膚のバリア機能の低下や免疫反応の異常、皮膚の細菌バランスの乱れなどが関係しています。
特に注目されているのが、黄色ブドウ球菌という細菌です。アトピー性皮膚炎の患者さんの約70%で、この菌が皮膚に定着していることがわかっています。黄色ブドウ球菌は、アトピー性皮膚炎の悪化や二次感染の原因となることがあるため、治療上重要な問題となっています。
【抗生物質耐性菌の増加が治療に与える影響】
最近の研究で、アトピー性皮膚炎患者さんから分離された黄色ブドウ球菌の中に、抗生物質に耐性を持つ菌が増えていることがわかりました。この研究では、世界61の研究結果を分析し、4091の黄色ブドウ球菌のサンプルを調べています。
その結果、驚くべきことに、よく使われる抗生物質11種類のうち4種類で、効果がある(感受性がある)菌の割合が85%以下でした。具体的には、メチシリン(85%)、エリスロマイシン(73%)、フシジン酸(80%)、クリンダマイシン(79%)で耐性菌が増えていることがわかりました。
これは非常に重要な問題です。なぜなら、二次感染を起こした場合に使用する抗生物質の効果が低下しているということだからです。特に、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の割合が15%を超えると、他の抗生物質を選択する必要があるとされています。
この結果は、アトピー性皮膚炎の治療方針に大きな影響を与える可能性があります。抗生物質の使用をより慎重に検討し、耐性菌の検査をより積極的に行う必要があるかもしれません。
【地域による違いと今後の対策】
興味深いことに、この研究では地域による違いも明らかになりました。世界銀行の分類による国の所得レベルで比較すると、低中所得国と高所得国で耐性菌の割合に差があることがわかりました。
例えば、エリスロマイシンに対する感受性は、低中所得国で59%、高所得国で76%でした。メチシリンに対しては、低中所得国で62%、高所得国で86%でした。これらの違いは、抗生物質の使用状況や医療システムの違いを反映している可能性があります。
今後の対策としては、以下のようなことが考えられます:
1. 抗生物質の適切な使用:必要な場合にのみ、適切な量と期間で使用することが重要です。リンデロンVGのGはゲンタシンという抗生物質です。なんでもかんでもリンデロンVGを使うのは避けましょう。
2. 耐性菌の検査:二次感染が疑われる場合は、できるだけ耐性菌の検査を行い、適切な抗生物質を選択することが大切です。
3. 皮膚のケア:アトピー性皮膚炎の基本的な治療である保湿や炎症を抑える治療を適切に行い、二次感染のリスクを減らすことが重要です。
4. 新しい治療法の開発:抗生物質に頼らない新しい治療法の研究開発も進められています。
アトピー性皮膚炎は、患者さんの生活の質に大きな影響を与える病気です。この研究結果は、より効果的で安全な治療法を提供するための重要な情報となります。患者さんも医療者も、この問題に注意を払い、適切な対策を取ることが大切です。
日本の状況については、この研究では詳しく触れられていませんが、日本でも耐性菌の問題は重要視されています。
アトピー性皮膚炎でお悩みの方は、症状が悪化したり、感染が疑われる場合は、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。自己判断で抗生物質を使用することは避け、専門医の指示に従うことが大切です。
参考文献:
Elizalde-Jiménez IG, et al. Global Antimicrobial Susceptibility Patterns of Staphylococcus aureus in Atopic Dermatitis: A Systematic Review and Meta-Analysis. JAMA Dermatol. Published online September 25, 2024. doi:10.1001/jamadermatol.2024.3360