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ガザで戦う息子はこう吐露した「母さん、とても難しいよ」 イスラエル国防軍兵士の母が語る、善と悪

堀潤ジャーナリスト
ケレン・ミンツ・マイチさんは精神科医でソーシャルワークの博士号を持つ

イスラム組織ハマスとイスラエルが22日、人質解放を条件にパレスチナ自治区ガザの戦闘を4日間停止することで合意した。

ハマスが拘束する50人の女性と子どもを解放するのと引き換えに、イスラエルが捕らえているパレスチナ人女性・子ども150人を釈放するというのが条件だ。

こうした休戦が、本格的な停戦に発展することを願ってやまない。ガザでも、人質解放の知らせを待つイスラエル市民にとっても、もう限界だ。

今回、イスラエル人のソーシャルワーカーでセラピストのケレン・ミンツ・マイチさんにインタビューした。

10月7日の襲撃直後から、WhatsAppやZoomを使って、心理的なケアが必要な人たちの支援を仲間たちと続けている。

トラウマを抱えている人たち。そして、戦争で戦う兵士たちへのケアについて語った。

彼女自身三人の息子がいて、ガザやレバノン国境などで任務にあたっている。

インタビューの中では、そうした息子たちがガザ市民と対峙した時の複雑な心境や、カレンさん自身、もし息子に何かあったら憎しみを抱いてしまいそうだとジレンマを感じている。

善と悪の狭間に揺れ悩む人たちのためにもケアが必要だと語るケレンさん、その言葉の裏側に想いを馳せながらインタビューした。

堀・ミエル)

ではカレンさん、自己紹介をお願いします。最近のお仕事についても教えてください。

ケレン)

ソーシャルワーカーです。ソーシャルワークの博士号を持っています。夫婦・家族セラピストでもあり、以前は普通の生活をしていたのですが、今はトラウマ・クリニックで家族・夫婦セラピーの指導をしています。


私は主に小児期の性的虐待の被害者を対象にしていますが、それはつまり、本当に困難な人生、非常に困難なトラウマ体験をした人たちであり、そのような人たちと仕事をすることで、私はEMDRを研究するようになりました。


EMDRをご存知かどうかはわかりません。EMDRは、世界保健機関(WHO)が心的外傷後ストレス障害の第一選択治療として推奨している心理療法です。

多くの人は心理カウンセラーに話を聞きに行きますが、私たちはトラウマが身体や感情に深く刻み込まれていることを知っています。


私はEMDRのトレーナーで、EMDR療法を行う人々を訓練しています。

10月7日、ブラックサタデー後の最初の日曜日に、私は友人と同僚に電話して、彼女達に「支援活動を始めよう」と言ったんです。


まず、WhatsAppグループを立ち上げて、「私たちはEMDRセラピストです。もしノヴァの音楽祭に参加した人がいたら今夜、zoomグループを開きます。一助になります」と発信しました。

数分も経たないうちに、WhatsAppグループには何百人もの人が集まり、その場にいた人たちの4分の1にあたる750人が登録をしてくれました。

私たちはそのグループを通じて、離れてしまった心をそれぞれが自分の体に引き戻すことができました。

トラウマ・セラピーでの現場の経験がそうした方々の助けになり、心を落ち着かせることに貢献しました。

私たちはトラウマ的な側面にそっと触れるため、Zoomのチャット機能を使って相談にあたりました。難しいことを大声で言って、それを他の人に聞かせる必要がないようにするためです。

多くのニーズがあったので、本当にさまざまな人たちが手を差し伸べてくれて、イスラエルのEMDRセラピスト全員が参加するようになったんです。イスラエルには大きなEMDR協会があります。


しかし、それでも、政府、精神医療施設、組織、人材、これほど大規模なトラウマに対処するには不十分だと言わざるを得ません。


多くの人々が殺害され、非常に困難なことを目撃しました。そこで私たちは、専門家としてボランティア活動を立ち上げました。

セラピーの数を増やすために、zoomのグループを活用してボランティアを募りました。400人以上のセラピストが登録してくれたのです。

このグループは、やがて我が子が兵士として戦地に赴いている、両親や配偶者のための居場所にもなりました。

昨日も11人のイスラエル兵士が殺されるニュースがありましたが、彼らはみな若い少年たちです。

私自身、3人の男の子が軍にいて、そのうちの1人は今日ガザにいるし、もう1人の息子は北のレバノンにいます。もう1人の息子もヨルダン川西岸にいます。

ハマスによる襲撃は、人々の心に深刻なダメージをもたらしました。身体的な症状が出てしまい、夜眠れないという人も数多くいます。

それだけではありません。食べられない、集中できない、突然泣いてしまう。さまざまです。

あの土曜日の光景に今も襲われている人もいます。自分の将来を心配している人もいます。家を焼かれた人、コミュニティ全体を焼かれた人、私の患者にも、通り全体が殺害された人がいます。


ノバの音楽祭の生存者が私にこう言ったんです。

「なぜ私は生き残ったのか?他の人たちはあんなに辛い思いをしているのに」「なぜ私は生き残ったのだろう……そんな疑問ばかりで答えが見つからないんです」

本当はこんなふうに感じるべきじゃないんです。

そんな人に、私はこう言うんです。「10年後に振り返った時に、なぜ生き延びたのかそれが人生でどんなに重要なことだったのか気づいて欲しい」と伝えました。

堀・ミエル)

今回の戦争にり多く人たちの気持ちが、次の憎しみ、次の分断に向く恐れがあります。より安定した世界を築くために今こそ何をすべきだと思いますか?

ケレン)

いま人々は非常に怒り、復讐を望んでいます。怒りや憎しみは教育とも大きく関係してきます。相手について聞かされた話から感情が発展するからです。

例えば、私の息子の一人が話してくれたんですが「テロリストといえども、彼らは人間であり、怯えていて、兵士たちを見て、つながりを求めて、話すことを求めているんだ」と。


そして息子は私にこう言いました。

「母さん、本当に難しかったよ。人や赤ん坊を殺した人たちを守らなければならないのか、それとも人道的であり続けなければならないのか?」

私が彼に言ったのは「まず第一に秩序を守るために必要なことをしなければならない」ということでした。

どうやって人道的であり続けるのか?

これは私が軍隊にいる息子たちに言い続けていることですが、教育システムと関係があると思います。

聴き取りを進めると、多くの人々、特に国境に住む人々の多くが平和を望んでいることがわかりました。

多くの人々が、平和について何を考え、それがどのように可能かを理解しようとしています。

しかし、私は人々の非常に強い感情を認めることが重要だと思います。

無実の人々に対して行われた非常に残酷なことで、憎しみや怒りをおぼえることを自分で認めること。

ただし、その憎しみを持ち続けたいと思わないこと。そしてあなたが何をしたいのかを理解すること。

たとえば私の場合、恐れや憎しみ、世界の終わりだけを感じるのではなく、外に出て良いことをすることにしました。

だから私が我が子に続けて教える教育や、私たちの国が続けて見せる芸術の善良さが、潮流を変えるのに役立つことを願っています。

しかし、それは難しいです。

わかりません。

私に希望があるかどうかもわかりません。

これはどうなるのでしょうか?どのように機能するのでしょうか?

現在、私の息子はガザにいます。

彼に何かが起こることは想像もできません。

とても難しいです。たくさんの矛盾する感情があります。

私たちは陰と陽を保持しようとしています。善と悪、憎しみと愛がある、そこには弁証法があります。そして、私たちはそれを理解しようとしなければなりません。

それには、多くの年月がかかると思います。そして、私たちが提供しようとしているように、より多くの人々が良いメンタルヘルスの治療を受けることで、前向きで適応性のある解決策が明らかになることを願っています。

堀・ミエル)

最後の質問です。支援を待つイスラエルの市民のために、私たち日本人は何ができるでしょうか?

ケレン)

ん・・・・。祈ってください。

あなたがどのような神に祈っているかはわかりませんが、私たちと全世界のために祈っていただければと思います。

この状況がさらに恐ろしいものに発展しないことを願っています。ニュースで見ることが常に真実ではないということを心に留めておいてください。

そして、真実は時に非常に複雑です。

親切な心を持つユダヤ人を信じ、私たちが自国の人々を助け、それを通じてこの世界をより良い場所にするために取り組むことを信じてください。

あなたがどこにいても、私はすべての生命の相乗効果を信じています。

ですから、イスラエルの人々を助けることは、あなたの家族や隣人と一緒に、より多くの良いことを自分たちで行うことかもしれません。

なぜなら、私たちはこの時代に多くの善を必要としています。

私の話、私たちの話を聞いていただいたことに感謝します。

ジャーナリスト

NPO法人8bitNews代表理事/株式会社GARDEN代表。2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター。2012年、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で客員研究員。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。2016年(株)GARDEN設立。現在、TOKYO MX「堀潤モーニングFLAG」キャスター、Amazon Music「JAM THE WORLD」、ABEMA「AbemaPrime」コメンテーター。2019年4月より早稲田大学グローバル科学知融合研究所招聘研究員。2020年3月映画「わたしは分断を許さない」公開。

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