声だけなのに、すごい緊迫感。傑作スリラー「THE GUILTY/ギルティ」を生んだ30歳の新人監督
これぞ、本当におもしろい映画。
88分という無駄のない上映時間の中、話はどんどん展開し、そのたびに予測を裏切っていく。そして、ローラーコースターのようなストーリーが結末を迎える時、観る人は、この主人公に強い同情の念を覚えるのだ。その間、舞台はひとつの部屋をいっさい離れない。ほとんどのシーンで、主人公は電話の相手と話すだけ。相手の顔は見えないのに、こちらは恐怖に息を呑んだり、絶望を感じたりしてしまうのだ。
そんな大傑作スリラー「THE GUILTY/ギルティ」を作ったのは、デンマーク出身のグスタフ・モーラー。野球帽を被ってL.A.のホテルにやってきた彼には、フィルムスクールを出て間もないというのも納得の、若々しい雰囲気がみなぎっている。
30歳のモーラーにとって、これは監督デビュー作。モーラーと脚本を共同執筆したエミール・ニゴー・アルバートセンや、撮影監督、エディターは、フィルムスクールの同級生だ。みんなにとっての初めてのこの映画は、サンダンス映画祭で観客賞を受賞した上、ヨーロッパ映画賞にも複数部門でノミネートされる大成功を収める。オスカーの外国語映画部門候補入りこそ逃したものの、そのひとつ手前の“ショートリスト”には、食い込んだ。
「こんなことになるとは、まるで想像していなかったよ。僕が望んでいたのは、多くの人にこの映画を見てもらうこと。どうやればそれがかなうのかわからなかったが、予想もしない、素敵な形で起こった。この映画のために毎日がんばってくれたクルーにも感謝しないとね」。
物語は、緊急通報司令室にいる主人公アスガーが、ひとつの電話を受けることから始まる。最初はいたずら電話かと思ったが、そのうち彼は、相手の女性が誘拐されており、犯人がすぐそばにいるのだと気づく。彼女の身に危険が及ばないうちに、なんとかその車の位置を見つけ出そうと必死になるアスガー。普段はオペレーターの仕事をしていない彼は、本来の職務範囲を超えてまで、この事件に執着してしまう。
「このストーリーを思いついたきっかけは、YouTubeで見つけたサウンドクリップだった。この映画の設定同様、誘拐された女性が、隣にいる犯人にばれないようにかけてきた電話の音声だ。約20分の長さだが、すごく緊張感にあふれていた。聞きながら、車に閉じ込められている女性の姿が浮かんできて、それはその後もずっと頭を離れなかったよ。そして、あの音声を聞いた人は、みんなそれぞれに違う女性を想像するんだろうと気づいたのさ。同じ声でも、僕と君は、違う女性、違う車、違う犯人を思い浮かべるはず。そこが出発点となった。これは、観客がそれぞれに状況を想像する映画なんだよ」。
アスガーを演じるヤコブ・セーダーグレンのことは、「以前からファンで、いつかあの俳優と仕事をしてみたいと思っていた」。だが、電話の声の相手は、声だけのオーディションで選んでいる。
「電話に出る人は全員、顔も、名前も知らないまま、シーンを演じてもらって決めた。そこに影響を受けたくなかったから。僕は、観客と同じ状況で選びたかったんだよ。それはつまり、声だけで全体を想像させるような話し方をする人。ひとつの部屋だけが舞台という状況は、ある意味、楽でもあった。映画に何度も出てきたような状況だと、『これを違うふうに見せるにはどうすればいいか』と考えてしまう。でも、これは、映画に100回も200回も出てきた状況ではない」。
娯楽作でありながら、現代社会の問題にもさらりと触れてみせるところもまた、今作の優れたところ。そのインスピレーションになったのは、70年代のアメリカンシネマだ。
「サスペンスがあって、楽しませてくれて、しかも人生というものに触れる映画。それが、僕の見たいと思う映画なんだ。とくに『タクシードライバー』はお気に入り。今作の製作中、あの映画についてはずいぶん話したよ」。
今作はすでにジェイク・ギレンホールのプロデュースでハリウッドリメイクが決まっている。そちらはまだ製作準備の初期段階ということで、むしろモーラーの次回作を見られる日のほうが早そうだ。その映画はスリラーとは違うジャンルで、ヨーロッパで撮影される予定だという。英語の映画を作ることにも、もちろん意欲はあるが、妥協をするつもりはないと断言。
「スーパーヒーロー映画を作るためにここに来たいとは思わない。その意味でのハリウッドドリームは、ないね。でも、英語だとより多くの観客にリーチできるし、ハリウッドは才能のある人たちが集まってくるところ。その人たちと組んでみたいとは思う。僕は、映画監督として、一歩ずつ成長していきたい。それが僕の夢さ」。
「THE GUILTY/ギルティ」は2月22日(金)より全国公開。
場面写真提供:2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S