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アフガニスタン戦大勝も「上機嫌で自画自賛」の指揮官に募る不安

杉山茂樹スポーツライター

上機嫌とはこのことだ。

「美しい勝利。こちらが要求したアグレッシブさを前面に出して勇敢に戦った。ファンの方々もブラボー! と言っていただけることを期待します」

試合後の会見場に現れたハリルホジッチは、のっけから、いつも以上のハイテンションで自画自賛。自分と選手を褒めまくった。

同様に、その前に現れたアフガニスタン代表監督、ペタル・セグルト氏も、日本代表を大絶賛。大敗を当然なこととして認めてもらうための常套手段とはいえ、たて続けに日本のサッカーを肯定する台詞を聞かされると、試合のイメージが曖昧だった人は、そういうものかと、そちらの方になびきがち。スコアは5−0。昨年行なわれたアウェー戦のスコア(6−0)に比べると、得点こそ1点少ないが、これはこれで悪くない結果と判断しても不思議はない。

立ち上がりから、よくないサッカーをした日本。だが、終了間際、岡崎慎司が先制ゴールをマークすると、悪い印象は一変した。プレミアで首位を行くレスターで、ほぼスタメンを飾る岡崎。香川真司、本田圭佑の上をゆく、いまや日本サッカー界希望の星となったその彼が、数年前には考えられなかったようなステップとターンでゴールを奪う姿は、何かを忘れさせるには十分なインパクトがあった。

これを機にアフガニスタンのモチベーションは大きく減退。後半は日本の一方的な展開になった。5−0でタイムアップの笛を聞けば、感想は粗くなりがちだ。批判精神を露わにする人も少数派になる。

だが、アフガニスタンはこのW杯2次予選の中でも最弱の国だ。戦争に巻き込まれた国。なんとかサッカーの代表チームを編成するまでにこぎつけた、むしろ「頑張れ!」と声援を送りたくなる国だ。そうした相手にホームで5−0の勝利を収めた後の記者会見で、のっけから上機嫌で自画自賛するハリルホジッチ。いいことばかりを話そうとする我が代表監督に、僕は何より不安を覚える。

アフガニスタンに5−0で勝利した原因は、日本がよかったからでは全くない。これは、W杯2次予選に入ってからずっと続く傾向だ。拮抗した相手と戦った東アジアカップでは最下位。結果もともなわなかった。アジアカップでベスト8に終わったアギーレ時代、ブラジルW杯でグループリーグ最下位に終わったザックジャパン時代から続くもの。よくない理由を、ハリルホジッチ1人に押しつけるつもりはサラサラない。むしろ「あなたとともに考えていきたい」と思っているクチだが、そこで、よくない試合にもかかわらずしきりに自画自賛されると、そうした気持ちは残念ながらしぼんでいく。

ハリルホジッチはこの日、新布陣を試した。中盤ダイヤモンド型の4−4−2。単なる2トップではない。中盤ダイヤモンド型だ。4列表記で言い表せば4−3−1−2と4−1−3−2の中間型。従来の4−2−3−1や4−3−3(4−1−4−1)と何が違うのかと言えば、サイドアタッカーの数だ。ダイヤモンド型の両サイドに位置する柏木陽介と原口元気は、4−2−3−1の3の両サイドに比べて内側に位置する。彼らを半サイドアタッカーだとすれば、サイドアタッカーの数は両サイド各1.5人になる(もう1人はサイドバック)。

これに対して、従来型は各2人。つまり、サイド攻撃重視型ではない布陣でハリルホジッチはアフガニスタン戦に臨んだ。「選手のコンディションやメンバー構成を考えた末」とは、ハリルホジッチの言葉だが、本田、香川を先発で起用できる状況ではないために行き着いたアイデアだろう。だが、この布陣選択も、よくなかった理由だと言いたくなる。よくないものを、いっそうよくないものにしたという感じだ。

引いた相手をどう崩すかというテーマについて、これまで幾度となく語られてきたが、正解は「サイド攻撃」で決まっている。アフガニスタンに対して適した布陣かと言えば、どう考えても「ノー」だ。

そもそも日本は、サイド攻撃が不得手な国。4−2−3−1を採用しても、4−3−3を採用しても、その傾向は止まらない。サイドアタッカー両サイド各一枚の4−2−2−2と変わらないサッカーに陥ることもしばしばだ。

0−0で引き分けてしまったシンガポール戦(昨年6月16日・埼玉)は、その典型的な試合だった。引いて構えるシンガポールに対して、日本はその守備陣の真ん中に突っ込み、行く手を阻まれた。言い換えれば、奪われる位置は真ん中に偏った。サイドと真ん中、同じ高さで奪われれば、カウンターを食う危険度は真ん中の方が五割増しとは、個人的な見解だが、実際に日本は、そのシンガポール戦においても、相手に再三カウンターを食っていた。

シンガポールに攻撃力がもう少しあれば負けていたと言いたくなる試合を経ているにもかかわらず、ハリルホジッチは今回、中盤ダイヤモンド型4−4−2を採用した。で、実際、何度となく真ん中で止められた。アフガニスタンの戦力はグループ最弱。シンガポールよりも下なので、決定的なピンチを招くことはなかったが、相手のレベルが上がれば、失点必至の状況を迎えることは容易に想像できた。

こんなサッカーをやっていて大丈夫なのか――とは、この2次予選すべての試合を通して思うことだが、アフガニスタン戦も例外に漏れず、だ。日本代表のサッカーは明らかに弱体化している。そこから脱却するためには、少なくとも監督だけは、立派でなければならない。理にかなった効率的なサッカーでないと、レベルの高い相手には対抗できない。来る最終予選。このままでは、日本の突破確率は従来よりかなり低くなりそうな気配が濃厚だ。この5−0の勝利は、不安を加速させる勝利というべきだろう。

(集英社 Web Sportiva 3月25日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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