韓国政府の元徴用工解決案は「1プラスα案」! 日本はOKできるか?
元徴用工らが差し押さえた日本企業の資産強制売却(現金化)を審理している大法院(最高裁)の担当判事が今月4日に退官し、その後任がまだ決まってないことから資産の強制売却に関する最終判断が下されるまでにはもう少し時間がかかりそうだ。
韓国政府はその間に日韓の最大の外交懸案となっている元徴用工問題の解決策をとりまとめ、近々日本政府に提示するようだ。
所管の外交部は元徴用工ら当事者に加え、法律家、企業人、そして各界各層の有識者から成る官民協議会を発足し、7月から断続的に意見を集約してきたが、どうやら日本企業に代わって賠償金を韓国側が全額弁済する「代位弁済」案は立ち消えとなったようだ。
「代位弁済」には韓国政府が賠償金を立て替え、元徴用工らの賠償権利(債権)を購入することで現金化を防ぎ、その後については日本側と協議する「韓国政府の日本企業資産購入案」と、日本企業が一旦、賠償に応じた後に韓国政府が全額を補填する「先日本企業の賠償,後韓国政府の事後補填案」の2案が検討されていたが、官民協議会でも賛同を得られなかったこともあって政府は撤回してしまったようだ。
また、韓国政府と韓国企業が新たな基金を創設し、これに日本企業が参加する「代位弁済」に近い「2+1案」も「加害者である日本企業の責任を韓国政府と韓国企業が共同で分担するのは道理に合わない」と元徴用工らが同意しないことや税金の投入に野党や国民の支持を取り付けるのは容易でないことからこれも取り下げてしまったようだ。
この他にも日韓両国の企業が自発的な拠出金で財源をつくり、元徴用工に支払う「日韓企業折半案」(「1+1案」)があるが、この案は文在寅前政権下の2019年6月に日本に打診されており、すでに日本から「受け入れられない」と、撥ねつけられていた。
日本が「1+1案」に同意できないのは、元徴用工問題は1965年の日韓請求権協定ですでに解決済であり、韓国大法院(最高裁)の判決は「国際法違反」との立場を取っているからである。
茂木敏允自民党幹事長は外務大臣の時、国会で「一連の大法院判決は日本企業に対して損害賠償の支払いを命じているが、これは日韓請求権協定に明らかに反していると考えている」と答弁していた。岸田首相も同じ考えで、韓国に対して何よりも国際法違反状態の是正を強く求めてきた経緯がある。
日本政府は57年前に交わした日韓請求権協定に基づき元徴用工らへの補償金を含んだ3億ドルの無償援助をしているので当時、支払い義務を怠った韓国政府に責務があるとの立場で一貫している。従って、韓国大法院の判決に従うことは日本自らが国際法に反する行為を行うことに等しいとの解釈に基づいている。
そこで、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は当時賠償金で潤った浦項製鉄など韓国企業が既存の基金「日帝強制動員被害者支援財団」(2014年設立)を活用するか、もしくは新たな基金、例えば「記憶・癒し・未来財団」という名の基金を創設し、これに日本企業が義務ではなく、自発的に寄付する「1プラスα案」を検討し、日本に打診するようだ。
この原案を考案した文喜相(ムン・ヒサン)元国会議長によると、日本企業の「拠出」については最高裁の判決に従っての支払いではなく、何らかの名目による「自発的な寄付」と位置付け、韓国はこれを日本企業の賠償責任に代わるものとして受け止めることにしている。
しかし、寄付にせよ、自発的関与にせよ日本企業に義務付けることには日本政府内に抵抗感があり、また、かつて村山政権下で民間から寄付を募って「アジア基金」を設け、元慰安婦への支援金に充てたのにその後も元慰安婦問題が解決しなかったこと、さらには2015年にも「日韓合意」に基づき、新たに設立された「和解・癒し財団」に10億円を拠出し、元慰安婦へのお見舞金として充てたにもかかわらず、これまた再度蒸し返された苦い経験があるので国民の賛同を得ることは簡単ではない。
元徴用工らが裁判を起こしたのは単に金銭目的だけでなく、日本企業の「誠意ある謝罪」を取り付けることにある。従って、「1プラスα案」には日本企業の「お詫びの言葉」が前提となっているため「何度謝れば済むのか」と苛立ちを示している日本にとってはもう一つのハードルとなっている。
日韓の間のボールは現在、韓国側にあるが、韓国側が解決案を示せば、ボールは今度は日本側に移るが、日本は果たして「韓国案」に首を縦に振ることができるのだろうか?