育成選手から開幕1軍へ―。阪神タイガース・島本浩也投手の“プロ野球人生”がスタートした!
■初めての開幕1軍メンバー・・・というより、初めての1軍!!
いよいよ今日、2015年プロ野球が開幕する。開幕をいつもと違う…いや、初めての気持ちで迎える選手がいる。阪神タイガースの島本浩也投手だ。「ワクワク感でいっぱいです」と顔をほころばせる島本投手は、育成契約で入団して5年目。今年から支配下登録選手となり、悲願の開幕1軍切符も手にした。
「開幕1軍を目標にずっとやってきた」という島本投手は、まずはキャンプでアピールし、オープン戦での登板チャンスを掴んだ。「2年前のオープン戦では1アウトも取れなくて悔しい思いをしているんで、それを晴らすためにも貰ったチャンスは全て0で抑えようと思った」。その言葉どおり、オープン戦は9試合に投げて無失点で終えた。
「良かったり悪かったりじゃ信頼してもらえない。調子の波をなくすように」と心がけ、“投げっぷり”を意識した。ブルペンから「コースを狙うというより、とにかく腕を振る」ことを一番に考えた。マウンドに上がるとコントロールはあまり気にせず、バッターと勝負することだけを考えた。「バッターに向かっていこうと。それが結果に繋がったんだと思う」と、自ら“勝因”を分析した。
■失意のどん底からの復活
ここまで長かった。ファームでもなかなか登板機会に恵まれず、3年目にようやく25試合に登板したが、支配下登録には至らなかった。育成再契約を結んだ4年目。自信もあった。結果も出した。けれど吉報は届かない。
支配下登録の期限である7月31日。島本投手は由宇球場でのカープ戦に先発し、5回1/3を1失点と好投した。最後の望みを懸けて。しかし願いは叶わず、「やっぱりダメなのか…。今年なかったら、来年はどうなるんやろ…」と、この時ばかりはさすがに心が折れたと振り返る。
その時だ。久保ファーム投手コーチから呼ばれた。「今日で締め切りやけど、残りの2ヶ月しっかりやったら、オフの契約の時に支配下になれる」。そう励まされた。「ボクがよっぽどシュンとしていたのがわかったんでしょうね。でもそれを聞いて『まだいける!』って、そこからもう一回、頑張ろうと思えた。あの言葉がなかったら、8月9月なんて意味ないやんという気持ちになっていた」。自暴自棄になりそうだったのを、久保コーチが救ってくれた。
シーズンが終わり、10月のフェニックス・リーグではステップアップを目指してフォームの矯正に着手した。久保コーチの指摘により、力んだり疲れたりすると横振りになっていた欠点を縦振りに修正した。「踏み出した時の右太腿あたりを、右のお腹らへんに付ける感じで…」という島本投手の説明はどうもよくわからないが、これは本人の感覚の問題。どうやらそれがしっくりハマり、なんとこの時、自己最速を2キロも更新して146キロを計時したのだ。
そしてこのフォームが実践できたのは、鎌田トレーナーによるトレーニングの成果でもある。「このフォームで投げられる体を、鎌田トレーナーの指導で作ることができた。久保さん、鎌田さん、2人の教えがうまく合わさった」。
更に、球速アップの要因に体重の増加も付け加えた。毎食後のプロテイン効果で「67キロだったのが、フェニックスに来て10日くらいで70キロに乗ったんです〜」と当時、嬉しそうに語っていた。(ちなみに現在は72キロ。「75キロまでは増やしたい。この環境ではなかなか難しいけど、最低限、減らないようにしたい」と維持に努めている。)
食事とプロテインで体を大きくし、その体をトレーニングで強靭に。そして、その体に合ったフォームで投げる。1軍で戦える準備は整った。
■二人の“師匠”の教え
そこへ、新たな出会いが訪れた。秋季キャンプに大野豊氏が臨時コーチで来てくれたのだ。事前に中西投手コーチから「シュートを教えてもらえ」との助言を受けていたので、自分から握りなど教えを乞うた。それまでシュートは頭になかったという島本投手にとって、ピッチングの幅が広がった。
また、大野氏からはメンタル面でのアドバイスも受けた。「ブルペンとマウンドで投げっぷりが違う。ブルペンではしっかり投げられているのに、マウンドではコントロールを気にして投球が小さくなっているところがある」との指摘を受け、以来、そのことは常に頭の片隅に置いてマウンドに上がっている。
そして秋季キャンプが終わった後、支配下登録された。「フォームを修正して固めて、球速が速くなって、そのタイミングで大野さんに出会えて新球を習って…いいステップを踏めたからやと思う」。失意のどん底に思えた7月31日から立ち直り、重ねてきた努力がようやく実を結んだ。
「今から思えば、あの時に支配下になっていたら、8月9月で結果が出ないとクビになっていたかもしれない。今シーズン中はチャンスが貰えるから、結果的にオフに支配下にしてもらってよかった」。自分自身がレベルアップした上での契約だから、尚更そう実感できる。
春季キャンプは初めての沖縄だった。ここでもまた嬉しい出来事が待っていた。臨時コーチの江夏豊氏の目に留まり、全投手を代表して江夏氏のグラブをプレゼントされた。更に大事なことも教わった。
「キャッチボールの最初の球からピッチングのようにしっかりやれ、と。一番大事にしろと言われた。今までは何気なしに肩を作るというのでやっていたけど、今は最初から1球1球試しながらやっている。ムダなキャッチボールがなくなった」。しっかりと教えを意識して取り組んでいる。
■新たなる目標に向かって・・・
「開幕1軍を目標にやってきたけど、今度は次の目標に向かって頑張りたい」。新たな目標として「1年間、1軍で戦うこと。具体的な目標は、中西コーチからも言われているけど50試合ぐらい投げたい」と力強く話す。
これまでファームでもシーズン25試合が最高だ。いきなり倍とは!!「投げる体力も要るから、ブルペンでもできるだけ球数を少なく10〜15球で作れるようにしたい」。準備は抜かりないようだ。
気持ちの準備も整えた。オープン戦で最後にオリックスバファローズの糸井嘉男選手と対戦した。「対戦した中で一番、威圧感があった」という糸井選手。名前負けしそうなところをビビらず向かっていき、自分の思い通りの組み立てで空振り三振に仕留めることができた。「自分の球を投げられれば、抑えられるというのがわかった」。これまでより1ランク上の自信を手にした。
「育成の時は朝起きても楽しくなかった。3ケタの(背番号の)ユニフォームを着るのも嫌やった。今は楽しいというか、やっとスタート地点に立てた。『69』の背番号を見て、頑張っていかなあかんなと思う」。夢にまで見た2ケタの背番号。これを背負って1軍の舞台に立てる。「今まで以上に緊張もするやろうし、プレッシャーもあるけど、打たれて当たり前というくらいの気持ちで向かっていきたい」。
そして「体が小さくても戦えるんだ、強い球が投げられるんだというのを見て欲しい。投げっぷりで、マウンドでは大きく見られるように。バッターに気持ちで負けないようにしたい」と表情を引き締めた。
島本投手の“本当のプロ野球人生”が今、始まった。