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世界の名手を乗せて有馬記念に臨む、関東の若い2人の調教師の現在の心境

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
有馬記念に出走するアーバンシック(左)とローシャムパーク

マーカンドの言葉

 今週末、中山競馬場で第69回となる有馬記念(GⅠ)が行われる。

 「神経質な面があるので疝痛になってしまったのですが、不幸中の幸いな事に1日で治りました」

 アメリカへ遠征し、ブリーダーズCターフ(GⅠ)に挑んだローシャムパーク(牡5歳)について、そう口を開いたのは田中博康。週末のグランプリに送り込む同馬を管理する彼は今月5日に39歳になったばかりの若手調教師。更に続けた。

 「軽症だったので、競馬へは良い状態で臨めました」

 その結果が2着。それもこのレース2度目の制覇となったレベルスロマンスにクビ差まで迫ってみせた。ヨーロッパ勢が圧倒的に強い2400メートル戦で、頂点に迫る走りを披露したのだった。

アメリカのブリーダーズCターフ(GⅠ)でレベルスロマンスの2着に健闘したローシャムパーク(左)
アメリカのブリーダーズCターフ(GⅠ)でレベルスロマンスの2着に健闘したローシャムパーク(左)

 「2度目の海外遠征だった事もあり、帰国時の輸送も堪えた感じはありません。この子は飼い葉食いの安定しない子で、食べたり食べなかったりするのですが、今回は中間も良く食べています」

 世界の頂点に迫った脚で有馬記念制覇を目指すわけだが、その鞍上はクリストフ・ルメールからトム・マーカンドに替わる。

 「決して乗りやすい馬ではないので、1週前追い切りではトムに乗ってもらいました」

 難しいが故、ネガティブな印象を抱かれると良くないと考えていた田中だが、初コンタクトを終えたマーカンドの口からは思わぬ言葉が発せられた。

 「ハミ取りがキツいのは確認出来ました。でも、想像していたよりも乗りやすかったです」

 さすが世界のトップジョッキーと感心すると、更に思った。

 「ローシャムパークの場合、相手がどうこうというタイプではありません。自分自身が力を発揮出来るか否か。それに尽きるので、新コンビで何とか自分の走りをしてもらいたいです」

田中博康調教師とローシャムパーク
田中博康調教師とローシャムパーク

ルメールの台詞

 馬と騎手は違うが、似たような台詞を口にした調教師がもう1人いた。

 彼の名は武井亮。クリスマスが誕生日だから現在はまだ43歳。調教師としてはこれまた若手といって差し支えない彼が、週末のビッグレースに送り込むのはアーバンシック(牡3歳)。前走の菊花賞(GⅠ)でGⅠホースの仲間入りを果たし、ここに挑む。

 「その前のセントライト記念からルメールさんに乗ってもらいました」

 そこも快勝していた。つまりコンビ結成以来2戦2勝の負け知らずで、今回の有馬記念に臨むわけだ。

 「速いペースでも掛かり気味になるなど、乗り難しい面のある馬なのに、ルメールさんは2戦とも上手に折り合って、脚をタメてくれました。さすが上手だと感服しました」

C・ルメール騎手と武井亮調教師
C・ルメール騎手と武井亮調教師

 菊花賞に関しては武井自身、開業11年目での初GⅠ制覇だったが、取り乱す事もなく冷静に見ていられたと言う。

 「直線抜け出した後、近くで見ていたうちのスタッフが大騒ぎしていたのですが、それを見て『うるさいなぁ』と思えるくらい冷静に見られました」

 それもこれもそのくらい安心感のある手綱捌きを鞍上がしてくれたから、だろう。

 そこで武井はセントライト記念を勝利した直後にルメールが口にした言葉を、改めて教えてくれた。

 「難しくて手を焼いていた馬なのに、ルメールさんは上がってくるなり『乗りやすい馬です』と言っていました。さすが、レベルが違うと思ったモノです」

ルメール騎手を背に最終追い切りを行なったアーバンシック
ルメール騎手を背に最終追い切りを行なったアーバンシック

グランプリの行方

 さて、関東の若く有望株である調教師2人が挑む有馬記念だが、皆様ご存じの通り、秋の3冠コンプリートを懸けて出走するドウデュースを負かすのは決して容易い事ではない。

 それでもそれぞれ世界的な名手の力を借りて、頂を目指す。田中が少し遅れた誕生日プレゼントを手にするのか、武井が少し早目のそれを受け取るのか。それともやはりドウデュースと世界の武豊がその前に立ちはだかるのか、はたまた他の伏兵が台頭するのか。日曜の中山競馬場の2500メートル戦に刮目しよう。

有馬記念で1番人気が予想されるドウデュース。果たしてこの馬を破る馬は出て来るのか?!
有馬記念で1番人気が予想されるドウデュース。果たしてこの馬を破る馬は出て来るのか?!

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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