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ルメールが有馬記念3勝を振り返りつつ、アーバンシックで挑む対ドウデュースを語る

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
05年有馬記念、レース直後のハーツクライ(右)とディープインパクト

クリスマスに3勝

 「勝った3回はどれも12月25日、クリスマスの開催でした」

 有馬記念(GⅠ)についてそう口を開いたのはクリストフ・ルメール。今週末、アーバンシック(牡3歳、美浦・武井亮厩舎)とのタッグでグランプリ4勝目を目指す。

 「一昨年のイクイノックスはスペシャルホースでした。あんな馬に出合う事はなかなかないし、負けられない思いで臨んだ中でしっかり勝てました。嬉しかったし、改めて凄い馬だと鞍上で感心していました」

有馬記念を制した翌23年にはドバイシーマクラシック(GⅠ)も楽勝したイクイノックス
有馬記念を制した翌23年にはドバイシーマクラシック(GⅠ)も楽勝したイクイノックス

多く勝つより大レースを勝つ

 その前の勝利は2016年まで遡る。サトノダイヤモンドの手綱を任されると、キタサンブラックを差し切ってみせた。

 「前年の3月から通年免許でJRAの騎乗を始めました。1年を通して乗るのが初めての年に有馬記念を勝てたので、僕の気持ちも昂りました」

 ちなみにこの有馬記念の勝利はルメールにとってこの年186回目の1着。これだけ勝ちながらも、しかし、リーディングジョッキーの座は187勝をあげた戸崎圭太に1勝だけ届かなかった。

 「でも僕は数を多く勝つ事より大レースを勝つ方が好きです。皆で大きな仕事を成し遂げたチームの一員として働けたという気持ちになれるからです」

 太公望ではないが騎手も「大きさより数」を重視する人が多い中、ルメールが真逆の私見を口にしたのは興味深く感じた。

「数を多く勝つより大レースを勝ちたい」と語るC・ルメール騎手
「数を多く勝つより大レースを勝ちたい」と語るC・ルメール騎手

たとえディープインパクト相手でも

 もう1度の勝ち鞍は更に遡る。時は05年、当時まだ短期免許で来日して騎乗していたルメールはハーツクライを駆って有馬記念を制覇した。これは彼にとって初有馬記念どころか初めてのJRAでのGⅠ制覇であり、初めての重賞優勝であった。

 「ハーツクライはその直前のジャパンCで物凄い脚を披露してハナ差の2着でした。その時の時計は2分22秒1のレコードでした。だから僕はハーツでグランプリを勝てると自信を持っていました」

 この年の有馬記念には史上最強とも言われたディープインパクトが出走してきた。直前の菊花賞(GⅠ)までデビュー以来7戦7勝。無敗の3冠馬を相手にしても「自信があった」理由を次のように続けた。

 「ディープは、トリッキーな中山コースでは決して好材料とは言えない追い込み馬でした。ハーツも以前は追い込み馬でしたけど、それは腰に力をつけきっておらずダッシュがつかなかったから序盤で後ろになってしまっていただけ。この頃のハーツは大分力をつけて来ていたので、前でも競馬を出来るという自信がありました」

 有言実行。ルメールはハーツクライに好位で競馬をさせると早目に抜け出して、ディープインパクトの末脚を封じてみせた。

05年有馬記念。右端がルメール騎手のハーツクライで左端が武豊騎手のディープインパクト
05年有馬記念。右端がルメール騎手のハーツクライで左端が武豊騎手のディープインパクト

ドウデュースを負かすために

 それから19年の時が流れ、馬は全く違うが、1頭の強敵に挑むという意味では今年も似たようなシチュエーションだ。

 祖父がハーツクライのアーバンシックと共に臨むルメールの前に、立ちはだからんとするのはご存知ドウデュース。こちらは父がハーツクライで、鞍上は19年前のディープインパクト同様、天才・武豊だ。

1番人気が予想されるドウデュースと武豊騎手のコンビ
1番人気が予想されるドウデュースと武豊騎手のコンビ

 「ドウデュースは凄く強いし、ユタカさんがその力をフルに発揮させるので倒すのは簡単ではありません。事実、秋の天皇賞もジャパンCも物凄い瞬発力でした。さすがダービーでイクイノックスに勝った馬と騎手のコンビです」

 そう言いながらも白旗を挙げているわけではないと分かる言葉が続く。

 「でもアーバンシックは成長して、秋になってどんどん良くなっています。ハーツクライの時と同じです。天皇賞やジャパンCみたいにスローペースの瞬発力勝負になるとまたユタカさんにやられちゃう可能性が高くなるので、そのあたりは考えて乗るつもりです」

 武豊=ドウデュースが有終の美を飾るのか、はたまたルメールがそれを阻むのか。週末の中山競馬場から、目が離せない。

有馬記念でルメール騎手がコンビを組むアーバンシック
有馬記念でルメール騎手がコンビを組むアーバンシック

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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