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4−3−3。ウイング重視のサッカーは、Jリーグで隆盛を極めることはできるのか

杉山茂樹スポーツライター
4ー3-3のスペシャリスト ズデネク・ゼーマン(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

 その昔、4-3-3を布くチームを発見することは簡単ではなかった。92-93シーズン、欧州クラブナンバーワン決定戦が、チャンピオンズカップからチャンピオンズリーグ(CL)に名称を変更した頃の話だ。当時4-3-3を採用するのは、ヨハン・クライフのバルセロナか、その母国であるオランダ、さらには欧州各地に点在するズデネク・ゼーマンのような孤高の指導者ぐらいに限られていた。

 欧州でその数が急増したことを実感したのは2000年代中盤以降。05-06シーズン、バルサがCLで91-92シーズン以来、2度目の優勝を遂げたことが流行に火を点けるきっかけとなった。

 その前に流行した布陣は4-2-3-1だった。発端は98年フランスW杯。オランダ代表がこの布陣を用いてベスト4入りし、欧州のメディアから高い評価を得たことにある。欧州サッカーはこれを機に攻撃的サッカーへと大きく舵を切り、続く4-3-3の台頭でそれを決定的なものとした。

 日本に4-2-3-1が浸透し始めたのは、欧州で4-3-3が流行した後になる。日本代表監督として初めて用いたのはイビチャ・オシムで、その流れは岡田ジャパン、ザックジャパンと続いた。一方、4-3-3を本格的に導入したのはアギーレで、彼は代表監督就任記者会見で自ら4-3-3で戦うと明言するほど、強いこだわりを持って臨んだ。

 その4年前、2010年南アW杯を戦った岡田ジャパンも4-3-3を使用した。本大会に限ってだが、そのベスト16入りを語る時、外せない要素になる。

 4-2-3-1はそれなりに浸透した。ハリルジャパン、西野ジャパンと続き、森保ジャパンでさえ選択肢の一つにしている。しかし4-3-3は浸透せず、J1リーグを見渡してもこれを定番とするチームは現れなかった。

 昨季J1優勝を果たした横浜F・マリノスは、そうした意味で画期的だった。2018年に就任したアンジェ・ポステコグルー監督は4-3-3を採用。昨季半ばから4-2-3-1へ移行したが、その4-2-3-1も、4-3-3の特性を反映した、限りなく4-3-3に近い4-2-3-1だった。

 両ウイングを活かそうとするサッカーだ。4-2-3-1は、その3(第2列)の両サイドが監督によって変わりやすい布陣だ。ウイング的な選手ではなく、FW色、サイドアタッカー色の薄い、中盤系の選手を配置しても成立する。3の両サイドが中央でプレーする時間が長く、4-2-3-1に見える時間が少ない場合も(特に日本では)ある。よく言えば、アレンジが利きやすい布陣だ。

 4-3-3はその曖昧さを排除した、これで行くぞという決意を表明した潔い布陣と言える。横浜FMの4-2-3-1は、そうした意味で4-3-3的なのだ。仲川輝人(3の右)、マテウス(遠藤渓太/3の左)は、それを象徴する選手で、まさに両ウイングだった。ポステコグルーが掲げる攻撃的サッカーに偽りがないことは、その4-3-3的な4-2-3-1を見れば明々白々となった。

 横浜FMはそのサッカーでJ1優勝を飾った。その優勝には従来の優勝より高い価値を含む。影響力は大きいはず。遅まきながら日本で流行るのではないかーーその優勝の瞬間を、現場で眺めながら淡い期待を抱いたものだが、その期待感は今シーズンの開幕を前にしたいま、高まりを見せている。

 追随しようとするチームが出現したからだ。FC東京と川崎フロンターレ。このJ1の強豪2チームは今季、4-3-3で戦うつもりだという。

 昨季までFC東京、長谷川健太監督のサッカーは、4-4-2をベースにした手堅さが売りの堅守速攻型だった。横浜FMに4点差で勝たなければ優勝はなかった昨季の最終戦でも、そのスタイルで戦っている。優勝争いがもつれることを願い、FC東京に目一杯、肩入れしながら観戦しようとしていたこちらを、ガックリさせたものだ。

 川崎は、よく言えばアレンジを利かせた柔軟な、悪く言えば潔さの足りない中途半端な4-2-3-1だった。横浜FMの4-2-3-1とは別種の4-2-3-1だった。その4-3-3へ移行は挑戦だ。可能な限り温かい目で見守りたい。

 布陣にはよくも悪くも流行する特性がある。JリーグにはJ2も含め、けっして攻撃的とはいえない3バックが、他国のリーグに比べ幅を利かせている。流行しているわけだ。欧州では、4-2-3-1が流行するきっかけとなった98年フランスW杯以前がこの状態だった。その後、攻撃的サッカー対守備的サッカーが競い合う構図となり、2000年を過ぎた頃から、守備的サッカーの退潮、攻撃的サッカーの隆盛が顕著となっていった。

 日本はどうなるのか。攻撃的サッカー対守備的サッカーが競り合う時代を迎えるのか。そのまま一足飛びに攻撃的サッカーの時代に向かうのか。今季のJリーグは、今後の流行を占う上で重要なシーズンになる。そしてその影響は3-4-2-1と4-2-3-1を併用する森保ジャパンにも波及すると見る。

 森保監督の4-2-3-1は非横浜FM的だ。4-3-3の香りがあまりしない種類の4-2-3-1であるとはいえ、それと概念的に相反する、5バックになりやすい3-4-2-1を使い分けるその姿は、潔さに欠けるように見える。攻撃的サッカー、守備的サッカーを哲学として捉えれば、哲学に欠ける監督と言われても仕方がない。代表監督に不可欠とされるカリスマ性は宿りにくい。

 J1リーグ最年長記録更新なるかで話題を集めるカズこと三浦知良(横浜FC)が、ブラジルから日本に帰国したのは1990年。ブラジル全国選手権の記者投票で、左ウイング部門の3位に輝いた実績をひっさげ、日本リーグ時代の読売クラブに鳴り物入りで入団した。いまから30年前の話になる。しかし当初、カズは読売クラブのスタイルにはまらなかった。ポジションは4-4-2の左サイドハーフだったと記憶するが、そこにボールはなかなか回ってこなかった。

 当時の読売クラブはウイングを必要としない、まさに非横浜FM的なサッカーを展開していたからだ。カズはウイングプレーヤーとしての道を断念。ストライカーへの転身を図ったーーという経緯を、カズが53歳になろうとしているいま振り返ると、当時の状況といまの状況がさして違わないことに気付かされる。いまさらながら4-3-3の到来を切に願いたくなるのだ。2020年のJリーグは、時代の節目として後世に語り継がれる画期的なシーズンになれるのか。そうあってほしいものである。

 

 

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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