Yahoo!ニュース

イージスアショア2基と新型イージス艦2隻の費用を比較。イージス艦の方がより高額

JSF軍事/生き物ライター
防衛省の資料よりイージスアショア用のレーダー選定

 7月30日、防衛省はイージスアショア用レーダーに最新鋭のロッキード・マーティン社製SSR(LMSSR)を選定したと発表しました。これにより従来型SPY-1レーダーで見積もっていた費用は上昇することになりましたが、新型を採用すれば旧型より高くなるのは当然なので、これは想定内の範囲でしょう。

 そこで同日に進水した新型イージス艦「まや」との費用を比較してみます。「まや」は27DDG(平成27年度計画のミサイル護衛艦)として建造され、2番艦となる28DDGも建造中です。

・イージスアショア1基 1340億円

・イージス艦「まや」型1番艦 1680億円

 建造費用の比較です。イージスアショアは新型レーダーのSSRでイージス艦は旧型レーダーのSPY-1ですが、それでも地上施設よりも艦艇の方が鋼鉄製の船体や推進機関など各種設備を含むためにより高額という結果が出ています。なおSPY-1の費用は1基あたり約800億円でSPY-1想定のイージスアショアの見積もりは1基あたり1000億円でした。この差額からSSR想定のイージスアショア見積もりが1340億円ならば、SSRの見積もりは1基あたり1140億円と推定できます。(※イージス・システム代込みで計算) 

・イージスアショア2基分の30年使用総経費 4664億円 

※垂直発射基施設整備費や電力代などは含まず

・イージス艦「まや」型2隻分の40年使用総経費 8328億円 

※30年使用した段階の総経費は約7000億円

 総経費ではイージス艦の方がかなり高額です。当たり前と言えば当たり前の話ですが、動かない地上施設よりも海上を走る艦艇は大量の燃料を使用して燃料代が嵩む上に海水と潮風で船体が痛むのが早く、頻繁に整備と修理が必要になるからです。この総経費には建造費用も含まれます。なおミサイル弾薬代は含まれません、特にイージス艦は状況によっては様々な種類のミサイルを積み替える場合があるからです。

 また参考にした資料にはイージスアショアのレーダーを稼働する電力代は計算に入っていませんでしたが、艦艇の動力用の膨大な使用量の燃料代と比べると微々たる割合になるので比較する場合にはあまり考慮する必要は無いでしょう。垂直発射基施設整備費も大きな金額にはなりません、垂直発射基の費用も整備するための費用も全体から見ればかなり小さな割合です。垂直発射基よりもむしろ、中に入れるSM-3ブロック2A大気圏外迎撃ミサイル(1発40億円を予定)の合計の方が遥かに高額な機材なのです。

・イージスアショア2基分のミサイル弾薬代込み30年使用総経費 6584億円 

・イージス艦「まや」型2隻分のミサイル弾薬代込み30年使用総経費 約8000億円

 ミサイル弾薬代を含んだ場合の想定です。仮に欧州イージスアショア1基あたり8連装垂直発射基×3で24発を参考として、搭載する大気圏外迎撃ミサイル「SM-3ブロック2A」が1発40億円とすると2基分48発で1920億円が別途掛かります。つまりイージスアショア2基はミサイル込み総額で6584億円になります。「まや」型イージス艦は1隻あたり発射基は96セルです。「こんごう」型はSM-3を1隻当たり8発で他を通常の対空ミサイルなどを装填しているので参考にした場合、「まや」型2隻は1発40億円のSM-3ブロック2Aを16発(640億円)、通常ミサイルを1発2~4億円として176発(352~704億円)となり、合計1000億円はミサイル弾薬代が掛かります。「まや」型2隻は30年使用想定でミサイル込み総額約8000億円となります。なおミサイル弾薬代はどの種類を何発用意するかで大きく変動するので、ミサイル弾薬代込みの費用は参考程度にしておいてください。

 イージスアショアの取得費用について「当初の見積もりより膨れ上がった」と報道されることが多いのですが、そもそも最初の見積もりは旧型のSPY-1レーダーを想定しており、新型のSSRを採用すれば高くなるのは想定内だと言えます。また建造費用、30年運用の総経費、ミサイル弾薬代はそれぞれ別の見積もりとしてあるので、建造費用の数字と30年運用総経費の数字を比べて「膨れ上がった」とするのは正しくありません。長期間運用した場合の経費が別に掛かるのは当たり前だからです。

 もし今後、イージスアショアの取得費用が膨れ上がるとしたら、まだ量産が始まっていないSSRとSM-3ブロック2Aの開発が難航して製造単価が上昇した場合になるでしょう。またSM-3ブロック2Aの完成が本格的に遅れた場合には、現行生産型のSM-3ブロック1Bで間に合わせることになります。SM-3ブロック1Bは1発15億円になるので、これを中心に調達した場合は当面はミサイル弾薬代が逆に下がることになります。しかしSM-3ブロック2Aが遅れた場合でも予定通りの数を調達した場合、追加したSM-3ブロック1Bの分、ミサイル弾薬代は更に増えることになります。

防衛装備庁の資料より27年度型護衛艦の40年運用総経費(27年度型護衛艦=まや型護衛艦)
防衛装備庁の資料より27年度型護衛艦の40年運用総経費(27年度型護衛艦=まや型護衛艦)

【参考資料】

[PDF]陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)の構成品選定結果について:防衛省 ※国立国会図書館WARPアーカイブ

[PDF]平成26年度ライフサイクルコスト管理年次報告書:防衛装備庁 ※国立国会図書館WARPアーカイブ

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

JSFの最近の記事