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「世界王者になりたい」。ファン・ハールは何度も繰り返した

中田徹サッカーライター
14年W杯の3位より高みを目指すオランダのファン・ハール監督(写真:ロイター/アフロ)

 オランダサッカー協会は11月11日、W杯メンバー26名を発表した。

「世界王者になりたい!」。記者会見の壇上で何度もルイ・ファン・ハールは繰り返した。

 CBファン・ダイク(リバプール)、MFフレンキー・デ・ヨング(バルセロナ)、FWメンフィス・デパイ(バルセロナ)など、フィールドプレーヤーはほぼ順当な選考に。代表経験のないシャビ・シモンス(MF&FW/PSV)、フリンポン(右SB・WB/レバークーゼン)のW杯行きは国内でも予想されていた。

 しかし、シレセン(NEC)が落選し、国際的に無名のノッペルト(ヘーレンフェーン)が選出されたのはサプライズ。また、今季のブンデスリーガで8度もクリーンシートを記録しているフレッケン(フライブルク)もカタール行きを逃した。

 オランダのGK陣はバイロー(フェイエノールト)、パスフェール(アヤックス)、そしてノッペルトの3名になった。

■ GKノッペルトはPK戦キラーか!?

 ノッペルトは非常にユニークな選手だ。年齢は28歳と中堅クラスのはずだが、所属したクラブでは万年サブキーパーの扱いで、2部リーグ(オランダ、イタリア)ですらレギュラーになれず、家族会議で現役引退を勧められたほどだった。

 潮目が変わったのは今年1月のこと。ゴー・ヘッド・イーグルスの正守護神ハーン(現イェーテボリ)が体調を崩したため、ファン・ウォンデレン監督がノッペルトを抜擢すると好守を連発し、サポーターが「ノッペルトをオランイェ(オランダ代表のこと)に!」と叫ぶようになった。

 今季、ファン・ウォンデレン監督とともに移籍したヘーレンフェーンでも好調を持続したノッペルトは9月に代表メンバーの一員になった(出場機会はなし)。ゴー・ヘッド・イーグルス・サポーターの叫びは、こうして現実のものになった。

 かねてからファン・ハール監督は『ペナルティー・キラー』を連れて行くことを明言していた。2014年W杯準々決勝、対コスタリカは0-0のままPK戦に入ろうとしていた。ファン・ハール監督は延長戦終了間際に、GKをシレセンからクルルに代える大胆な采配で、この勝負に勝った。準決勝のアルゼンチン戦はフィールドプレーヤーで交代枠を使い切ってしまったため、PK戦で同じ策を取ることができずにオランダは敗れ去ったが「本当はクルルをもう一度PK戦で使いたかった」と指揮官は嘆いた。

 203cmの遅咲きGKノッペルトが「ファン・ハールの新たな『ペナルティー・キラー』になるのでは!?」という声は9月の段階からあがっていた。国際的にまったくの無名のGKがカタールの地で一躍スポットライトを浴びるかもしれない。

■代表待望論が出たシモンスもW杯メンバーに

 若手選手の大胆な抜擢はファン・ハールの得意とするところ。2014年W杯ではメンフィス・デパイが活躍し、その後、オランダ代表の中心メンバーになった。今、彼は代表通算42ゴールで歴代2位。1位のファン・ペルシ(50ゴール)の記録を視界に捉えている。

 8年前のデパイのような役割をカタールで担うだろうと、ファン・ハールが会見で名前を挙げたのがシモンス(19歳)、フリンポン(21歳)、ケネト・テイラー(20歳)の3人だ。

 ビッグタレントとしてバルセロナ、パリ・サンジェルマン時代から世界中に名の知れた存在だったシモンスは、創造的なプレー、高い得点力(オランダリーグ得点王争い2位の8ゴール)、守備意識の高さ、チームメートへのコーチング、多機能性(CF、左右WG、攻撃的MF)でPSVの主軸となり、ヨーロッパリーグのアーセナル戦(1勝1敗)でもハイパフォーマンスを示した。クルプ・ブルッヘのノア・ラン(23歳)とともに、チームにクリエティビティが欲しいときのジョーカー役を務めそうだ。

■オランダのW杯初戦はビンセント・ヤンセンがストライカー

 9月にハムストリングを痛めたオランダのエース、デパイはバルセロナでの試合に出ることなく本番を迎える。

「メンフィス(デパイ)はメディカル的にはフィットしている。W杯初戦のセネガル戦では途中出場が可能。しかし先発はまだ早い。ビンセント・ヤンセン(アントワープ)がスタメンになるだろう」(ファン・ハール監督)

 オランダの2トップは、Vヤンセン&ベルフワイン(アヤックス)のコンビで大会をスタートする公算大。Vヤンセンを1トップにし、2シャドーを置くシステムもありえる。

 今回のオランダ代表にはアヤックスの選手が7名もいる。実に4人に1人を占めるマジョリティだ。しかし、9月半ば辺りからアヤックスの調子は下り坂で、チームとともに選手個人のフォームも崩れてきた。現在、好調なのはベルフハウス一人だけ。アヤックス(チーム、選手)の不調がオランダ代表に影響することが懸念される。一方、「こういう時こそ、ファン・ハールは『指導者としての腕の見せ所』とばかり選手を高める」という声もある。

■ベルギー相手に異なる戦術を採って2勝したオランダ

 ファン・ハールはプランAからCまで用意していることを語った。Aはまさにオーソドックスなプラン。Bはどうしても得点が必要なときにスーパーサブのルーク・デ・ヨング(PSV)、ウェフホルスト(ベシクタシュ)や、CBファン・ダイクの高さを生かすロングボール戦法。Cはリードを守り切る戦術だ。

 しかし、今のオランダはA、B、Cでは語りきれないプランを持っている。直近のベルギー戦2試合では、相手に息をつく暇も与えないハイプレッシングと、相手にボールを握らせカウンターを狙う戦術を使い分けて2勝した。

 プランAのメインフォーメーションは3-4-1-2だが、自チームと敵チームの力関係、大会に於ける立ち位置の比較などによって、中盤の構成を大きく変えることもできる。さらに、今年に入ってから一度も採用してない4-3-3を突然使う可能性も残されている。このフォーメーションはオランダ人選手に染み付いている。

 W杯のオランダ代表はダークホースとして不気味な存在になりそうだ。

オランダ代表26名

GK 3人

バイロー/フェイエノールト

パスフェール/アヤックス

ノッペルト/ヘーレンフェーン

DF 9人

ファン・ダイク/リバプール

ティンバー/アヤックス

デ・リヒト/バイエルン

デ・フライ/インテル

アケ/マンチェスター・シティ

ブリント/アヤックス

ドゥムフリース/インテル

マラシア/マンチェスター・ユナイテッド

フリンポン/レバークーゼン

MF 7人

フレンキー・デ・ヨング/バルセロナ

コープマイナース/アタランタ

ベルフハウス/アヤックス

クラーセン/アヤックス

デ・ローン/アタランタ

テイラー/アヤックス

シモンス/PSV

FW 7人

メンフィス・デパイ/バルセロナ

ベルフワイン/アヤックス

ガクポ/PSV

ビンセント・ヤンセン/アントワープ

ルーク・デ・ヨング/PSV

ウェフホルスト/ベシクタシュ

ノア・ラン/クルプ・ブルッヘ

サッカーライター

1966年生まれ。サッカー好きが高じて、駐在先のオランダでサッカーライターに転じる。一ヶ月、3000km以上の距離を車で駆け抜け取材し、サッカー・スポーツ媒体に寄稿している。

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