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リーグワン、ピンチに見える地金&ディビジョン1第4節ベストフィフティーン【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
アイザック・ルーカス(ブラックラムズ・写真左)を追うマクマーン(写真:つのだよしお/アフロ)

 第4節でも、前日に中止となる試合があった。

 国内リーグワンのディビジョン1にあって、予定される計6試合のすべてがおこなわれた例はいまのところ、ない。

 折からのウイルス禍により、各部とも通常通りのオペレーションを保つのに難儀していよう。その苦境ぶりは、試合が実施できたチームの隊列、肉声からもうかがえる。

 政府が「緊急事態宣言」なるものを出さずとも、どのクラブも緊急事態下でプレーしている。また、かようなピンチの場面でこそ、そのクラブや選手の地金が透けて見える。

 印象的な出来事は1月29日、東京の秩父宮ラグビー場であった。

 昨季のトップリーグで準優勝だった東京サントリーサンゴリアスは、第3節を不戦勝で終えると、第4節のスターターを第2節から10名も入れ替えた。そのスコッドで準備できた時間は、それまでの試合の前に比べたらやや限られたようだった。

 さらにいざ開戦すれば、好調に映ったナンバーエイトのテビタ・タタフが前半35分に一発退場。ラフプレーのためだ。

 その時点では、ミスを重ねつつも17―7とリードしていた。ただしハーフタイムまでの5分間で、17―21と勝ち越された。

 対するリコーブラックラムズ東京には、かねてボールを保持してサントリーの攻撃力を制御する狙いがあった。タタフがグラウンドを去ってからは、球を持つブラックラムズが数的優位を活用できた。

 そもそもブラックラムズは、かねてハードワークを貴ぶ。

 今季に向けては現役時代にサントリーでプレーしたピーター・ヒューワットヘッドコーチ、そのヒューワットに信頼される元サントリースタッフの若井正樹ハイパフォーマンスマネージャーが、プレシーズン期に実戦練習、フィットネス、ZUUと呼ばれる自重トレーニングを交互に実施してきた。

 トップリーグ時代の最高位は5位で、所属選手の代表歴は同優勝5度のサンゴリアスよりはやや控えめながら、この日もタックルした後の起き上がりの速さ、身体衝突時の粘り腰に鍛錬の成果をにじませていた。

 サンゴリアスは厳しい状況下にあったはずだが、その厳しい状況下で動けるのが、サンゴリアスだった。

 後半開始早々、わずかなチャンスを活かして29―21と逆転。以後は向こうのラインアウトにブラインドサイドフランカーのツイ ヘンドリックが的確にプレッシャーをかける。

 自陣ゴール前でモールを組まれても、フッカーの中村駿太が、オープンサイドフランカーのショーン・マクマーンが適宜、刺さる。

 アウトサイドセンターのサム・ケレビは、35分、ゴール前で攻め込まれて勝ち越しを許すまでに9フェーズ中4本ものタックルを放った。いずれも相手を仕留めるか、押し返す類のものだ。

 直後の38分には左プロップの祝原涼介がキックチャージから勝ち越したが(ゴール成功で36—33)、その瞬間を迎える下地を作っていたことが本当の勝因だった。

 勝負どころで向こうのミスに助けられた瞬間もあったが、総じて目立ったのはサンゴリアスの献身ぶりだ。シャープなプレー選択で試合を彩ったブラックラムズのスタンドオフ、アイザック・ルーカスもこうだ。

「(サンゴリアスは)最後までばらばらにならず、まとまってファイトしていたのが凄いと感じました」

 繰り返せば、サンゴリアスが今度のスコッドでトレーニングできた回数はそう多くなくても不思議ではない。試合中の出来事を鑑みれば、第3節を不戦敗で終えていたブラックラムズよりも断崖絶壁に立たされていたように映る。

 そんななかでも、試合に向けた1週間の努力に加え、これまでの試合を乗り越えるためにしてきた継続的な積み重ねを表現したような。

 クラブとしての堆積で勝ったのは、クラスター収束後2戦目の埼玉パナソニックワイルドナイツも然りだ。

 第4節でぶつかったコベルコ神戸スティーラーズは、攻撃のラインの深さを見直した。

 ワイルドナイツに反則がかさんだのも相まって、後半26分まではスティーラーズが15点リード。しかしそれを前後して、ワイルドナイツは得意の蹴り合いと粘りの防御で向こうのエナジーを削っていた。

 終盤、スティーラーズの防御網の形成に遅れが目立つ。かたやワイルドナイツでは、ベテランフッカーの堀江翔太が落ち着いていた。

「どうやって逆転しようかではなく、自分たちのやってきたディフェンス、アタック、タックル、ブレイクダウンの項目を、最後まで出し切ろうというイメージでいました」

 ラストワンプレーでの逆転劇は、想定されたもののうちもっとも劇的な結果だったか。敗れたスティーラーズのオープンサイドフランカー、橋本大輝はうなだれていた。

「向こうのギアが上がったというか、こちらの、神戸側のプレーがルーズになったかなという印象は持っています」

 チームで決めたことを最後の最後までやり切れるか否か。その簡潔な基準で明暗が分かれた。

(ワイルドナイツとスティーラーズの談話は映像チェック後のオンライン会見による)

<ディビジョン1第4節 私的ベストフィフティーン>

1、石原慎太郎(サンゴリアス)…大外へ逃れるバックスにも間合いを詰めてタックル。運動量とタックル技術。

2、堀江翔太(ワイルドナイツ)…防御時に接点へ腕を差し込む際の動きには深い洞察と判断力がにじむ。抜け出してきた走者を正面から受け止めるシーンもあった。球を持った際には強靭さとボディバランスを活かし防御を巻き込む。途中出場後、具体的なアクションで逆転勝利をもたらした。

3、オペティ ヘル(スピアーズ)…前半40分だけの出場もインパクト抜群。試合開始早々、敵陣で対するグリーンロケッツの接点から球をもぎ取り突進。味方の先制トライを促した。

4、張碩煥(スティーラーズ)…フットワークを活かして前に出る。効果的なジャッカルも繰り出す。

5、ジェイコブ・ピアス(ブレイブルーパス)…接点で圧をかけて攻撃権を引き寄せる。

6、ピーターステフ・デュトイ(ヴェルブリッツ)…ブレイブルーパス戦では、対するマット・トッドとともにロータックル、ジャッカルの応酬。失点した直後のキックオフでも効果的な守りがあり、後半32分には自陣ゴールライン上で迫るランナーを押し返した。

7、ショーン・マクマーン(サンゴリアス)…ペースをつかめぬ序盤から鋭い出足で防御の穴を攻略。試合終盤には好ターンオーバーを披露と攻守で際立った。

8、クワッガ・スミス(ブルーレヴズ)…レッドハリケーンズとの今季初戦で、持ち前のフットワークと献身ぶりを披露。1点リードで迎えた前半30分ごろ、味方がターンオーバーされるや自陣深い位置まで一気に駆け戻ってタックル。

9、矢富勇穀(ブルーレヴズ)…浅い角度のロングパスで防御ラインに亀裂を入れる。

10、バーナード・フォーリー(スピアーズ)…手前に立つ選手に防御をひきつけてもらいながら、深めのポジショニングで大外のスペースを活かす。かたや、飛び出す防御の裏側に仕掛けて得点を演出するシーンもあった。

11、マリカ・コロインベテ(ワイルドナイツ)…タッチライン際、接点の周辺で加速してゲイン。守っても後半20分過ぎにタフなバッキングアップでピンチを未然に防いだ。

12、ヴィリアミ・タヒトゥア(ブルーレヴズ)…防御に身体の正面を見せつつ外側の走者へピンポイントのパス。自らのラインブレイクも光った。

13、サム・ケレビ(サンゴリアス)…圧力下にあっても球を活かす。守ってもハードワーク。

14、岡田優輝(ヴェルブリッツ)…チーム初トライは、深めのポジショニングから防御の死角へ膨らむように走って決めた。試合終盤には逆サイドで蹴り込まれたキックをカバー。球を持たぬ際の決断力と運動量も際立った。

15、マッド・マッガーン(ブラックラムズ)…ハイパントを蹴り上げて、落下地点でタックルとカウンターラック。アウトサイドでの突破でチャンスメイク。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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