バーネットX対アップルの特許訴訟の鍵を握るかもしれない日本人の論文
巨額の賠償評決が出たバーネットX社による対アップル特許訴訟ですが、当然ながら、アップルは控訴すると共に、特許を無効にすべく努力しています。
米国では裁判で特許を無効にすることもできますが、通常はUSPTO(米国特許商標局)におけるIPR(Inter-Partes Review)という手続を使います(以前は、再審査(reexam)という手続でしたが改定されました)。日本でいうところの無効審判に相当する手続です。
そして、言うまでもなく、アップル、マイクロソフト等の被告側企業、さらには、RCX Corpなどのパテントトロール対策企業が再審査やIPRの申請を行なっています(申請は裁判当事者でなくてもできます)。しかし、今回問題になった4件の特許はまだ無効化できていません。それどころか、前回紹介したUS6502135については、再審査においてほぼすべてのクレームの特許性が再確認される結果となっています。
現在も多くのIPRが進行中になっていますが、そこでは、新規性・進歩性を否定する証拠を見つけること、つまり、各特許の実効出願日前に同じようなアイデアが世の中に公開されていた証拠を示すことが必要です。何回も書いているように、今の目で見て当たり前であるとか、当時も当たり前だったと"思う"では駄目で、出願日前(US6502135で言えば1998年10月21日)の文献での証拠を示さなければなりません。
今では、VPN(ここで言うVPNとはインターネットVPNのことです)は当たり前のテクノロジーですが、1998年ではとうてい当たり前という状況ではありませんでした。1998年は相当昔です。ISDNでテレホーダイとかそういう世界です。特許調査の仕事をやると思うのですが、2000年前後というのはインターネット技術の大きな変曲点で、出願日が2000年直前の特許ですと、当たり前ぽいアイデアに見えてもいざ進歩性を否定する材料を見つけようと思うとなかなか見つからないことが多いです。
さて、現在、アップルによる複数のIPRで証拠として提出されている論文のひとつに1996年に公開された”C-HTTP -- The Development of a Secure, Closed HTTP-based Network on the Internet” があります。この筆頭著者は東大の木内貴弘教授です(なんと情報系ではなく医学部の先生です)。
同教授が所属する東大医療コミュケーション学大学院のサイトによると、この論文はインターネットVPNの概念を世界で最初に提唱した論文であるようです(当時はVirtual Closed Networkと呼んでいたようです)。
アップルは既にこの論文によりバーネットX社の特許(今回問題になったものとは別のもの)を無効化できていますので今回も強力な武器になると思われます。さらに、この論文以外にも木内教授が当時に公開した文書で日付が立証できるものがあるかもしれません。まあ、ここで言うまでもなく、既にアップル等のIPR申請者は同教授にコンタクトしているとは思いますが。
ところで、バーネットX社のVPN関連特許(アップル訴訟で使われた特許の国際出願の日本への国内移行)は日本でも何件か成立しています。米国におけるほど広い権利範囲ではないので、回避は可能であるとは思いますが、VPN関連のソリューションを提供している企業は、念のためチェックしておいた方がよいかもしれません。