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「おむすび」糸島と栃木、2種類のお雑煮の並ぶ正月の食卓 キャラの出身地はどうやって決まった?

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「おむすび」第70回より 米田家のお雑煮  写真提供:NHK

「様々な地域を大事に」

朝ドラこと連続テレビ小説「おむすび」(NHK)。第70回(金)では結(橋本環奈)と翔也(佐野勇斗)が結婚。幸せそうなふたりの顔で週末を締めくくった。その回の冒頭は、お正月、米田家と四ツ木家が集まってお雑煮を食べながら打ち解けていく。

米田家と四ツ木家、大集合 写真提供:NHK
米田家と四ツ木家、大集合 写真提供:NHK

お雑煮はある意味ソウルフード。日本各地で特色がある。制作統括の宇佐川隆史チーフプロデューサーは2種類のお雑煮を出した理由をこう語る。

「お雑煮は地元の違いが出たりするので、やはり、様々な地域を大事にしてきた『おむすび』としてはお雑煮によって、食を通した地元との違いがしっかり出るんじゃないかということで、根本ノンジさんがお雑煮をキーポイントに描いてくれました」

例えば、福岡ではお雑煮に「鰹菜」が入るのが当たり前なのだそう。福岡出身の宇佐川CPだから実感がこもる。

「様々な地域を大事に」――「おむすび」は神戸生まれの結(橋本環奈)、糸島出身の聖人(北村有起哉)、名古屋出身の愛子(麻生久美子)、栃木出身の翔也(佐野勇斗)と出身地がバラバラで、さらに結と翔也の会社は大阪にある。この地域の選択はどのようにして決められたのか、もうひとりの制作統括、真鍋斎チーフディレクターによるとーー。

まずは要約してみよう。

神戸――震災のあった街

大阪――野球チームを擁した大企業のある街

福岡(糸島)――米の伝来地

栃木――北関東の方言が印象的

名古屋――フレキシブルな県民性

なかなかコンセプチュアルである。真鍋CDがひとつひとつ詳しく解説してくれた。

「今回『震災』がひとつのテーマになっているので、神戸で、戦後初めての都市型の直下型地震という非常にインパクトとして大きな出来事があった街として選びました。ただ、プロ選手を目指すような大きな社会人野球チームが多いのは大阪のため、星河電器は大阪にしました。神戸と隣接していて、結が就職する場所としても最適でした。

福岡の糸島は、主人公のバックボーンとして、食にまつわる場所と考えて選びました。国内で数少ない、第一次産業産業が成功している地域で、かつ都市部に近いところも最適でした。

栃木に関しては翔也を北関東の素朴な言葉遣いにすることで単なるイケメンとは違った側面が出せるのではないかと。なぜ群馬や茨城にしなかったかといえば、茨城は『ひよっこ』(17年度前期)ですでに扱っているのと、群馬は方言に強い特徴がなかったからです。北海道案もありましたが、北海道の言葉は微妙なイントネーションを再現するのが難しく、特徴がわかりやすい栃木にしました。名古屋は、僕も中部圏出身で、偏見かもしれませんが、名古屋の人は出身地に縛られることなく行った先に合わせられるように思うんです。大阪に行けば大阪弁になるし、東京に行けば標準語を使うというところがあって。愛子はどこにいても適応できる人として、日本の真ん中の出身にしました」

糸島――福岡に関しては出身者の宇佐川さんが付け加えた。

「神戸で被災した家族がどうやったら元気を取り戻すかと考えたとき、避難先の地元から元気をもらいたいと思いました。舞台を福岡県糸島に決める前に、主人公が栄養士になることは決まっていたので、人々にパワーがあり、食材が豊かなところを探したら、糸島は米の伝来地としても伝えられていた場所であり、第一次産業である農業・漁業を大切にされていたので、これはもうめぐり合わせとしか思えませんでした」

登場人物の出身地を決めるにも様々な試行錯誤がされている。お雑煮に地域性が現れるように、土地にはそれぞれの特性があるのだ。

米田家、四ツ木家顔合わせのお正月シーンを演出した原田氷詩さんはお雑煮を作るシーンが印象に残っていると言う。

「食べ物でつながって、ふたつの家族の団らんが生まれるという『おむすび』らしいシーンだと思って撮影に臨みました。第67回で結は幸子(酒井若菜)に「お母さん」と呼ぶことを拒まれましたが、幸子から栃木のけんちん汁ふう・お雑煮の作り方を教えてもらって、そこであらためて幸子のことを『お母さん』と呼び、幸子がそれを受け入れる。2人の交流が生まれるところを大事にしています」

出来上がったお雑煮を食べるシーンより、できるまでを大事にしたという原田さん。

「キッチンで結が幸子に教えてもらっているとき、ほかの皆さんはどうしていようと考え、料理を作っているところを一緒に見ていてもいいのですが、そこはあえて、ダイニングから、幸子さんの背中を見て、結の笑顔を見て、2人の関係性が変わっていく姿を見守っていることを大事にしました」

料理を食べているシーンで皆さんがおしゃべりしながらじょじょに仲良くなっていく流れも長めに撮ったが「編集で料理をつくるシーンに尺をとったため残念ながら短くなってしまった」と言う原田さんだが、米田家が四ツ木家流のお雑煮を、四ツ木家が米田家流のお雑煮を食べて、お互いの家のことを知るところは短いながら、いい場面になっている。

米田家の父が北村有起哉さん、四ツ木家のお父さんが山内圭哉さん。ふたりは舞台での共演作もあるからか、家族写真を撮るところなどで、息のあった動きを見せている。


「おふたりでいろいろお話されて、空気感を作ってくださいました。山内さんはセリフがほぼない役ですが、目で表現してくださって。一見やんちゃだけど、声を出すとチャーミングで、翔也のお父さんにぴったりだと思いました」

ちなみに山内さんは立川役の三宅弘城さんとふたり、「あさが来た」(15年度後期)の番頭コンビで活躍した。

連続テレビ小説「おむすび」
毎週月~土曜 午前 8時00分(総合)※土曜は一週間を振り返ります

/ 毎週月~金曜 午前 7時30分(NHKBS・BSP4K)

【作】 根本ノンジ

【主題歌】 B’z 「イルミネーション」

【語り】 リリー・フランキー

【音楽】 堤博明

【出演】 橋本環奈 仲里依紗 佐野勇斗 麻生久美子 宮崎美子 北村有起哉 松平健 ほか

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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