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「たかが」日経平均株価2000円下落、史上2番目の下落で騒ぐニュースや経済評論家の言うことは無視せよ

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
日経平均株価が史上2位の下落幅と騒がれてますが下落率ではなんと29位です。(写真:ロイター/アフロ)

日経平均株価が2000円超下落、史上2番目の大きさと騒ぐニュースと経済評論家、そして煽られる個人

8月2日の国内株価は大幅な下落となりました。もともとが行きすぎていた円安が日米の経済政策の思惑変化から円高に反転、米国経済指標のいくつかが悲観的な方向に転じていることなどから、さらに米国株安と国内株安を招いています。

8月2日の日経平均株価は、2216円下落し、これはブラックマンデー(1987年10月)以来の史上2番目の大きさだと騒いでいます。

テレ東Biz 日経平均終値 36000円割れ ブラックマンデー以来の下げ幅

こういうニュース、あるいは経済評論家のコメントを見聞きしていると、あたかも日本経済、世界経済は大クラッシュしてしまうように見えます。

なにせ、「史上2番目」と言われればビビります。SNS界隈でも、NISAをきっかけに投資を始めたばかりの人の涙目投稿が見受けられます。例えば、日刊スポーツは元HKTの兒玉遥さんのSNSでの涙目投稿を記事にしています。

日刊スポーツ 元HKT兒玉遥、株価大暴落に「泣いちゃう」悲鳴も「老後までを見据えた資産形成なので

しかし、「たかが」日経平均株価が2000円下がったくらいで、ニュースや経済評論家の言うことに煽られる必要はありません。

そもそも2000円の下落は小さなものだからです。

日経平均株価が1万円の頃の2000円下落と、4万円に近づいた今の2000円のインパクトはまったく違う

注意深くネットを検索していると、SNSの投資系アカウントなどでは「下げ率では小さなもの」という投稿がみつかります。

「金額」でいうと2000円の下げはインパクトがありますが、38126円(8月1日の終値)からの35916円までの下げですから、割合にすれば5.8%です。

日経平均株価が1万円前後をうろうろしていたアベノミクス前夜であれば2000円の下げは20%の下げに相当します。ところが日経平均株価が20000円なら2000円の下げは10%相当です。つまり、株価水準が上がれば「金額」での下げのインパクトが同じで大きさでも、「率(割合)」でのインパクトは小さくなってくるわけです。

ちなみに「史上1位の下落幅」だった1987年10月20日は、終値で21910円、下げが3836円でしたが、「下げ率」でも-14.9%と1位です。一夜にして15%値下がりしたということは平均的な期待リターンとして想定される日本株の2年分くらいのリターンを食い潰したことになり、インパクトが分かります。

8月2日の下げ幅は「下げ率」でみると何位になるでしょうか。なんとなく「そりゃ2位でしょう」と思います。ところが、「下げ率」のランキング2位にやってくるのは、2008年10月16日の-11.4%です(リーマンショックの期間にあたる)。

日経の指数公式サイトには「日経平均アーカイブ/上昇・下落記録」というページがあるのですが、20位までしか表示されず、なんとそこに入っていません。なんと、それよりもずっと下、29位にあたるそうです

日経の指数公式サイト 日経平均アーカイブ/上昇・下落記録

Yahoo!ニュースエキスパート 日経平均株価がブラックマンデー以来の下げ幅に #専門家のまとめ(久保田博幸)

NISA初心者をビビらせてアクセス数を稼ぐ記事には近づかないこと

ハッキリ言って、「下落幅(金額)」で過去と比較することは完全に無意味です。金額ベースでブラックマンデーやリーマンショックと比較することも意味がありません。

金額ベースだけで語るニュース報道や経済評論家のコメントは、基本的に「恐怖煽り系」です。そのほうが食いつきもいいですし、危機感を感じさせる方が専門家のような印象を与えます。

しかし、危機感を煽る系報道の困ったところは「どんなときも危機感や批判」をするところです。たとえば、ここしばらくの為替関連ニュースでは、円安になれば「国力が低下」とか「政府は無策」とさんざん悪口を言っていました。

ところが、1ドル=161円あたりから円高に変調したとしてもむしろ「急激な変調に懸念」と心配し、矛先を変えては危機感を煽り、政府は無策と悪口を言い続けます。

円安時には「輸入価格上昇で庶民に打撃」で、円高時には海外で稼ぐ日本企業の決算に打撃」です。株価が上がったときは「庶民には実感ゼロ」で、株価が下がれば「庶民のNISAに打撃」となります。

どんなときもデメリットのある人はいるわけで、常に危機感を煽ることは可能です。となれば、私たちはメディアリテラシー、ネットリテラシーとして、「どんなときも、危機を煽られているだけ」と考えておくことが必要です。

少なくとも「史上2位の下げ! クラッシュが来た!」と煽るニュース、コメント、ネットの広告記事(別の金融商品を売りに来る)などは、近寄らないことです。

8月5日以降も株価が下がるだろうが、気にしすぎないこと

さて、8月5日の月曜日、おそらく株価は下がるでしょう。2日のニューヨーク相場も続落しており、米国景気の勢いが弱まったと示唆する経済統計もありましたから、その影響を日本の株式市場も受けると思われます。

あなたがもしNISAを今年始めたばかりで、投資残高が100万円を超えていないなら、また投資信託を中心に運用しているなら、それほど焦る必要はありません。むしろ金額が小さいうちに下げ相場とその後の市場回復を経験することが投資経験として大きな財産となります。

ところが、焦って売ってしまうと投資に手が出せなくなります。さらに値下がりしても怖くて買い直せませんし、株価が戻ったところでやっぱり怖くなります。8月1日水準でようやく買い直すくらいなら、売らないでそこまで株価が戻るのを待てばいいのです。

そしてもうひとつ。次回の自動購入(つみたて投資枠を使った投資信託の購入予定)はそのまま継続してください。いつかは落ち着いて経済回復があると思うなら、下がったときに買い増しできるのはいいことです。自分で「購入」ボタンを押すのは勇気がいりますが、自動引き落としなら判断ミスを結果的に回避することもできます。

株価は数年に一度「○○ショック」と呼ばれる下落があります(今回の下げも、インテル・ショックと呼ぶ人がもういます)。ぶっちゃけ、「○○ショックはよくあること」でしかないのです。しかし長い目で見れば回復をしてさらなる高い水準に推移しています。

とにかく、焦らないことが大切です。「たかが」史上2位の下落幅なんですから。

追記

運用会社のコメントは、しばしば自社商品の値下がりの正当性を語ったり、うまく切り抜けた自慢をしていますが、下記はニュートラルに原因の分析と、長期投資の意義を語っていましたのでご紹介します。

参考)なかのアセットマネジメント 長期投資家の皆さまへ(臨時)

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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