17分間で3失点。完敗のスウェーデン戦でなでしこジャパンが見せたチャレンジと収穫
【完敗】
スタンドには青と黄色の国旗がいくつもはためき、ユニフォームを着たサポーター達が歓喜の歌を合唱する。スウェーデンの勝利に沸くスタジアムで、その一角だけは別の時間が流れているようだった。
試合終了の笛が鳴った直後、なでしこジャパンの選手たちはピッチの上で自然と輪を作っていた。今目の前で起きたことをしっかりと受け止め、次につなげようとしていたのだろう。
グルトフォーゲン・アレーナで行われたスウェーデン代表との一戦で、なでしこジャパンは0-3で敗れた。試合終盤、わずか17分間で3失点を喫したのだ。
日本は90分間を通じて、スウェーデンと同じ7本のシュートを打った。ボールを支配する時間は長く、勝てるチャンスもあったと思える試合だった。だがどんな内容であれ、0-3は「完敗」である。
しかし、意外にも後味は悪くなかった。
それは、五輪出場チームである強豪スウェーデン戦に臨む中でなでしこジャパンが様々なチャレンジをし、このチームに「できること」と「できないこと」がはっきりと見えたゲームだったからだ。アメリカ遠征から数えて3戦目にして、多くの課題が表れた試合だった。
【なでしこジャパンが取り入れた新たなチャレンジ】
この試合で日本が採用したのは、4−1−4−1。
GK山下杏也加、DFラインは左から宇津木瑠美、村松智子、川村優理、有吉佐織。熊谷紗希を中盤の底に置き、MFは左に永里優季、阪口夢穂、中里優、右に佐々木繭、1トップに増矢理花。6月のアメリカ戦は4-2-3-1を採用してバランスの良さも見せたが、高倉麻子監督はあえてここを変化させてきた。センターバックに川村(これまで代表ではボランチとサイドバック)、サイドハーフに佐々木(同)、ボランチに熊谷(センターバック)。これらのポジションは、それぞれの選手の持ち味を踏まえた上で、個人とチームの新たな可能性を探ったチャレンジだったと言えるだろう。
「熊谷は守備のところでボールを奪える力があるので、ディフェンスラインの前でボールを奪って攻撃につなげる狙いがありました」(高倉監督)
これまで、日本代表では不動のセンターバックとして活躍してきた熊谷だが、所属するリヨンではボランチを務めており、先日のCL決勝ではボランチでフル出場し、欧州一に輝いた実績もある。
その熊谷のポジションを一列上げることで、ボールをより高い位置で奪えるようにした。そして、この新たなシステムをより生かすためにも、チーム立ち上げ時からのコンセプトとして取り組んでいる「高い位置からプレッシャーをかけ、全員でボールを奪いにいく」守備の質が問われることとなった。
スウェーデンの戦い方は、最初からはっきりしていた。手数をかけずにシンプルなロングボールを蹴り、スピードのあるFWを走らせる。サイドからクロスを上げ、複数の選手が走り込む。平均身長は171cm。空中戦の強さも武器だ。
そのロングボールを蹴らせないために、日本は1列目の増矢と2列目の中里が鋭い出足でプレッシャーをかけ、右サイドでは佐々木と有吉、左サイドでは永里と宇津木が連動して相手のパスコースを消していった。この守備に関しては、アメリカ遠征からの継続に一定の成果が表れ、実際に高い位置でボールを奪えた場面も何度かあった。だが、まだまだ荒削りな部分も多く、結局裏を取られてピンチを招く場面も同じぐらいあった。
前半こそスウェーデンのシュート精度の低さに救われた日本だが、経験豊富なエースのFWロッタ・シェリンが入った後半はそうはいかなかった。熊谷はシェリンとつい最近までリヨン(フランス)のチームメートでもあったため、その怖さは十分に分かっていたはずだ。
【似たような形から喫した3失点】
拮抗した試合が動きを見せたのは、後半31分のことだ。
76分にカウンター攻撃からロッタ・シェリンが一瞬の隙をついてネットを揺らす。残り時間が少なく、日本にとってさらにゲームは難しくなった。高倉監督は有町紗央里(後半11分)と横山久美(後半24分)に加え、千葉園子(後半36分)と攻撃的なカードを投入し、日本は最後までゴールを狙ったが、逆に87分とアディショナルタイムにも立て続けに失点し、0-3で試合を終えることとなった。
3失点とも同じような形で、カウンターと、中央を割られての失点だった。
守備の1対1の対応で出た課題もあるが、それ以上に、90分間を通して問題だったのは自分たちのボールになった時の、攻撃の質の低さだ。
「ボールも人もずっと動き続けて、先手を取り続けるサッカーをやっていこうと思うんですが、どうしてもまだ(ボールを)足元で受けて、止めてから考えているところがあります。特に後半は、ボールが止まった状態になることがすごく多かったです」(高倉監督)
判断が一つ遅れると「つまり」が生じ、その悪循環がボールも人の動きも止めてしまう。
攻守の軸となる阪口は厳しいマークに苦しみながらも積極的にボールに絡んだが、周囲との距離感が合わず、いつものような攻撃のリズムは作り出せなかった。また、特に攻撃面では熊谷を一列上げた新しいシステムを生かしきれず、逆に熊谷のところでボールを奪われたところから失点するという逆転現象も起きた。
「2失点目は紗希のところに入った時に周りに選手がいなかった。『どう攻めていこう』というイメージがあったら、中盤が全員上がっていることはなかったと思うんです。失ったときのリスク管理ができていませんでした」(永里)
アメリカ戦と合わせて3試合で「8」という失点の多さは厳しい現実だが、ここから目を背けることはできない。
「攻撃的なチャレンジをしたいと思っていますが、現実的にこの失点数は多すぎるので、もう一度見つめ直したいと思います。組織として、コンパクトに守備をするというチャレンジが崩壊してやられているとは思っていないですが、最終的に、個のペナルティボックス内での強さや高さ、そういうところにもう一回立ち返らなければいけないと思っています」(高倉監督)
【敗戦の中で見えた収穫】
予測のスピード、攻撃時のリスクマネージメント、ペナルティボックス内での個の強さ。
課題が多く上がった一方で、「通用したこと」も決して少なくはなかった。
まず、試合後はこの完敗にも下を向く選手はいなかった。冒頭に記したように、選手たちはすぐに輪になって話し合いを始めていたからだ。そして、その輪の中心には、このゲームで高倉監督からキャプテンを託された熊谷の姿があった。
厳しい現実の中で若いチームが見せた切り換えの速さは意外でもあり、そこにこのチームの伸びしろを見た気がした。
また、攻撃面では、先発した増矢、中里、佐々木のプレーは日本の攻撃に良いアクセントを与えていた。
1トップの増矢は、鋭い切り返しと予測不能なドリブルで攻撃センスを見せた。トップ下の位置で攻守の起点となった中里は、阪口と熊谷とともに最も良くボールに絡み、テクニックの高さは随所で光った。また、1試合で右サイドハーフと左サイドバックの2つのポジションをこなした佐々木は、ポジションに関わらず、ボールを持つとまずゴールを見る積極的なプレーを見せた。
「前回のアメリカ戦で本当に悔しい思いをして、しばらくはどん底と言いますか、メンタル的にもきつかったんですが、その分うまく開き直って、切り替えて今回の遠征に臨みました。体重移動一つで相手が引っかかってくれる部分とか、逆に相手はフェイントをあまりしないなという印象だったので、ボールに食らいついていけた手応えはあります。ラインコントロールとか、1試合の中でポジションが代わったことで頭を切り替えるという点では自分のプレーの幅が広がったかなと思います」(佐々木)
佐々木のプレーを見て、試合後の言葉を聞き、やはり経験がもたらすものは大きいと感じている。そして、それは経験のある選手も例外ではない。熊谷のボランチ起用は、はまればチームの強力なエンジンになりそうだ。
「負けても勝っても、全部前向きに捉えていける時期でもあると思っています。次が大事だと思うし、それをプラスに、チームの経験としてどんどん積み上げていくことがこのチームにとって大事なことだと思うので。反省して修正して、次は良いゲームをしたいです」(有吉)
今のなでしこジャパンは、失うもののないチャレンジャーでもある。3年後のW杯、4年後の五輪から逆算するなら、今は各選手とチームの伸びしろを、もっと見たい。
24日には、スウェーデン女子リーグのクリスティアンスタッドと親善試合を行う。2日間でどう立て直し、試合に臨むのか。引き続き取材を楽しみたいと思う。