原油市場に過去最大の投機資金が流入中
原油市場で投機買いの規模が過去最高を更新した。米商品先物取引委員会(CFTC)が1月19日に発表した最新データ(1月16日時点)によると、WTI原油先物・オプション市場における投機筋(Money managed)の買い越し枚数(=買いポジション-売りポジション)は、NYMEXとICEの二つの市場を合計して前週比4万0,855枚の54万1,990枚(1枚=1,000バレル)に達している。
昨年末の46万0,836枚からは8万1,154枚(17.6%)の急増であり、年初から原油市場に大量の投機資金が流入したことが確認できる。この期間のWTI原油先物相場は1バレル=60.40ドルから63.70ドルまで3.30ドル(5.5%)の急伸となっているが、昨年中盤以降の強気スタンスが維持されている。
底流にあるのは、シェールオイルの増産拡大などで大きく過剰供給方向に歪んだ国際原油需給が、需要拡大と昨年1月から始まった協調減産の成果によって正常化し始めていることがある。過剰供給解消が実現するのか不透明感が強かった昨年7月2日時点では、投機筋は僅か15万7,291枚の買い越しに留まっていたが、その後の約6カ月半で原油市場に滞留する強気の投機資金の規模は3.4倍にまで急増している。原油安の時代が終わった可能性が高いことを強く印象付けられる。
しかも年末年始を挟んでは、1)イランの地政学リスク、2)米原油在庫の急減、3)北半球の寒波、4)ドルの急落、5)世界的な株高など、マクロ需給環境以外の要因からも、原油市場に対する投機資金流入が加速し易い環境が整った。
ただ、こうした急激な投機資金の流入は原油高を加速させる一方で、急反落のリスクを高めることになる。
例えば、昨年1~2月には石油輸出国機構(OPEC)やロシアなどの協調減産がスタートしたことで投機筋の買い越し枚数は2月26日に44万3,703枚に達したが、その後は上述のように7月2日の15万7,291枚まで急減している。投機資金の流入で原油相場が50~55ドル水準まで値上がりしたことで米国のシェールオイル生産活動が一気に活発化した結果である。原油市場における投機資金の流入が過熱化したことが、需給見通しを悪化させたのだ。そして、現在の投機資金の規模はその当時を大きく上回っている。原油相場も2014年12月以来の高値圏となる60~65ドル水準まで値上がりしている。
需給バランスが供給超過から均衡、そして供給不足に転換するにつれて、原油市場に対して投機資金が流入し、原油価格が上昇する展開には、何ら大きな問題はない。しかし、投機主導で必要以上の値上がりが実現すると、実際の需給環境よりも需給がタイト化しているシグナルが需要家と生産者の双方に発せられ、本来は必要がなかった需給緩和圧力が発生することになる。
国際エネルギー機関(IEA)は19日に発表した最近の月報において、原油高に伴う需要減退、更には天然ガスへの需要シフトが発生していることを報告している。また、米国、カナダ、ブラジルなどの産油量見通しが上振れしていることも報告している。まだ18年の国際原油需給バランスは均衡化見通しが基本になっているが、「原油高→需要抑制」、「原油高→供給拡大」のフローが発生し始める中、投機資金の流れが逆転し始めると思わぬ急落リスクも浮上することになる。
原油相場は緩やかにコアレンジを切り上げていく可能性が高いものの、年初からの原油相場急伸と投機資金の流入状況は、強気派にとっても不安を抱かせる状況になり始めている。特に、シェールオイルは中東産油国とは異なり、投資開始から生産開始までのタイムスパンが短縮されているため、原油価格変動の影響は数カ月程度で実際の産油量に反映される傾向にある。ここ最近の原油高がシェールオイルの増産加速を促すのは必至であり、それはリグ稼働数や米エネルギー情報局(EIA)の生産予測調査などにも明確に見て取れる。投機資金の流入による原油高は分かり易い現象だが、需給正常化の流れを阻害するか否かの議論の行方によっては、急反落のリスクを抱えることになる。