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「踏み台」とされた元WBA暫定チャンプ

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Mikey Williams/Top Rank

 元WBAバンタム級暫定チャンピオンのベネズエラ人、ヨンフレス・パレホ。彼が同タイトルを獲得したのは10年前のことである。38歳となった彼は、ここ2試合に負けており、16戦全勝15KOの23歳、セバスチャン・ヘルナンデスにぶつけられた。

 どう見ても<咬ませ犬>として、若手の踏み台にされた格好ではあったが、序盤は互角に打ち合う。元王者のプライドと、ベテランの老獪さで意地の勝利を挙げるか……と思わせた。

Mikey Williams/Top Rank
Mikey Williams/Top Rank

 若さを武器にするヘルナンデスは、戦績ほどの怖さは無い選手だった。彼の戦いぶりを見ながら「ボクシングはマッチメイクで決まる。世界チャンピオンというのは、生まれるんじゃなく、作り出すものだ。15戦全勝15KOなんて、やろうと思えば、いくらだって可能なんだよ」という某プロモーターの言葉が思い出された。

 メキシコ、ティファナ出身で、現在は米国カリフォルニア州サンディエゴ在住のヘルナンデスは、ハイレベルな技術も見せられなかった。それでも、4ラウンド終了時にパレホは自ら試合を放棄し、15歳下のファイターに勝ち星をプレゼントした。

 この試合の興行主であるTop Rank社の発表によれば、パレホのコーナーが試合続行不可と判断したとのことだが、なんとも呆気ない幕切れだった。元暫定王者は、3連敗となった。

Mikey Williams/Top Rank 暫定王者のアッパーが若手の顎を捉えるシーンもあった 
Mikey Williams/Top Rank 暫定王者のアッパーが若手の顎を捉えるシーンもあった 

 2020年にプロデビューしたヘルナンデスは、数字が示す通り「ライジング・スター」と呼ばれる。一方、パレホのここ2試合は、2021年12月と2023年2月。活動休止中の元暫定王者に過ぎなかった。1年7カ月ものブランクのある選手を、連勝中の若手にぶつけてしまうのが、敏腕プロモーターの手腕である。

 初回、第2ラウンドと、五分五分の展開を見せた両ファイターだが、期待度が大きく異なっていた。しかし、連勝を重ね、成長中と映る23歳もこうした試合ばかりを重ねて来たのかーーーという疑いの目を向けられる結果となった。

ボブ・アラム
ボブ・アラム写真:ロイター/アフロ

 Top Rank社のボスであるボブ・アラムが、オスカー・デラホーヤをスターに作り上げた折、過保護なマッチメイクが揶揄された。ヘルナンデスもその道を歩むのか、と感じざるを得ないフィナーレであった。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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