「踏み台」とされた元WBA暫定チャンプ
元WBAバンタム級暫定チャンピオンのベネズエラ人、ヨンフレス・パレホ。彼が同タイトルを獲得したのは10年前のことである。38歳となった彼は、ここ2試合に負けており、16戦全勝15KOの23歳、セバスチャン・ヘルナンデスにぶつけられた。
どう見ても<咬ませ犬>として、若手の踏み台にされた格好ではあったが、序盤は互角に打ち合う。元王者のプライドと、ベテランの老獪さで意地の勝利を挙げるか……と思わせた。
若さを武器にするヘルナンデスは、戦績ほどの怖さは無い選手だった。彼の戦いぶりを見ながら「ボクシングはマッチメイクで決まる。世界チャンピオンというのは、生まれるんじゃなく、作り出すものだ。15戦全勝15KOなんて、やろうと思えば、いくらだって可能なんだよ」という某プロモーターの言葉が思い出された。
メキシコ、ティファナ出身で、現在は米国カリフォルニア州サンディエゴ在住のヘルナンデスは、ハイレベルな技術も見せられなかった。それでも、4ラウンド終了時にパレホは自ら試合を放棄し、15歳下のファイターに勝ち星をプレゼントした。
この試合の興行主であるTop Rank社の発表によれば、パレホのコーナーが試合続行不可と判断したとのことだが、なんとも呆気ない幕切れだった。元暫定王者は、3連敗となった。
2020年にプロデビューしたヘルナンデスは、数字が示す通り「ライジング・スター」と呼ばれる。一方、パレホのここ2試合は、2021年12月と2023年2月。活動休止中の元暫定王者に過ぎなかった。1年7カ月ものブランクのある選手を、連勝中の若手にぶつけてしまうのが、敏腕プロモーターの手腕である。
初回、第2ラウンドと、五分五分の展開を見せた両ファイターだが、期待度が大きく異なっていた。しかし、連勝を重ね、成長中と映る23歳もこうした試合ばかりを重ねて来たのかーーーという疑いの目を向けられる結果となった。
Top Rank社のボスであるボブ・アラムが、オスカー・デラホーヤをスターに作り上げた折、過保護なマッチメイクが揶揄された。ヘルナンデスもその道を歩むのか、と感じざるを得ないフィナーレであった。