ワールドカップで日本代表が優勝するための一番のキーマンは?
いよいよ「2014 FIFAワールドカップ(ブラジル大会)」が6月12日に開幕します。4年に1度の祭典に、世界中のファンが熱狂することでしょう。私は現場に入って企業の目標を絶対達成させるコンサルタントです。企業の目標を安定的に達成させられることはできるでしょうが、スポーツの世界で「優勝」を絶対達成させる方法があるかというと、おそらく存在しないと思います。だからこそロマンがあるし、苦悩もまたあるのでしょう。
ただ、常に現場に入って組織改革を担っているため、ビジネスにおいてもスポーツの世界でも共通するポイントがいくつかあると考えています。その一つが、チームの実力以上の力を発揮する方法です。それは「空気」です。目に見えないからこそ意識しづらいものですが、チーム内の「空気」の良し悪しによって成績が極端に変わることがあります。
私たちは日本人ですので、今季、多くの人がヨーロッパの2チームに注目したことでしょう。その2チームとは、香川選手が所属している「マンチェスターユナイテッド」と本田選手が今冬に移籍した「ACミラン」です。いずれも超名門クラブにもかかわらず、今季の成績は散々でした。昨年プレミアリーグで優勝したマンチェスターユナイテッドは今季、なんと7位。来季のチャンピオンズリーグ出場権どころか、ヨーロッパリーグの出場権さえ勝ち取ることができませんでした。ACミランもセリエAで8位に低迷。両チームともリーグ途中で監督が解任されています。
いずれもスター選手を揃えており、優勝争いすることが義務付けられているにもかかわらず不振が続いたのは、いろいろな理由があることでしょう。しかし「チーム内の空気」が、かなり悪い状態であったことは間違いありません。どんなに個人のスキルが高くても、チームスポーツである以上、「空気」が悪いと結果を残すことができないものです。
その点、今季大躍進したチームといえば、リーガ・エスパニューラ(スペインリーグ)のアトレティコ・マドリードでしょう。圧倒的な戦力を有するバルセロナ、レアル・マドリードを退けて18年ぶりにリーガを制覇。チームが一体となれば、スーパースター軍団をも破ることができると証明しました。
ワールドカップで戦う各国の代表チームはクラブチームと異なり、合同で練習をする期間が短い。そのため寄せ集めの即席チームになってしまうことも多々あります。個人の実力はあっても、チームの「空気」が醸成されるまでに時間がかかる代表チームも少なくはないと思います。
4年前の南アフリカ大会のとき、日本代表への期待はかつてないほど低いものでした。代表メンバー決定後の直前強化試合は3連敗。1次リーグは3戦全敗するのではないかという声さえあったのです。しかも直前に本田選手をワントップに据えるなど、急ごしらえの即席チームでした。ところが蓋を開けてみると、2勝1敗(勝ち点6)で見事に1次リーグを突破し、日本列島を大興奮させました。当時、フィールド上で戦っている選手のみならず、ベンチにいる選手も腐ることなく声を振り絞って応援したと言います。有名なエピソードは、カメルーンとの試合前、日本選手たちが全員肩を組んで国歌斉唱したこと。闘莉王選手の発案です。全員で戦おうという姿勢で「チームの空気」をひとつにしました。
4年前のワールドカップに比べ、今回の日本代表は世界で戦ってきた選手たちが多く、格段にレベルアップしています。しかも前大会のように急造のチームではありません。前回の決勝トーナメントは、パラグアイにPK戦で敗れています。あと一歩でベスト8だったと言えないこともありません。そう考えれば、今回も前回と同等か、それ以上にチームが一つになれば、実力以上の力を発揮して勢いに乗る可能性はあると思います。
私がキーマンだと思うのは、キャプテンの長谷部選手です。「空気」で人を動かすに書きましたが、チームの「空気」を理想に近づけるためには、リーダーの手腕が不可欠です。メンバー全員にチームのルール、規範を守らせることです。たとえ能力や実績があっても、身勝手な行為はいけません。”個”の力も大事ですが、「なあなあ」にせず、長谷部選手にはチームを一つにしてもらいたいですね。ビジネスの現場でも同じです。たとえ”個”の力が劣るメンバーがいても、チームの空気が実力以上の力を発揮させてくれるものです。とりわけ日本人は、良くも悪くも空気に感化される人種ですから。
※参考図書:「空気」で人を動かす