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発がん性疑惑の農薬をめぐる米国の巨額訴訟、和解白紙の可能性も 

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
ひよこ豆の料理フムスからもグリホサートが検出された(写真:Panther Media/アフロイメージマート)

発がん性疑惑の除草剤グリホサートをめぐり米国内で起きた巨額訴訟は、6月に原告の独バイエル社が和解を発表したものの、実際には和解が予定通り進んでいないことがわかった。米国では、この間にも新たな訴訟が起こされたり、人気食品からグリホサートが検出されたりするなど、グリホサートに関するニュースが相次いでいる。

バイエル側の姿勢に判事が懸念

巨額訴訟は、グリホサートを有効成分とする除草剤を使用したら、がんを発症したとして、患者らが製造元のバイエルを相手に起こしたもの。バイエルは6月24日、総額109億ドル(約1兆1700億円)を支払うことで和解したと発表した。ニューヨーク・タイムズ紙は、民事訴訟の支払額としては「過去最大級」と報じた。

ところが、現地メディアによると、和解手続きが予定通り進んでいないことがわかった。バイエル側に、和解内容に反するかのような動きも見られ、原告側が不信感を募らせている。原告側の一部の弁護士は、和解手続きを中止し、通常の裁判を進めるよう連邦地裁に要求している。

担当判事もバイエル側の姿勢に懸念を表明し、和解手続きをこのまま進めるか、通常の裁判に戻すか、1カ月以内に再検討する旨を原告、被告双方に伝えた。さらに、このまま和解手続きが進まない場合は、原告側が提出した和解に関する親展書類の内容を公開する可能性も示唆したという。

黒人農家が新たに提訴

グリホサートをめぐる新たな訴訟も起きている。黒人農家らでつくる全国黒人農民協会は26日、バイエルに対し、グリホサートを有効成分とする除草剤の販売を中止するか、あるいは、製品にがんを発症する危険があることを知らせる警告表示をするよう求め、連邦裁判所に提訴した。

報道によると、農民らは米モンサント社(バイエルが2018年に買収したグリホサートの開発会社)の「安全」という言葉を信じて除草剤を使用した結果、がんを発症したと主張。また、モンサントがライバルの同業他社を買収したため、グリホサートを使用するしか選択肢がなかったと訴えている。

フムスからも多量に検出

また、米国の市民団体EWGは先月、ひよこ豆から作る米国の人気料理「フムス」から多量のグリホサートが検出されたと発表した。市販されている45種類のフムス製品を専門機関に依頼して分析したところ、9割以上の製品からグリホサートが検出され、うち13種類は、EWGが安全とみなす残留濃度の上限160 ppb(1ppbは10億分の1)を上回った。最高値は、高級スーパー・チェーン「ホール・フーズ・マーケット」のオリジナル・ブランドで、2,379 ppbだった。

45種類中12種類は、農薬を使用していないはずの有機(オーガニック)フムスだったが、11種類からグリホサートを検出。そのうち1種類は419 ppbを記録し、EWGの安全基準を上回った。これもホール・フーズ・マーケットのブランドだった。

EWGは、有機フムスからグリホサートが検出されたのは、農薬を使っている近隣の圃場に散布されたグリホサートが風で流されてきて、有機ひよこ豆を汚染したと見ている。

以下、参考記事

発がん疑惑の除草剤巡る米巨額訴訟、1兆円で和解 日本でも懸念強まる

新型コロナで人気沸騰の高級蜂蜜から発がん性疑惑農薬

発がん性疑惑の人気除草剤 日本の汚染度は?

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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