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元王座・渡辺明三冠(36)王座戦本戦開幕戦を制して2回戦進出 新鋭・増田康宏六段(22)を降す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 5月1日。第68期王座戦・挑戦者決定トーナメント1回戦▲増田康宏六段(22歳)-△渡辺明三冠(36歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は21時30分に終局。結果は108手で渡辺三冠の勝ちとなりました。

 勝った渡辺三冠は2回戦に進出。行方尚史九段-佐藤天彦九段戦の勝者と対戦します。

渡辺三冠、好発進を飾る

 前記の王座戦の挑戦者決定トーナメント(本戦)は永瀬拓矢叡王が勝ち上がり、斎藤慎太郎王座への挑戦権を獲得しました。

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 五番勝負で永瀬叡王は斎藤王座に3連勝。ストレートで王座を獲得しました。

 前王座の斎藤慎太郎八段は、今期本戦ではトーナメント表の一番右に名前を連ねています。斎藤八段と対戦するのは、延期されている二次予選決勝、藤井聡太七段-大橋貴洸六段戦の勝者となります。

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 愛知県在住の藤井七段は、東京か大阪か、いずれでの対局の際には長距離の移動をともなうため、5月6日まで公式戦の対局がつけられていません。緊急事態宣言の延長となると、さらにまた延期されるのでしょうか。

 渡辺三冠は2011年、羽生善治王座(当時)の王座19連覇という途方もない大記録をストップさせ、王座に1期就いています。前期は2回戦で豊島将之名人に敗れました。

 増田六段は一次予選決勝で師匠の森下卓九段に勝って二次予選に進出。二次予選では戸辺誠七段、中村太地七段に勝利。6連勝で本戦に進んできました。

 渡辺三冠-増田六段戦は振り駒の結果、増田六段の先手と決まりました。戦型は互いに飛車先の歩を伸ばし、交換し合う相掛かりです。

 互いに飛車を中段に構え、さらに互いの弱点の桂頭をねらい合う展開。交換された角を中段に打ち合って、また交換され、今度は互いに相手陣に打ち込みます。

 増田六段は五段目に桂を跳ね出し、中央をくいやぶって王手で飛車を成り込みます。部分的には増田六段成功のようですが、渡辺三冠が玉を逃げてみると、形勢は渡辺三冠がややリードしているようです。

 64手目。増田六段が大きく技をかけてきたところで、渡辺三冠は王手で歩頭に桂を打ち捨てます。これが絶妙の返し技でした。

 渡辺三冠リードで迎えた終盤戦。渡辺玉周辺、盤上隅の狭いところでの攻防で、渡辺三冠がはっきりとした勝ち筋を逃します。詳しくは渡辺三冠のブログをご覧ください。

 勝敗不明の最終盤。増田六段は中段の桂を渡辺陣に飛び込ませます。これで渡辺陣の受けが難しい。そう思われたところで、実は増田玉に頓死の筋が生じていました。

 渡辺三冠は相手の桂がいなくなったスペースに桂を王手で打ちます。以後、最長で二十数手続くものの、増田玉は詰んでいます。渡辺三冠は残り時間が切迫する中で、その詰みを読み切りました。

 渡辺三冠はこれでベスト8に進出。さらにタイトル保持数を増やすべく、好発進を飾りました。

 されそれにしても――。豊島名人に渡辺三冠が挑む名人戦七番勝負はこの先、どうなるのでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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