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アフガニスタン戦大勝にも構造的な問題。香川真司頼みでいいのか?

杉山茂樹スポーツライター

香川と1トップ下の適性

アフガニスタン戦の開始10分、香川真司のミドルシュートが決まっていなかったら、試合の行方はどうなっていただろうか。先制点を早い時間に奪えたことが、6得点に繋がった原因だと思う。

香川といえばミドルシュートが最も期待できない選手の一人。シュートのキック力が不足している一番の選手になる。その香川がミドルシュートを放ったことは、決まったことと同じくらい驚きに値した。今季、好調が伝えられる香川だが、このプレーにそれはよく表れていた。

決定的なシュートミスを犯した先のカンボジア戦も、動きそのものはキレていた。いろいろなシーンによく顔を出し、積極的にプレーに絡んでいたが、それはこの試合にも引き継がれていた。しかし、元気に動き回るほど、4−2−3−1の1トップ下というポジションとの適性に、懐疑的になるのだった。

レバンドフスキ(前ドルトムント、現バイエルン)の下なら分かる。センターフォワードが、ポストプレーに優れたタイプなら問題はないが、岡崎慎司はそうではない。ゴール前でしぶとさを発揮する、得点感覚に優れたゲッターだ。ボールを収める力は高くない。

ボールを収める能力を1トップ下が備えていなければ、パス回しは安定しない。1トップか1トップ下か、どちらかにディフェンダーを背にしたプレーを得意にする選手がいないと、攻撃は理詰めにならない。その他の選手が頭を整理しながら相手ゴールに向かっていくことができない。

「シンジーシンジ」のコンビでは

本田圭佑を1トップ下に使ったザッケローニ采配の方が、パスは高い位置で円滑に回りやすかった。岡崎の1トップ下は本田の方が適任だと思うが、香川はサイドでのプレーが苦手だ。4−2−3−1上では1トップ下以外、こなせない。もし香川を1トップ下に置くなら、岡崎ではない誰か(例えば大迫勇也とか)を1トップに起用した方が、攻撃は円滑になる。

カンボジアに苦戦した理由はまさにそれ。保持率の割に決定機が少なかったことは「シンジーシンジ」の関係に一因があった。このアフガニスタン戦の立ち上がりも、そうした傾向は見え隠れした。香川のミドルシュートがネットに吸い込まれたのは、苦戦の二文字が頭をかすめたその直後だった。

前半は2−0。それでも日本はまだ苦戦の渦中にいた。その呪縛から解放されたのは、香川が左足で決めた3点目あたりからになる。アフガニスタンのモチベーションは、このゴールを機に急速に低下した。

構造的な問題を、問題の一因となっている当事者本人が解決した。これをどう表現すべきか。「香川さまさま」なのだけれど、彼の調子に頼るサッカーでは、日本の行く末は危ない。

アギーレ式4−3−3が懐かしい

もちろん苦戦の原因は、構造的な問題以外にも潜んでいる。

今季の香川は好調だというが、数年前のレベルに戻ったかどうかにすぎない。その香川が好調に見える日本。ここにも問題があると思う。

本田、長友佑都、長谷部誠。岡崎は微妙だが、長年日本を支えてきた主力のベテランたちは、決して調子よく見えない。かつてに比べ20%減。はたしてW杯2018年本大会まで、一定のレベルを維持できるのか。年齢的な問題も抱えている。香川がよく見えるのは、周囲があまりよくないことの裏返しではないのか。

だとすれば、それに代わる若手が控えていないと、代表チームはスムーズに循環しない。終盤、長谷部に代わり遠藤航が投入された。2018年から逆算すれば、遠藤航のような若手がもう3人、4人いないと、新陳代謝は望めないことになる。

ベテランの中で、過去と比較しやすいのは長友だ。サイドバックというポジションとそれは大きく関係するが、スタート位置が低いのだ。これはアギーレジャパンとの比較で明らかになる。

アギーレ式4−3−3は、マイボールに転じると3−4−3に変化した。アンカーの長谷部が最終ラインに下がり、それと同時にサイドバックが、インサイドハーフと同じ高さまで、自動的にせり上がる仕組みになっていた。

それに比べると、いまは数メーター低い。サイドバックには長駆の駆け上がりが求められるようになっている。右の酒井宏樹は馬力があるのでなんとか対応できるが、長友には少しつらい。長友を見ていると、日本の現状には、アギーレ式の方が相応しいように見える。

6点目のゴールを先制点にできるか

両センターバックの間隔を広く保ち、そこに長谷部を滑り込ませて3バック的にし、両サイドバックが攻め上がりやすい環境を作った方が、チャンスは増える。引いた相手にはサイド攻撃が有効と言われるが、そのためにはサイドバックの活躍、高いポジショニングが不可欠だ。

そうした意味で、理にかなったゴールに見えたのが、本田が押し込んだ最後の6点目だ。左のタッチライン際で、長友と香川が細かく絡み、そのボールを、トップスピードに乗った宇佐美貴史がその内側で受けて走ってマイナスに折り返したプレー。これは、引いた相手を崩すサイド攻撃のお手本と言えた。

サイドで数的優位を作り、その中からスピード感を演出するひねりの利いたサイド攻撃。これを6点目ではなく、先制点にできるか。相手が戦意喪失した終盤ではなく、やる気に満ちた立ち上がりから披露できるか。

いま元気に見えるのは香川と山口蛍ぐらいだ。調子のよい選手に頼るサッカーでは今後が危ない。調子に左右されない安定感は、構造的な問題を解決しない限り生まれないと僕は思う。

(集英社 Web Sportiva 9月9日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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