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新型コロナ感染症:ウイルスの除去と手指衛生について注意すべきこと

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 次亜塩素酸水の情報について混乱が生じてきたが、政府行政が最終的な判断を発表し、一定の決着がついた形になった。新型コロナ感染症は感染者が減らない状況が続いているが、ウイルス除去と手指衛生について日常的な留意点などをまとめてみた(この記事は2020/06/27の情報に基づいて書いています)。

最新の情報を得ておく

 まず最初に述べておきたいのは、医薬品も同じだが用量や使い方次第で毒にも薬にもなる。消毒剤も正しく使わないと、効果がないばかりか人体に有害な影響を及ぼすことがあるということだ。

 除菌や消毒の目的で使われる薬剤や成分は、一般的に多く使えば効果が強く表れるが同時に人体や環境への害も大きくなる。ウイルスを減らしたり細菌を殺したりするのだから、人体への影響も無視できないことを知っておいたほうがいい。

 また、これらの薬剤や成分は、手指や皮膚、人体へ使ってかまわないもの、物品にも使用できるもの、物品にしか使用できず、人体へ使うのは危険なものに分けられる。つまり、ウイルスや細菌に対して効果があるが、人体に対して使ってはならない薬剤や成分があるということだ。

 当然、新型コロナウイルスばかりに話題が集まるが、これらの薬剤や成分はウイルスや細菌の種類ごとに効果が異なることにも注意が必要だ。食中毒の危険が増す季節でもあるので、どうせなら新型コロナウイルス以外のウイルスや細菌に対する効果を知っておいたほうがいい。

 そして、これらの薬剤や成分については、最新の情報を得ておく必要もある。

 例えば、米国の食品医薬品局(FDA)は2016年9月にトリクロサンやトリクロカルバンなど19種類の抗菌石けんに含まれる成分の販売停止(1年以内)を発表した。

 その理由は、有効性と安全性への疑義、耐性菌の出現と環境ホルモンの危険性などによる。その後の研究でトリクロサンの発がん性や有害性などが確認されたが(※1)、それ以前から有害性が懸念されていたのにもかかわらず(※2)、FDAの決定までに発表されたいくつかの論文にはトリクロサンの人体への影響は言及されていない(※3)。

 これらの注意点をまとめると以下のようになる。

  • 正しい使い方をする
  • 人体と物品に分ける
  • 最新の情報を得る

 製品がうたう言葉の使い方にも注意したい。日本石鹸洗剤工業会のホームページによれば、「減菌・殺菌・消毒」は医薬品や薬用石けんなどの医薬部外品などにしか使えない言葉だ。例えば、アルコールスプレーや住居・家具用洗剤、話題の次亜塩素酸水は医薬品などに該当しない日用雑貨で「除菌・抗菌」といった言葉しか使用できない。

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「減菌・殺菌・消毒」と「除菌・抗菌」で使える製品が違ってくる。「静菌」という言葉もあるが定義や法令は定まっていない。作図筆者

次亜塩素酸水はどうなったか

 その次亜塩素酸水だが、経済産業省は6月26日、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)で行われてきた「新型コロナウイルスに対する代替消毒方法の有効性評価に関する検討委員会」の第5回(最終回)の報告を発表した(厚生労働省)。これにより議論が続いてきた界面活性剤(合成洗剤の成分)と次亜塩素酸水について、政府としての最終的な評価が定まったことになる。

 この発表によると、次亜塩素酸水(有効塩素濃度35ppm以上)とジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを水に溶かしたもの(有効塩素濃度100ppm以上)について、物品に対して新型コロナウイルスへの消毒・除菌の有効性が確認された。このジクロロイソシアヌル酸ナトリウムは、錠剤や顆粒としてプールの消毒などに使われる塩素系消毒剤で、医療機関の消毒などに使われ、新型コロナウイルスに対する有効性も確認されているが1000ppm〜5000ppmという高濃度のようだ(※4)。

 ちなみに、次亜塩素酸水と塩素系漂白剤などを希釈した次亜塩素酸ナトリウムとは別のもので、次亜塩素酸ナトリウムは使用法を間違えると有毒ガスが発生するなど注意が必要だ。

 ハイター(花王)などの次亜塩素酸ナトリウムを水道水で希釈し、次亜塩素酸ナトリウム液を作ることができるが、人によって皮膚に炎症を引き起こすこともあるため、取扱いはゴム手袋をつけるなど注意が必要だ。一方の次亜塩素酸水のほうは、今回のNITEは評価していないが人体への強い影響はないとされる。

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次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムを間違えないようにしたい。作図筆者

 新型コロナウイルスの消毒を目的にして次亜塩素酸水を拭き掃除に使う場合、有効塩素濃度80ppm以上(汚れがひどい場合は200ppm以上。ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを水に溶かしたものは100ppm以上)で、物品表面の汚れをあらかじめ落としておき、十分な量で消毒したい物品の表面をヒタヒタに濡らし、拭き取ることを推奨している。また、流水で次亜塩素酸水をかけ流す場合、有効塩素濃度35ppm以上のものを用いることを推奨している。

 なお、手指などへの影響、空間噴霧の有効性や安全性は評価していないとしているが、厚生労働省のホームページには「補論」として世界保健機関(WHO)や米国疾病予防管理センター(CDC)の見解やガイドラインをひき、消毒剤の空間噴霧などは推奨しないとしている。前述したように減菌や殺菌、消毒といった効果効能をうたう場合、薬機法により医薬品・医薬部外品の承認が必要だが、現時点で空間噴霧用の消毒薬としての次亜塩素酸水が承認された例はない。

 以上から、NITEは次亜塩素酸水とジクロロイソシアヌル酸ナトリウムについて、新型コロナウイルスを消毒するためには十分な有効塩素濃度が必要であるとした。また、手指などへの影響については評価しておらず、厚生労働省は空間噴霧について推奨しないということになったようだ。

空間噴霧についてはこれからか

 6月11日に新型コロナウイルスを次亜塩素酸水が不活性化した試験結果について記者発表した北海道大学の玉城英彦名誉教授は手指衛生に関し、筆者の取材に対して「次亜塩素酸水はウイルスに直接触れて効果を発揮しますので、まず手洗いで手についた有機物を洗い流し、十分な量の次亜塩素酸水を使うのがより有効だと思います」と述べている。

 また、空間噴霧について「WHOやCDCは次亜塩素酸水について噴霧するなといっているわけではない」としつつ「私は個人的に人体への直接噴霧には慎重です。というのは、十分なエビデンスがないからです。これを実証するのは環境ウイルス学的に非常に難しく、また検証方法も確立されていません。しかし、どの次亜塩素酸水を選ぶかにもよりますが、無人の教室や講堂、体育館などへの噴霧を検討する価値はあると思います。また、三密が避けられない災害時などを想定する必要もあるので、噴霧の効用などについて今後調査していきたいと思っています」とした。

 次亜塩素酸水は電気分解法や炭酸ガス式などいくつか製造方法があり、製造装置も通販などで入手可能だが、劣化する速度が速いので製造直後にすぐに使い切るか、密閉容器に保存する必要がある。劣化するとウイルスの組織を破壊する酸化作用が減衰し、本来の殺菌効果がなくなる。濃度依存性が高いのできちんとした品質管理が重要だが、次亜塩素酸水を日用雑貨扱いにしたままで監督官庁はどう判断するのだろうか。

 次亜塩素酸水に関する議論が長引いたのは、実験機関によって使用した製造装置が異なっていたり、製造後どれくらいで試験したのかや保存方法が異なっていたりいたからだろう。また、食品添加物であることで安全性をことさらに強調し、医薬品でない雑貨扱いということで各都道府県の薬事指導課で対応がまちまちだったことも大きい。

 いずれにせよ、次亜塩素酸水は、物品や食品のノロウイルスやアデノウイルス、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、ヘルペスウイルス、ヒトインフルエンザウイルスなどに対しても効果が確認されているようだ。次亜塩素酸ナトリウムに遜色ない効果があるということになる。

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次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムのウイルスや細菌への効果。Via:厚生労働省「薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品部会」配付資料、2009年

 新型コロナウイルスの消毒、除菌で、住宅や家具、電化製品などの物品については、アルコール、熱水、塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)など、家庭用洗剤、住宅・家具用洗剤、そして次亜塩素酸水(前述した濃度以上)が効果があるということになる。

 NITEによる今回の発表では、何種類かの界面活性剤などを含む家庭用の住宅・家具用洗剤についても新型コロナウイルスの消毒への有効性を確認している。

 こうした家庭用の洗剤を使う場合、用途に合った製品を選ぶこと、肌に触れないようゴム手袋などを使用すること、電化製品など消毒する対象の素材などによって使えないものがあったり、希釈タイプの場合は必ず決められた量で薄めること、吸い込むと危険だったりショートすることがあるので電化製品にスプレータイプを噴霧しないなどの点が喚起されている。

 台所用洗剤を流用する場合、小さじ1杯5ミリリットルを洗面器などに入れた水500ミリリットル(1/100)に薄めて使用し、プラスチックなどの材質によっては、家庭用洗剤を使用後に放置すると傷むことがあるので、拭き取ってから5分ほどした後、水拭きして最後にから拭きしたほうがいいとしている。また、台所用洗剤は効果がなくなるので作り置きせず、作ったら使い切るよう推奨している。

 これらの界面活性剤が入った洗剤類をスプレー噴霧、特に超音波加湿器などで空中へ噴霧させるのはやめるべきだ。PM2.5以下の微小粒子状物質になって肺などの呼吸器へ入り込み、健康へ害を及ぼす危険性がある。これは次亜塩素酸水でも同じだ。

携帯用の手指衛生は

 最後に、日常的に持ち歩いたりするタイプの手指衛生製品はどのようなものがいいのか考えてみたい。

 新型コロナウイルスの除去に関し、手指や皮膚には、石けん、ハンドソープによる手洗い、アルコール(エタノール、イソプロパノール、60%以上、95%以下)が効果があるとされている。また、持ち歩きタイプで手指の衛生に使う場合、医薬品の薬用石けん、第四級アンモニウム塩が成分に入っている除菌ウェットティッシュなどがいいだろう。

 また、石けんやハンドソープで入念に手洗いすれば、新型コロナウイルスに限らず、ウイルスや細菌のほとんど除去することができる。十分な量の石けんなどをつけ、10秒間のもみ洗いと流水でのすすぎ15秒間を2回繰り返せば、ウイルスは約0.0001%にまで減らすことが可能という実験もある(※5)。

 擦式アルコール製剤を使う場合、手の平に適量を取って手全体に塗り、乾燥するまで擦る。ちなみに、WHOのガイドラインでは、皮膚への刺激が強くなる危険性があるため、石けんとアルコール製剤の併用は避けるべきとしている(※6)。

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擦式アルコール製剤による手の洗い方。20~30秒。1a、1b:お椀型にした手にアルコール製剤を取る。2:手の平同士を擦る。3:指を組み合わせ、手の平で逆の手の背を交互に擦る。4:指を組み合わせ、手の平同士を擦る。5:両手の指を連結させ、指の背で逆の手の平を擦る。6:親指を逆の手で握って回転させて交互に擦る。7:指の先で逆の手の平の内側を回転させながら擦る。8:完全に乾燥させる。Via:WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care, 2009

 石けんやアルコールを使い過ぎると、手指や肌が荒れてしまうことも多い。一般の液体洗浄剤は合成界面活性剤が影響し、手の皮膚のバリア機能を壊すこともある。その場合、無添加の純度の高いワセリンを塗るのがいいようだ。

※1-1:Haixia Yang, et al., "A common antimicrobial additive increases colonic inflammation and colitis-associated colon tumorigenesis in mice." Science Translational Medicine, Vol.10, Issue443, May, 30, 2018

※1-2:Hongna Zhang, et al., "Integration of Metabolomics and Lipidomics Reveals Metabolic Mechanisms of Triclosan-Induced Toxicity in Human Hepatocytes." Environmental Science & Technology, Vol.53, Issue9, 5406-5415, April, 9, 2019

※2-1:Richard J. Heath, Charles O. Rock, "A triclosan-resistant bacterial enzyme." nature, Vol.406, 2000

※2-2:David R. Orvos, et al., "Aquatic toxicity of triclosan." Environmental Toxicology and Chemistry, Vol.21, Issue7, 1338-1349, July, 2002

※3-1:Gunter Kampf, Axel Kramer, "Epidemiologic Background of Hand Hygiene and Evaluation of the Most Important Agents for Scrubs and Rubs." Clinical Microbiology Review, Vol.17, No.4, 863-893, October, 2004

※3-2:A D. Russell, "Whither triclosan?" Journal of Antimicrobial Chemotherapy, Vol.53, 693-695, 2004

※4-1:Po Ying Chia, et al., "Detection of air and surface contamination by SARS-CoV-2 in hospital rooms of infected patients." nature communications, Vol.11, May, 29, 2020

※4-2:Sean Wei Xiang Ong, et al., "Air, Surface Environmental, and Personal Protective Equipment Contamination by Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2) From a Symptomatic Patient." JAMA, Vol.323(16), 1610-1612, 2020

※5:森功次ら「Norovirusの代替指標としてFeline Calicivirusを用いた手洗いによるウイルス除去効果の検討」、感染症学雑誌、第80巻、第5号、2006

※6-1:G Kampf, H Loffler, "Dermatological aspects of a successful introduction and continuation of alcohol-based hand rubs for hygienic hand disinfection." Journal of Hospital Infection, Vol.55, Issue1, 1-7, 2003

※6-2:G Kampf, H Loffler, "Prevention of Irritant Contact Dermatitis among Health Care Workers by Using Evidence-Based Hand Hygiene Practices: A Review." Industrial Health, Vol.45, 645-652, 2007

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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