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コミュニケーションが"クソリプ"となる時

dragonerWebライター(石動竜仁)
ある日、突然大量のリプライが貴方に来たら……(写真:アフロ)

情報収集やコミュニケーションに、絶大な威力を発揮するソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)。スマートフォンを持つ人なら、どれかひとつはSNSを利用しているのではないでしょうか。SNSは多くの人と交流を深めることも出来るのが魅力ですが、密接かつ大量の交流は人にとっては負担かもしれませんし、「SNS疲れ」といった言葉も聞かれるようにもなってますね。

さて、今回紹介するのは最近のSNSであった、突然様々な人からの接触にさらされた個人と、その結果の話です。

召集令状を拒否して逃げた家族の話

毎年8月になると、戦争に関連した話題をあちこちで目にします。今年は太平洋戦争終戦70周年の節目で、安保関連法案の審議真っ最中ということもあり、メディアからSNSに至るまで様々なところで戦争が語られていました。

終戦の日の8月15日、ツイッター上で戦時中の家族の体験をツイート(書き込み)した人(ツイート主)がいました。召集令状が家族にも来たけど応じず、家族ごと蒸発して無事終戦を迎えた、という内容です。この一連のツイートは、多くの人によってリツイート(拡散)され、各まとめサイトで紹介されるなど、大きな反響がありました。

私にもこのツイートが回ってきた時、たいした家族だと驚嘆しましたが、当時こんな徴兵逃れが可能かという疑問と、話がキレイにまとまり過ぎている事に違和感を覚えました。そして、召集に応じて亡くなった大勢の人がいることを考えると、そこから逃れた家族の話に反感を覚える人は少なからずいるだろうし、特にネット右翼と呼ばれる人の神経を逆撫でして、ツイート主が嫌がらせを受けるのではないか。そのような懸念が頭をよぎったため、リツイートは控えて、そっと見送ることにしました。

まとめの削除とバッシング疑惑

ところが、8月17日になってから、ツイッターが騒がしくなりました。徴兵逃れのツイートをまとめたTogetterまとめが削除され、ツイート主のアカウントが許可された人しか見れないよう鍵がかけられていたのです。多くの方がツイート主が嫌がらせを受けたのかとツイートしていましたし、私もそう思ってツイートしていました。この事態に最も強く反応したと思われるある作家アカウントは、ツイート主へのバッシングがこの事態を引き起こしたとして、バッシングをした日本人や日本社会への痛烈な批判ツイートを行っていました。

ところが、削除されたTogetterまとめを編集した人(まとめ主)は、削除の理由をこうツイートしました。

何度か言っておりますが、叩かれて閉じたというより、まとめのあまりの反響に発言主に大量のリプが届き、ツイッターがまともに使用出来なくなり鍵をかけて、自分が苦情をうけつけて削除したという流れです。一応、非難の声は結構あったそうですが、主な理由はリプの数です。

出典:まとめ主のツイートより

まとめ主によると、削除の原因はツイート主にリプライ(ツイッターでその人に宛てたツイート)が大量に押し寄せ、ツイッターがまともに使う事が出来なくなったためだそうです。ツイート主が鍵をかけてしまっている以上、外部から窺い知れる当事者情報は、この方のツイートがいちばん信頼性が高いと思われます。しかし、これらの事情を説明したツイートはまるで拡散されません。その反面、バッシング説を強調して日本社会を批判した作家のツイートは、まとめ主の説明ツイート以上に大規模に拡散されていました。その作家に削除の主因はバッシングでないらしいと伝えた人もいましたが、「ツイッター使うのが支障くるくらいの状況なら僕の感覚では「圧力」」、「(リプライ)どういう内容だったかは知るすべがない」と取り下げるつもりは無いようです。

この騒動を傍から見ていましたが、ツイート主に大量にリプライが来ていた事については、皆意見が一致していました。問題はそれが罵倒などのバッシングによるものか、あるいは違うものだったのか、というリプライの内容の話になってきます。

この件について、騒動になった割には真相がハッキリしないのにモヤモヤ感を抱いたのと、当事者の説明に納得しないにも関わらず調べる気も見せない人々に呆れ果てたので、ツイッター検索を利用してどのようなリプライがツイート主に来たのか調べ、事実の一端を明らかにしようと思いました。

調査とその結果。ごく少数の悪意

リプライの傾向を利用するにあたっては、Twitter社が提供しているツイッター検索を利用しました。難しいものでなく、ツイッターのホーム画面をWebブラウザで閲覧すれば、右上に出てくる検索スペースのことです。色々と検索語を試した結果、ツイート主のアカウントをそのまま入れれば、引用ツイートも含めた多くのリプライを抽出する事が出来ました。この検索語で検索をかけ、ツイート主の家族についてのツイート直後から、まとめが削除されてツイート主が鍵をかけた事がツイートされるまでの期間に、ツイート主に送られたリプライを抽出します。

抽出したリプライは、その内容ごとに分類をかけました。分類は以下の5つです。

  1. 「賞賛」:好意的なリプライ
  2. 「批判」:批判的なリプライ
  3. 「疑問」:話の実在性を疑問視するリプライ
  4. 「bot」:機械的・自動的にbotが送るリプライ
  5. 「中性」:特に思想性の無いリプライ

この作業はどうしても私の主観が入ってしまうため、他の方が分類におかしな点が無いかを確認出来るよう、抽出したツイート一覧とその分類表を作成してWeb上に公開しました(記事末にリンク)。また、ツイッター検索はどうも信用の置けないところがあり、全体の一部しか引っかからないという話もあり、リプライの全てが表示される確証は持てませんし、バッシングを行った者は騒ぎが大きくなったのを見て、自分のリプライを削除したかもしれません。そういったことを踏まえた上で、結果を見てみましょう。

リプライ傾向の集計グラフ(dragoner調べ)
リプライ傾向の集計グラフ(dragoner調べ)

家族の話に関するツイート主へのリプライ総数は156件で、リプライをしたユニークアカウント総数は138確認出来ました。リプライ内容の内訳を見ると、「賞賛」、「bot」、「中性」がほぼ同数で大部分を占めており、「疑問」や「批判」といったリプライは少数しか見られませんでした。それぞれの要素について見てみましょう。

まず、あるかないかが焦点である、バッシング的な批判はあったでしょうか? 4つの「批判」リプライからは、とりたてて攻撃的と呼べるものはありませんでした。これは主観が入るので断定は出来ませんが、皮肉を込めたものはあっても、恫喝や脅迫的なものはありません。この数と内容で、バッシングとは言えないのではないでしょうか。「疑問」も否定的な意味あいがありますが、挑発的に問いただすアカウントが見られる程度で、「ホント?」みたいな反応が大半です。前述したように、この結果はツイッターであった全リプライのごく一部に過ぎないのかもしれませんが、一部にしても悪意あるツイートの痕跡が見られません。

次に思想的、感情的なものが薄いリプライはどうでしょうか。思想が全く絡まないのが「bot」で、多くリツイートされているツイートに反応してリプライや引用ツイートを流すものばかりです。これは全くの機械的なもので、批判も賞賛も関係ありませんが、短時間に一気にリプライ・引用ツイートを流してくるため、非常に鬱陶しいものです。

そして「賞賛」です。「素晴らしい!」、「すごい!」といった、ツイート主の家族を讃えるリプライは2番目に多かったですが、さすがに2日で40以上来ると、送られた側はウンザリするかもしれません。

最後に48件と一番多かった「中性」です。この分類は様々なリプライ内容がありましたが、内容が自己完結しているもの、一方的に自分の家族の戦時中の話や政治的心情を送ってくるもの、明らかに返事を期待していないであろう論評などが見られました。決して悪意が込められたリプライではないのですが、こんなものが大量に送られてきたら、たまったものじゃないでしょう。

悪意なき"クソリプ"の猛威

自分が調べた中で出した結論としては、リプライのほとんどは敵意の無いものだが、あまりに数が多いので、敵意の有無に関わらずウンザリさせられてしまう。つまり、まとめ主の説明を補強する結果となりました。リプライが多すぎたのです。

このリプライを集計している中で、意味が無い、あるいはコミュニケーションを取るつもりの無いリプライのあまりの多さに、リプライを送られてない私もウンザリしてしまいました。たまに来るくらいなら、気前よく返事も出来るかもしれませんが、2日で100以上来たらと思うと、薄ら寒いものがあります。鍵をかけるのも無理はありません。

この事態の教訓としては、わっと拡散されたツイートを読んでも、いわゆる意味の無い「クソリプ」をツイート主に送るのは控える、というところに落ち着くでしょうか。しかし、意味が与えられた善意のリプライであったとしても、その他大勢のリプライの中にあってはクソリプのひとつと化してしまうでしょう。また、リプライする側がツイートを読み違えたことによって、ツイート主にとっては的外れなクソリプとなる事も多くあるでしょうから、こうなってくるとコミュニケーション全般の問題になってしまいますね。意図せざるクソリプは、ある意味必然と言えます。

ただ、全てを必然性で説明するのも逃げになるでしょう。今相手が置かれている状況を察して、自分のリプライが相手にとって負担になるかを判断する程度の手間をかけるだけで、だいぶ変わってくるかもしれません。悪意が無くても、善意であってすらクソリプとなる可能性があるなら、それを相手への察しと思いやりで防ぐことも出来るのではないでしょうか。

※この記事で示した集計データは、dragoner.ねっと「誰が「召集拒否家族」のまとめを消させたか? という話」にて公開してあります。

Webライター(石動竜仁)

dragoner、あるいは石動竜仁と名乗る。新旧の防衛・軍事ネタを中心に、ネットやサブカルチャーといった分野でも記事を執筆中。最近は自然問題にも興味を持ち、見習い猟師中。

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