タイガースアカデミー岡山校&ジュニアチームコーチの森田一成さんが、子どもたちに伝えたいこと
元阪神タイガースの森田一成さん(34)がコーチと運営を務める『タイガースアカデミー岡山校』は、同アカデミー初の姉妹校として2021年1月に開校しました。その森田コーチが、ことしは『NPB12球団ジュニアトーナメント』に出場する阪神タイガースジュニアチームのコーチにも就任。夏から活動しています。
森田コーチの他、タイガースアカデミーでコーチを務める玉置隆さん(37)も投手コーチになりました。監督は同じくアカデミーコーチの柴田講平さん(37)。昨年ついに初優勝を果たした阪神タイガースジュニアですから、ことしの注目度は高いでしょう。“親チーム”も日本一になりましたしね。
夏のセレクションから始まり、練習や実戦で指導を重ねてきた森田コーチも楽しみな様子でした。その話もご紹介します。ことしの『NPB12球団ジュニアトーナメント KONAMI CUP 2023』は、12月26日から28日まで明治神宮野球場と横浜スタジアムで開催予定です。
岡山校の甲子園体験ツアー
さて昨年に続き、ことしもタイガースアカデミー岡山校のイベント・甲子園体験ツアーが行われました。11月26日、阪神甲子園球場で『第19回タイガースカップ~2023年中学生硬式野球・関西No.1決定戦~』を観戦し、全試合終了後のグラウンドを体感するというものです。
昨年はその日のタイガースカップが雨天中止となったため、時間を早めて行ったのですが、ことしはスタンドで自由に試合を観て、そのあと子どもたちも親御さんも一緒にグラウンドへ集合。
短い時間ではありますが、マウンドや打席に立ってみたり、さらには外野芝生部分を一周することも可能で、ちょうどこの前日に行われたファン感謝デーでも選手たちがペナントを持って歩いた外野のフェンス際ですからね。迷わず私も一緒に歩きました。
もちろん、歩きながら参加者に話を聞くという使命は果たしています。それをまずご紹介しましょう。
◆孝橋 奏磨(そうま)くん 4年生
奏磨くんは昨年の甲子園ツアーにも参加していました。雨だったものの室内で練習もできて楽しかったと言います。そして今回は甲子園のグラウンドに立ったわけで、今まで入ったことは?「ないです」。そうですよねえ。
一塁側から外野へ向かいながら、そんな話をしていてセンターに到着。ここは近本選手が守っているあたりですよ。外野から見る光景はなかなかないでしょう。どうですか?「けっこう広い」。さっきはマウンドにも立っていましたね。高かった?「はい」
奏磨くんはタイガースアカデミー岡山校に入って何年?「3年目くらいです」。少年野球チームなどには入っていませんが、アカデミーで打ったり投げたりと野球体験中。楽しいですか?「はい!」
どんなところが?「うーんと。みんなと一緒にキャッチボールができたり、そういう一緒に仲良くするところが楽しいです」。アカデミーで友だちもできた?「はい」
ところで、阪神タイガースは好きですか?「好きです」。誰が好き?「近本選手です!」と、ここだけは素早い返事でした。どういうところが好き?「たくさんヒットを打てるとこ!」。他には?「森下選手」だそうです。
◆本松 羅麗(らうる)くん 2年生
次も同じく2年連続で甲子園ツアー参加の羅麗くん。昨年は1年生で、本当に小さくて私も印象に残っていました。羅麗君も去年のことは覚えていますか?「覚えています!」。背も伸びて、お兄さんになって、その分ちょっと照れ具合も増したみたいで、あんまり多くはしゃべってくれなかったけど、ニコニコ楽しそうです。
ことしは甲子園のグラウンドに入れたね。初めて?「うん」。どうだった?広かった?「うん」。芝生は?「気持ちよかった!」。甲子園のグラウンドで、おじいちゃんとキャッチボールもできた。これは自慢できますね。誰に言いましょう?「友だち」
羅麗くんは阪神ファンですか?「…」。違うのかな。じゃあプロ野球が好き?「…」。というわけでもないのか。ご家族の方に聞いてみると、おじいちゃんがプロ野球好きで、実は代々の巨人ファンだとか。なるほど、そういうことでしたか。
好きな選手がいるか尋ねると、ずいぶん悩んでいる様子だったので、例えば大谷翔平選手とか?と振ってみたら「あ、言われちゃった」とお母さん。あらら、ごめんなさい。
タイガースアカデミー岡山校に入って2年目。打つのと投げるのと、どっちが好きですか?「打つのが楽しい」。そうなんですね。アカデミーは楽しい?「うん!楽しいです」。どんなとこが楽しいですか?「それはわかりません(笑)」。最後はちょっとふざけて照れ笑いでした。
◆守安 保翔(たもつ)くん 4年生
続いては、森田コーチの恩師である関西高校野球部・守安基弘部長の息子さんで、やはり昨年も参加していた保翔くんです。ことしはタイガースカップも観戦できてよかったですね。中学生の試合はどうでしたか?「やっぱりレベルが高いなと思った」
甲子園のグラウンドを歩けるなんて、なかなかない機会でしょう?「はい、ほとんどないです」。どう感じましたか?「大きかった」。お父さんの影響もあり、野球は小さい頃から身近だった保翔くん。野球選手になりたい?「なれたらいいなと思う」
野球はタイガースアカデミーのみで、1年生から通っています。ピッチャーをやりたいとか、ここを守りたいとか、そういうのはまだ考えていない?「まあ、はい」。でも打つのと投げるのと、どっちが好きというのはある?「まあ、打つ方かな?」
奏磨くんと一緒で、1年生から通っているタイガースアカデミー岡山校。楽しい?と聞いたら「はい。友だちと一緒にバッティングとかキャッチボールとかするのが好きです」と答えてくれました。本当に2人は仲良しですもんね。
阪神ファンですか?という問いに、しっかりうなずいてくれてホッ。よかった(笑)。誰が好きなのか尋ねる前に「ほら、近本選手のファンです!って」と森田コーチに促された保翔くん。日本シリーズも観ていた?「観てた!」
さっき、近本選手が守るセンターのあたりを歩いてみて、どうだった?「なんか難しそう」。おお、そういう感想なんですね。いずれ、あんなふうに保翔くんが甲子園のグラウンドに立っていたら嬉しいです。
◆山本 莉愛叶(りあと)くん 5年生
最後は莉愛斗くん。彼も昨年の甲子園体験ツアーで会いました。本人は相当な恥ずかしがり屋さんなので、話はお母さんの智美さんに伺っています。
アカデミーはいつから?「3年生の4月からです」。もうすぐ2年ですね。本人が入りたいと言って?「あ、いや…(笑)」。なるほど、阪神ファンのお母さんの希望で?「はい(笑)。阪神ファンというか、上本選手ファンです」
おお~上本博紀さん(37)ですか!阪神のファーム野手コーチに就任したばかりで、この日はスタンドで森田コーチとともにタイガースカップを観戦していたとか。「はい、そうみたいで。遠目に見ていました」
ことし阪神タイガースWomenの監督を務めた上本さん、昨年はタイガースジュニアチーム監督として初優勝に導いたわけで、息子さんが入っていたら…ですよね?「そう思っていたんですけど…でも、もうコーチになっちゃって。だんだん遠くなります」
莉愛叶くんは好きな選手がいますか?「近本選手です」とこれは本人の回答です。甲子園のグラウンドに初めて入ってみての感想は、再びお母さん。「マウンドからは意外と近く見えたと言っていました」
どこを守っているんですか?「今はソフトボールで、キャッチャーですけど。中学からピッチャーやりたいと言っています」とお母さん。本人はプロ野球選手になりたいと?「はい!阪神に入りたいそうです(笑)」
そうなったら、お母さんが一番のファンですね。お母さんと2人での写真撮影も恥ずかしかったと思いますが、ちゃんと対応してくれた莉愛斗くん。ありがとうございました!
当たり前じゃないことに感謝!
では森田コーチの話をご紹介します。「中に入れたのが最高だった」という子どもたち、「普段はチケットを取れないような席で試合を観られてよかった」というお父さん、そしてマウンドに立ったり外野を歩く子どもたちの姿を撮影するお母さん。みんな本当に嬉しそうでしたね。
森田コーチも、そんな様子に「はい、写真、写真撮って。年賀状はもうこれで決まりやね」とニコニコ。ただしタイガースカップの試合後で、本来ならすぐ整備をするべき時間にグラウンドへ入らせてもらうわけで「時間がないからね。早くね」と促す役割も担っています。
今回の体験ツアーには、球団振興部に所属する阪神OBの白仁田寛和さん(38)や鶴直人さん(36)が尽力くださったそうです。森田コーチいわく「白仁田さん、鶴さんが阪神園芸さんに掛け合ってくれて。厳しいかもしれない…と言われていたけど、おかげでOKをもらえた」とのこと。
前日の11月25日は阪神タイガースのファン感謝デーで、その後に阪神タイガースのジュニアチームがグラウンド練習をするのは毎年恒例となっています。ことしジュニアチームのコーチになった森田コーチも、もちろん参加しました。
そこで、阪神園芸株式会社スポーツ施設本部甲子園施設部長の金沢健児さんと顔を合わせた際に、森田コーチも感謝の意を伝えたとか。金沢さんは「いいよ~短い時間だけど」と言ってくださったそうで「前の日に直接あいさつができてよかった」と森田コーチは振り返っています。
現役時代もお世話になった阪神園芸さんや、ともに汗を流した先輩方との縁があり、今の自分がいるのだと常に語る森田コーチ。
「ありがたいこと。当たり前じゃないことをしてくれとるんやから。ほんまに、感謝のみだわ」
そうやって実現した今回の“甲子園グラウンド体験ツアー”ですが、承諾を得ていたとはいえ、何かで変更になる可能性も考えられるため、保護者の方々には「当日までわからない」と言ってあったそうです。だから余計に皆さん、嬉しかったでしょうね。
兄貴と慕う玉置コーチ
ここからは、ことし就任した阪神タイガースジュニアチームのコーチについての話を聞いています。
まず8月末まで行われたセレクションでメンバーを決定、それからは土日ごとの練習がほぼ毎週続きました。練習試合も日に2試合など、かなりの数をこなしたそうです。「楽しい。毎週のように会っていると、やっぱり情も移るけん」と森田コーチ。
手応えを聞いてみたものの「本戦に出たことがないからわからんなあって、玉置さんとも言ってる」と。確かに、それはそうでしょう。ましてや戦うのは小学5、6年生の子どもたちですしね。
森田コーチが「ジュニアチームのコーチも楽しい」と語る理由に「玉置さんがいるから余計に楽しい」という言葉がありました。阪神では7年間、一緒にプレーしていますが「現役時代はそんなにメシ行ったりとかしてなかったんやけどね」とのこと。
それは「嫌いってことじゃなくて、玉置さんは鶴さんとかキヨ(森田コーチと同期で同い年の清原大貴投手)とか、ピッチャーと一緒だったので、なかなか機会がなかった」のだそうです。
「でも、ええ人じゃとは思っていたんよ。そやけど、こんなにええ人とは思わんかった!社会人でもやって、いろんな経験してきてるからなあ。玉置さんがおらんかったら続いて居ないかも…。愚痴も聞いてくれて、ほんで笑かしてくれて(笑)」
笑わせてくれるの?「おもしろいんよ。みんなを笑かしてくれる」。子どもたちも?「そう!」。なるほど、そこはやはり関西人の性(さが)、と言えるかもしれませんね。森田コーチにとって玉置先輩はどんな存在ですか?「兄貴って感じかな、今は」
森田コーチは“小姑”?
そんな玉置コーチと森田コーチ、ジュニアチームの指導において、自然と分担された役割があるみたいです。
「玉置さんはおもしろくて、僕は小姑みたいにいっぱい言う」。小姑!それはまた意外な(笑)。「そう。根気よく、諦めずに何度も何度も」。どんなことを?「まあ自分が言われてきたこと。ポケットに手を突っ込むなとか、返事をしなさいとか、移動する時にダラダラするなとか」。まさに小言ですね。
「野球以外のことだけど、社会に出てもそうでしょ?上司や先輩の前でポケットに手を突っ込んでたらあかん。寒いなら手袋をしてこいって」。はい、よくわかります。
「平田さん、壮さん、豊さんに毎日そう言われてきて、本当にありがたかったと思う」。自身が阪神時代に鳴尾浜で指導を受けた、当時の平田勝男ファーム監督、筒井壮コーチ、中村豊コーチの名前を挙げました。
野球の前に、人としての立ち居振る舞いや礼儀作法を叩き込まれたといっても過言ではありません。森田コーチにとって「怖くてしかたなかった」けれど、とてもありがたくて大切な時間だったのでしょう。だからこそ、それを子どもたちに伝えてあげたいと言います。
森田コーチが細々と注意して、玉置コーチが笑わせて、まあいいコンビですね。
「子どもたちに嫌われたくないと思ったら言えないんやろうけど、でも俺は愛情があるから言ってもらったと思ってる。そうやって言ってもらえるのがありがたかった。だから俺も言うんよ。“ちゃんと走らんといけんで!”って、選手ひとりひとりに言う」
その気持ちを今すぐに理解できなくても、何年か経って「あの時に言われたことが自分のためになった」と思い返す子がいますよ、きっと。例えば数年先のドラフトで指名さて、入団発表の席でそんな話をする子がいたりして。勝手に期待しておきますね。
「やっぱり甲子園は最高!」
ところで、ジュニアチームの甲子園練習はどうでしたか?「ファン感が満員で緊張してた!こんなに人がいる…って(笑)」。なるほど、ファン感謝デーは超満員でしたもんねえ。一度きりとはいえ、そんな甲子園球場で練習ができるなんて、ますますジュニアに憧れる子どもが増えそうです。
しかも、大勢のお客様がそのまま残ってジュニアチームの練習を見守ってくれたと聞きました。写真を見ても外野は満員状態ですもんね。そんな中、69番のタテジマを着てノックも打った森田コーチ。「最初は久しぶりで感動したなあ。途中からは“やっぱり甲子園、最高!”って感じ」という感想でした。
さらに、ファン感を終えた原口文仁選手(31)が練習を覗いてくれたとか!森田コーチとは今もずっと交流があり、オフに森田コーチが開いている野球教室の特別コーチを務めたこともあります。今回も「いいですよ~」と快諾してくれたそうですよ。
ジュニアチームの選手たちと一緒に写真を撮って、森田コーチいわく「バモス!と声出しをしてもらった」とのこと。連覇に向けての大きなパワーをもらえたかもしれません。原口選手とのつながりもまた、森田コーチにとって大切な縁と言えます。
タイガースの縁と地元愛
さて昨年は上本監督のもと、念願の初優勝を飾ったジュニアチーム。森田コーチは「ジュニアチームのトレーナーが教えてくれた話では上本さんって、例えばアップに入るまではワイワイやってるけど、いざ入ったらビシッと厳しくなるらしい。やる時はやる、隙がない、だから勝てたのかも」と分析しました。
ことしはどうですか?「ポテンシャルが高いとは思うけど、そろそろスイッチ入れてほしいかな。勝負やから、負けて泣くなら結果を出すしかないんで」が、大会1か月前に聞いた感想でした。その勝負の舞台まで、もう10日を切っています。
甲子園練習のあとも、きょう17日まで土日ごとの練習を重ねて、次週は23日に最後の練習で24日は休み。25日に現地入りだそうです。そして26日、阪神ジュニアは神宮球場の第2試合で千葉ロッテジュニアと対戦。いよいよですねえ。
なお、ことしのジュニアには岡山在住の子が3人選ばれたとか。阪神タイガースへの恩と、地元愛にあふれた森田一成コーチとしては、今後も岡山からジュニアチーム入りする子が続いてくれることこそ、何より嬉しい“縁”でしょう。
<掲載写真の※印は本人提供、他は筆者撮影>