レアルが苦戦している理由。S・ラモスの抜けた穴と策を講じるアンチェロッティ。
突如として、ブレーキがかかった。
今季、開幕から好調を維持してリーガエスパニョーラの首位を走っていたレアル・マドリーだが、第7節ビジャレアル戦ではスコアレスドローを演じた。ラ・リーガ6試合で21得点を挙げていたチームが、枠内シュート1本でノーゴールという結果に終わり、第一の警鐘が鳴らされた。
チャンピオンズリーグ・グループステージ第2節では、初出場のシェリフと対戦した。本拠地サンティアゴ・ベルナベウで1−2と敗れ、マドリディスタから不満の声が漏れ始めている。
■静かな夏
マドリーは、この夏、静かな時間を過ごした。
パリ・サンジェルマンに所属するキリアン・エムバペ獲得の可能性が盛んに報じられたが、マドリーは最終的に獲得を見送った。移籍金1億1500万ユーロ(約149億円)でロメル・ルカクを獲得したチェルシー、移籍金1億1700万ユーロ(約152億円)でジャック・グリーリッシュを獲得したマンチェスター・シティのような大型補強は敢行されなかった。
一方で、マドリーは複数選手の放出と売却を決めている。
ラファエル・ヴァランを移籍4000万ユーロ(約52億円)でマンチェスター・ユナイテッドに、マルティン・ウーデゴールを移籍金3000万ユーロ(約39億円)でアーセナルに売却した。また、セルヒオ・ラモスをフリートランスファーで放出している。
とりわけ、ヴァランとS・ラモスの放出は大きな痛手だった。チャンピオンズリーグ3連覇に大きく貢献した2人のセンターバックを、一挙に移籍させたのである。
案の定と言うべきか、最終ラインの人手不足はカルロ・アンチェロッティ監督の悩みの種になっている。
「(エドゥアルド・)カマヴィンガを左サイドバックでプレーさせたのは、あの位置でのプレーに慣れていたからだ。(フェデリコ・)バルベルデに関しても、右サイドでよくオーバーラップしていた。試合はコントロールできていた。カマヴィンガを左サイドバックに置いたから負けたわけじゃない。スローインの流れからの失点だ。不運だった」とはシェリフ戦後のアンチェロッティ監督の敗戦の弁だ。
また、シェリフ戦前には「ポジションの起用は戦術によって変わる。ワイドに開くタイプのウィングがいれば、それほどオーバーラップするサイドバックは必要ではない。自分のポジションに留まるタイプのサイドバックが必要なんだ。それはルーカス(・バスケス)のような選手に影響するかもしれない。彼は本来、ウィングの選手だ。オーバーラップするサイドバックを考えれば、彼がベストなのだがね」と語っていた。戦術によって、選手の使い分けをしたいというのが、アンチェロッティ監督の基本路線なのだろう。
■失われたもの
S・ラモスが抜けたマドリーの最大の懸念はリーダーシップの欠如だった。S・ラモスは声を出し、指笛を吹き、味方を動かして、最終ラインからチームを統率した。フェルラン・メンディの加入当初は、ヴァランがフランス語でサポートしながら指示を出して、守備に綻びがでないように努めていた。
ヴァランとS・ラモスが抜ける。その中で、当初アンチェロッティ監督が考えていたのはダビド・ルイスの獲得だったようだ。アーセナルとの契約が満了して、フリーになっていたD・ルイスをマドリーに引き入れようとしていた。だがEU圏外枠の問題があり、また選手がカタール・ワールドカップを見据えて出場機会を求めていたことで、破談に終わった。
そして、加入したのがダビド・アラバである。アンチェロッティ監督はバイエルン・ミュンヘンでアラバを指導していた。2016−17シーズンにおいては、ロベルト・レヴァンドフスキに次いで、出場時間の多い選手だった。それほどまでにアンチェロッティ監督が信頼していた選手ではある。
ただ、欲をいえば、もう一枚、センターバックが欲しかった。あえて端的に言うなら、それがマドリーの苦戦の原因になっている。
一方で、クラブにはクラブの考えがある。
フロレンティーノ・ペレス会長がこの夏の出費を避けていたのは明らかだ。そして、その成果は確実に出ている。
2021−22シーズンのラリーガのサラリーキャップにおいて、マドリー(7億3920万ユーロ/約960億円)のそれは1部の20チーム中トップの数字だった。コロナ禍において、前年(4億6850万ユーロ/約609億円)に比べても、上がっている。
「秘密はない。選手の売却、レンタル、減俸...。その辺りのレアル・マドリーのマネジメントは非常に模範的である。それが短期の問題を解決して、中長期的な力につながっている。また、(サラリーキャップの)リミットギリギリにお金を使うことはしてこなかった。そのため、貯金が可能になった」とはラ・リーガのゼネラルディレクターを務めるホセ・ゲラの言葉である。
フロレンティーノ・ペレスという有能な経営者が会長を務めているが故に、守備の補強は敢行されなかった。それが苦戦の要因にもなっているわけだが、アンチェロッティ監督はその状況でも勝たなければならない。それが、レアル・マドリーというクラブだからだ。