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20代が躍進!将棋界にも「世代交代」の波 ―第78期順位戦を振り返る―

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 12日の順位戦B級1組一斉対局をもって、第78期順位戦の全日程が終了した。

 A級では渡辺明三冠(35)が9戦全勝で挑戦権を獲得。

 注目の藤井聡太七段(17)は、C級1組を10戦全勝で駆け抜け、B級2組への昇級を決めた。

 無事に全ての対局が終了したことは、いまの社会情勢を思えば本当にありがたいことだ。

 当事者の一人として強くそう思う。

 

20代の躍進

昇級者一覧
昇級者一覧

 今期、昇級者のほとんどは20代の棋士だった。

 B級1組の菅井竜也八段と斎藤慎太郎八段は、20代ながらタイトル獲得経験があり、実績十分だ。

 満を持してのA級昇級といえる。

 菅井八段は、A級では唯一の振り飛車党となる。振り飛車ファンの期待を一身に背負いそうだ。

 B級2組の近藤誠也七段は、残り2戦で競争相手が連敗して大逆転での昇級だった。

 順位戦参加4期で3回昇級し、谷川浩司九段(57)らと並ぶ大記録を打ち立てた。

 C級1組は、全勝の藤井七段以外に9勝1敗が3人並び、順位上位の佐々木勇気七段が昇級を果たした。

 来期は制度変更があって昇級枠が3つになるが、それでも足りないのではないかと思わせる大激戦だった。

 C級2組の高見泰地七段はタイトル保持者で迎えた前期、本命とされながら昇級を逃した借りを返した格好だ。

 また三枚堂達也七段はラスト3戦でいずれも苦しい将棋を逆転勝ちし、終盤力で幸運を引き寄せた。

全勝での昇級

 藤井七段の全勝での昇級は見事というよりほかない。

 順位戦での全成績は29勝1敗。驚異的である。

 前期は昇級を逃したが、くじけない精神力の強さをみせた。

 来期はB級2組で対戦相手も厳しくなるが、今期の充実ぶりをみると十分に戦えそうだ。

 制度改正によって昇級枠が1つ増えるのも大きい。

 来期も昇級候補に名前があがることだろう。

40代の苦戦

降級者一覧
降級者一覧

 今期は40代の不振が目立った。

 A級の木村一基王位は4勝5敗ながら順位の差で涙を飲んだ。

 他に4勝5敗が5名いて、A級の実力拮抗ぶりがうかがえる。

 B級2組の飯島栄治七段は、4勝6敗ながら降級点をとる不運に見舞われ、2つめの降級点で降級となった。

 同じ4勝6敗で降級点を免れた中村修九段(57)とは順位1枚差。

 その両者は前期最終戦で対戦して中村九段が勝っており、その結果によって明暗がわかれた格好だ。

 世代交代の波に負けず気を吐いたのがB級1組に昇級した丸山忠久九段だ。

 名人2期の実力を見せた結果といえよう。

30代の巻き返しは

 渡辺三冠は順位戦での連勝を21に伸ばし、順位戦連勝記録史上2位タイとなった。

 豊島名人は4月に30歳になる。

 30代同士による名人戦は、おおいに注目される戦いになるだろう。

 30代は、2名が最終戦で敗れて昇級を逃すなど、全体的にはふるわなかった。

 実力者が下の争いをするケースが目立ち、20代以下に押され気味だ。

 ただ、このまま終わるとも思えない。来期以降、巻き返しもあるだろう。

 

レジェンドの降級

 B級1組で降級となった谷川九段は、B級2組でも指し続ける意向を示している。

 来期は谷川九段と藤井七段の対戦が順位戦で見られるかもしれない。

 また、C級2組から降級となった桐山清澄九段(72)は、残りの対局を終えると規定により引退となる。

 筆者は4年前に順位戦で対戦したが、その対局姿は年齢を感じさせない迫力があった。

 次の順位戦は、例年6月に開幕する。

 まずは無事に順位戦が始まることを祈っている。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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