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防衛省、北朝鮮の最近2回のミサイル発射は超大型ICBMの性能を抑えた実験だったと分析

JSF軍事/生き物ライター
北朝鮮KCNAより2020年10月10日の軍事パレードに登場した超大型ICBM

 3月11日、日本防衛省は北朝鮮が最近2回発射したミサイルについて驚くべき分析結果を発表しました。その正体は2020年10月10日の平壌での軍事パレードに登場した、11軸22輪の超大型移動発射機に搭載された新型のICBM(大陸間弾道ミサイル)だったというのです。日米韓で同時に発表されています。

11軸22輪の超大型車載移動式ICBM「火星17」

 なおこの新型ICBMの北朝鮮での名称は「火星17(화성-17)」と推定されています。(公式な発表ではなく昨年に平壌で開かれた国防展覧会「自衛2021」でモニター画面に名称が映り込んでた)

1. 北朝鮮が2月27日及び3月5日に発射した弾道ミサイルについて、これまでに得られた情報をもとに、米国政府とも緊密に連携しつつ更なる分析を進めた結果、発射されたものはいずれも大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の弾道ミサイルであり、2020年10月に実施された軍事パレードで初めて確認されたものと同一であるとの評価に至りました。

2. これらはいずれも平壌(ピョンヤン)近郊から発射されたものと分析しており、

・2月27日の弾道ミサイルについては、最高高度約600km程度で、距離約300km程度を飛翔し、

・3月5日の弾道ミサイルについては、最高高度約550km程度で、距離約300km程度を飛翔した

と評価していますが、これは、当該ミサイルの最大射程での発射試験を行う前に、何らかの機能の検証を行うことを目的として発射された可能性があると考えています。

出典:北朝鮮のミサイル等関連情報(続報):日本防衛省(2022年3月11日)

 北朝鮮は2月27日及び3月5日に発射した弾道ミサイルのことを「偵察衛星の開発試験」と称していました。両方とも飛翔体の飛行性能は準中距離弾道ミサイルのロフテッド軌道に相当するもので、過去の発射で一番近い性能の物は「北極星2」準中距離弾道ミサイルだったのですが、実物はそうではなかったのです。

 液体燃料式の弾道ミサイルならば噴射の制御は容易で、大きなミサイルの性能を制限して短い距離で飛ばすことは可能です。性能の全力発揮を行う試験の前に2回も短い距離で発射した理由は不明ですが、失敗ではなく意図的な予備段階の検証実験だったのでしょう。

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西海衛星発射場の新たな動き

 そして同じ3月11日、北朝鮮は「金正恩総書記が西海衛星発射場を現地指導された」と発表しました。北朝鮮の北西部の東倉里(トンチャンリ)にある衛星打ち上げ施設で、「軍事偵察衛星をはじめとする多目的衛星を多様な運搬ロケットで発射できるように近代的に改修、拡張する」方針を指示しています。前日の3月10日に発表された金正恩総書記が国家宇宙開発局を視察した動向と連続する動きです。

【関連】金正恩が国家宇宙開発局を現地指導、「偵察衛星」による撮影画像を新たに公開。打ち上げが間近か(2022年3月10日)

 ほぼ間違いなく、北朝鮮は近いうちに此処から衛星打ち上げを名目に宇宙ロケットと称するICBMを発射するつもりです。既にアメリカ軍が3月7日から黄海での偵察活動を強化したと発表しており、この西海衛星発射場の動向を監視している筈です。衛星打ち上げを名目とするなら南方向に発射するでしょう。

 車載移動式ICBMを衛星打ち上げに流用することは過去にロシアが実施しています。アメリカとの核軍縮交渉「START-1」で保有数が削減され退役した一部の車載移動式ICBM「トーポリ」を衛星打ち上げロケット「スタールト1(Старт-1)」に転用したもので、過去に7回の打ち上げ(うち1回失敗)の実績があります。

 おそらく北朝鮮は同じことを超大型車載移動式ICBM「火星17」で実施して、ICBM発射試験ではなく衛星打ち上げを実施したと言い張るつもりです。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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