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コロナ禍で迎えた東京の七月盆。お布施は振込み、画面上に家族が集まったオンライン法要

吉川美津子葬儀・お墓・終活コンサルタント/社会福祉士・介護福祉士
コロナ禍で迎えた東京の七月盆。お布施は振込み、オンライン法要(写真:アフロ)

東京在住の坂田由美子さん(60歳・仮名)は、夫が亡くなって丸2年になる。昨秋に三回忌を済ませ、義父が入る東京近郊の民間の霊園に納骨を済ませた。近郊といっても自宅からは車で1時間半ほどかかる。すぐに行ける距離ではなく、交通の便も決して良いとはいえないが、義父が元気な時に亡夫と探して区画を決め、墓石も石種やデザインを考えて建てているため、由美子さんも嫁ぎ先ではあるが愛着を持っている。

今春は亡夫の納骨後、はじめて迎えるお彼岸だった。しかしちょうど新型コロナの感染拡大期にあったためお墓参りは控え自宅で過ごした。

梅雨時期になっても7月に入っても新型コロナの感染者数は落ち着くどころか、感染者数は増えるばかり。「お盆もお墓参りは難しいかな」と半ばあきらめ気味だった。

そんな中、夫の三回忌法要を依頼した寺院から封書が届いた。その内容は「オンライン法要」についてのお知らせだった。

写真:写真AC
写真:写真AC

信心深いわけではないけれど、何もしないのも寂しい

この寺院との付き合いは、5年前に義父が亡くなっときからだ。義父は墓地を購入する際、「寺院との付き合いが面倒なので、宗旨・宗派不問の民間の霊園がいい」と希望していた。「葬儀も簡単でいい。戒名も不要」と言い残してはいたが、「その時」が来ると残された家族の意見は「何もしないのは寂しい。簡素でも儀式は必要。」という意見で一致。義母は高齢、夫が病気療養中だったこともあって、「義父をきちんと送ってあげることが私の役目」と由美子さんが実際に葬儀全般を仕切ったのだった。その時に葬儀社から紹介されたのがこの寺院で、それ以来、義父の法要だけでなく、夫が亡くなったときも葬儀や法要を依頼している。

「夫が倒れたのは50代半ば、そこから寝たきりになって意思表示を明確にできないまま死んでしまった。家族からしてみたら決して大往生ではなく、あの時こうしていたら良かったのでは、と後悔ばかり。特に信仰心があるわけではないけれど、節目にはお墓参りをしたり、法要をしたり、儀礼的なことは大切にした方が良いと思っていた」と由美子さん。「オンライン法要」のお知らせを見て、関西に住む息子に連絡をしてみる。

神社仏閣、教会もオンライン化の流れへ

新型コロナの影響をうけて、法要や行事などオンライン対応をするべきかどうか検討している寺院が増えている。「大正大学地域構想研究所・BSR推進センター」の「寺院における新型コロナウイルスによる影響とその対応に関する調査」(2020年6月、有効回答数517件)によると、「新型コロナウイルスの影響を受けて、新たにはじめたことは」という問いに対し、224件中112件の寺院がオンライン対応を実施もしくは検討中だという。

つい半年前までは、オンライン法要、オンライン墓参など、奇異の目でみられることはあっても好意的に捉えられることはなかったのだが、コロナ禍の数か月の間に風向きが変わった。

Zoom、LINEなどで法要、座禅会、行事などをライブ配信したり、動画として保存して後ほど配信するサービスを行っている寺院が徐々に増えている。

寺院だけではなく、キリスト教の教会でもオンライン礼拝、オンラインミサを導入しているところは多い。神社でもオンライン参拝や祈祷を受け付けたり、オンライン御朱印、オンラインおみくじなど、宗教施設でのオンライン化の流れが一気に加速している。

お布施は振込み、オンラインで寺院と東京、関西がつながる

由美子さんの息子は夫が倒れてから就職、結婚し、現在は関西方面に居住している。今夏は妻の出産を控えており、東京のお盆にあたる7月も、全国的なお盆にあたる8月も帰省は難しそうだ。そのためオンラインで法要は、まさに願ったり叶ったりの好都合。東京に合わせて7月にオンライン法要を試みることになった。

お布施は事前に銀行振り込みで、確認後にログインID等が送られてくる。当日時間になると、東京、関西それぞれの場所から寺院にオンラインでアクセスできるというわけだ。法要は法話を含めて約20分。寺院の本堂と、東京、関西が同じ画面に集い法要が行われる。

「遠方からわざわざ集まる必要がなく、私もコロナ禍で移動する必要がなく安心してお参りすることができた。お茶を出したり出されたりする手間も省けるし、持参する供物はどうしようか、といった悩みもなく手軽で良かった。今後もぜひ活用したい」

と、初のオンライン法要はかなりの好印象だ。

ただ「次回は義母にも参加してほしいが、インターネット回線もスマートフォンもないため、どうしたら良いのかが課題」と問題点も指摘した。

オンラインはそこにつながることができる人だけに限定してしまう面があり、特に高齢者が集まる機会が多い寺院の場合、オンライン環境を整えたからといってそれは万能ツールにはなり得ない。

前述の「大正大学地域構想研究所・BSR推進センター」の調査では、オンライン以外の取り組みとして以下のような事例を紹介している。

・法要や墓参代行の様子を写真に撮り、ハガキで報告するようにしている。

・依頼があった檀信徒のお墓参り(掃除、献花、回向等)を行っている。

・中止した法要のかわりに、こまめに短い法話を書いて送っている。

出典:大正大学地域構想研究所・BSR推進センター「寺院における新型コロナウイルスによる影響とその対応に関する調査」

直接聞いたところでは、「オンライン参拝は手軽だが、現状ではあくまで非常時の手段という位置づけにしたいのが本音。IT環境に慣れない高齢者などが置き去りになってしまう点も否めない」と語る寺院もあった。

とはいえ、オンライン法要が時流にのれば、今後それが定番となって市民権を得る可能性もあり得る。地方で困窮している寺院にとっては、活動エリアのバリアフリー化が進み、活路を見出せるかもしれない。

ひとまずは全国的な8月のお盆、そして9月のお彼岸がどのように行われていくのか注目してみたい。

葬儀・お墓・終活コンサルタント/社会福祉士・介護福祉士

きっかわみつこ。約25年前より死の周辺や人生のエンディング関連の仕事に携わる。葬祭業者、仏壇墓石業者勤務を経て独立。終活&葬儀ビジネス研究所主宰。駿台トラベル&ホテル専門学校葬祭ビジネス学科運営、上智社会福祉専門学校介護福祉科非常勤講師などを歴任。終活・葬儀・お墓のコンサルティングや講演・セミナー等を行いながら、現役で福祉職としても従事。生と死の制度の隙間、業界の狭間を埋めていきたいと模索中。著書は「葬儀業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」「お墓の大問題」「死後離婚」など。生き方、逝き方、活き方をテーマに現場目線を大切にした終活・葬儀情報を発信。メディア出演実績500本以上あり

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