なでしこジャパンが欧州王者イングランドに完敗。立ち上げ1年目の強豪2連戦はW杯への「ものさし」に
【欧州王者】
スペイン遠征中のなでしこジャパンは、11月11日にFIFAランキング4位のイングランド女子代表と対戦した。
イングランドは、今夏のヨーロッパ選手権で優勝した現・欧州女王。来年7月にワールドカップを控え、「このタイミングでヨーロッパの強豪国とアウェーで戦うことで、自分たちの今の力を試す物差しになる」(池田太監督)と位置づけた一戦だったが、結果は0-4。完敗だった。
池田ジャパンのチーム立ち上げから1年1カ月。コロナ禍でランキングが下の相手とのマッチメイクが続いていた中、1年ぶりに強豪国との試合が実現した。
日本の先発メンバーは、国内組が11名中3名、海外組が8名。WEリーグやNWSL(アメリカ)、そして欧州各国リーグのトップクラブで個の力を磨いた選手たちがピッチに立ったが、力の差を見せつけられる形に。イングランドは2019年のW杯や2020年の国際親善試合で戦ったチームと比べても、戦術的な引き出しやシュートのバリエーションはさらに広がっているように感じた。10年以上、欧州のトップで戦ってきたキャプテンのDF熊谷紗希(バイエルン・ミュンヘン)は言う。
「イングランドは速くて強さもありますが、ここ何年かで技術的にもすごくレベルが高くなっていて、彼女たちのストロングを出させてしまいました。なぜこういう結果やパフォーマンスになったかということに、チームとして向き合わなければいけないと思います。いろいろと試行錯誤している中で、相手によって自分たちができること、できないことがあると思いますし、そういった判断材料、戦う術を増やしていかなければいけません」
日本は10月の国内親善試合で初めてトライした3バックをこの試合でもチャレンジし、前から奪いに行く狙いを見せた。だが、押し込まれて5バック気味になる場面が多かった。「ファーストディフェンダーをもっとはっきりさせないといけないですし、それに伴う連動、強度も含めてもっと合わせていく必要がある」と池田太監督。
2列目で先発したMF長谷川唯(マンチェスター・シティ)は、守備のラインが下がってしまい、攻撃の糸口を見いだせなかったと明かした。
「相手が強いとどうしてもウイングバックが下がってしまい、インサイドの自分や(宮澤)ひなたも下がって、5-4-1のような形になってしまう。そういう場面が多かったので、ぶちさん(岩渕真奈)がうまく時間を作ってくれても前に出て行くというより、マイボールにするだけになってしまうシーンが多かったです」
逆にイングランドは、日本が目指す「高い位置から奪って、速くシュートまで持ち込む」お手本のようなプレーをいくつも見せた。31分にビルドアップのミスから一気にFWべス・ミードにシュートまで持ち込まれたシーンや、38分の失点シーンもその形。奪った瞬間に全員の意識がゴールに向いていて、シュートスピードも速い。組織としての成熟度の差も見られたが、シュートレンジの広さや精度の差は、一朝一夕で埋められるものではなさそうだ。
イングランドはショートカウンターだけでなく、ビルドアップにも長けていた。ボールの動かし方が巧みで奪いどころを限定できない。ラストパスやクロスはタイミングもパススピードが速くて正確。そこに2人、3人が飛び込んでくる。26分に左サイドからピンポイントクロスが上がり、中央のFWアレシア・ルッソが飛び込んだシーンは、あまりの鮮やかさに声が出てしまったほどだ。
とはいえ、手も足もでなかったというわけではない。日本がセットプレーのセカンドボールを回収して長谷川のシュートに結実させた20分の攻撃は理想的だった。また、43分にFW岩渕真奈(アーセナル)が前線でのキープでファウルを受け、いい位置でフリーキックを獲得。池田ジャパンはセットプレーも一つの武器にしている。得点にはつながらなかったものの、可能性を感じさせるシーンだった。
後半は、両者ともに交代カードを切りながら、試合はオープンな展開に。日本は左サイドのMF遠藤純(エンジェル・シティFC)がクロスから複数のチャンスを作ったが、得点にはつながらず。
逆に、サイドのスペースや中央からの突破、ハイプレスを受ける形などで3失点。「相手が後半に前線にスピードのある選手を出してきた時に同じ戦い方をしているとどうしてもスライドが間に合わなかったりと、難しい部分がありました」と遠藤は振り返る。
終盤に交代で出場したMF藤野あおば(東京NB)が87分に得意のドリブルから長谷川のシュートを演出したが、ゴールネットを揺らすことはできなかった。
試合後の長谷川のコメントからは、3バックで戦う際の攻撃面の課題や伸びしろが見えてくる。
「3バックでボールを持てると、前や中に人数が多くてコンビネーションを作りやすいというメリットはありますが、相手が強い時に引いたところからの攻撃の仕方が課題で、そこは前回の日本での(国際親善)試合では出なかった課題だと思います。自分たち主導でボールを持てたらいい位置に立てるのはメリットなので、そこのバランスを取っていきたいです」
【15日のスペイン戦へ】
イングランドは、サリナ・ヴィーフマン監督体制下での無敗記録を「25」に更新した。今回は主力のFWローレン・ヘンプやFWフラン・カービー、DFルーシー・ブロンズら主力がケガで不参加だったが、その状態であの強さなのだから...主力が復帰すれば、無敗のままワールドカップに突入してもおかしくなさそうだ。
東京五輪で準優勝だったスウェーデンのゲルハルドション監督が、国際大会で欧州勢が急成長を見せている理由について語っていた言葉を思い出す。
「ヨーロッパには男子のビッグクラブがあり、女子サッカーのトレーニングの質が高まっています。よい環境でプレーする選手たちがどんどん力を上げてきている。欧州選手権のレベルもさらに上がって、2年後にはヨーロッパのほかの国もさらにレベルが上がることが期待できます」
現状は、その言葉通りになっている。
そして、その環境には日本人選手も含まれている。代表が国内組中心だった頃は、相手のフィジカルに圧倒されて立ち上がりの15分間で失点し、そのまま劣勢に陥ることも多かった。しかし、この試合は圧力をかけられ続けながらも30分間、集中を切らすことなく耐え、反撃の機会を窺った。
日常から海外勢のフィジカルの差と向き合っている選手が増えたことで、「最初に対峙した時に驚きがない」(長谷川)というのが大きいことを改めて感じさせる内容だった。
国内組も、以前と同じ環境ではない。リーグのプロ化による強度の向上や、各チームが戦術の幅を広げていることによる好影響は、時間をかけて代表にも好変化をもたらすはずだ。
日本は中3日で、スペインと対戦する。来年のW杯でもグループリーグで同組になったスペインは、この10年間でFIFAランクが急上昇。最新のデータでは6位(日本は11位)となっている。直近の10月の国際親善試合では1位のアメリカを2-0で下し、8月のU-20W杯と10月のU-17W杯でダブル優勝を達成(U-17は連覇)。国内リーグ発展の好影響が見て取れる。
池田監督は、「まず自分たちの強みをどう通用させていくか。W杯に向けて、どこを修正していけばいいのかを考えるゲームになると思う」と、重要な90分間になることを示唆した。
W杯まで8カ月。ここからの巻き返しを期待させるようなゲームになることを期待している。試合は日本時間16日、朝9時からNHK BS1にて録画中継される。