ブラジル沖で珍しい現象 ハイブリッド低気圧「ポティラ」発生
台風2号(国際名: スリゲ)が北太平洋で派手な発達を見せていた今週初め、南大西洋ではそっと地味に低気圧が誕生していました。その名はポティラ(Potira)。見た目も勢力も平凡ですが、その発生場所は非常に珍しく、南大西洋で同じような嵐が発生した例は過去に数える程しかありません。
ハイブリッドな「亜熱帯低気圧」
ブラジル軍は20日(火)、同国の東の海上に最大風速20m/sの「亜熱帯低気圧」が発生したと発表、それをポティラ(Potira)と名付けました。亜熱帯低気圧とは耳慣れない言葉ですが、「亜」とは○○に準じるという意味がありますから、熱帯低気圧に準じた嵐ということになります。
その性質を一言でいうならば、熱帯低気圧と温帯低気圧のハイブリッドです。下層には暖気、上空には寒気を伴っていて、暴風や大雨をもたらす低気圧です。ただ日本の気象庁は、一般に馴染まないなどの理由からこの用語を使用していません。
南大西洋では珍しい
亜熱帯低気圧そのものは、それほど珍しい現象ではありません。
しかしこうした熱帯の性質を持つ低気圧が、南大西洋に出現するのは極めて珍しいことです。どれほど珍しいのかというと、Accuweatherによればこれまで14例しかないのだそうです。そのうちハリケーンにまで達したものは、2004年にブラジルに上陸したカタリーナ(Catarina)のみでした。
なぜ、南大西洋では熱帯低気圧や亜熱帯低気圧が発生しづらいのでしょうか。
その理由は、海水温と風にあります。ブラジル沖はオーストラリア北部とほぼ同じような緯度にありますが、その温度はオーストラリア近海に比べだいぶ低くなっています。さらに南大西洋には、ハリケーンを発達させにくい風が吹いています。風の向きや強さが高度ごとに大きく異なるため、雲が渦を巻きにくい環境となっているのです。
ここ40年の変化
しかし近年この南大西洋で熱帯低気圧が増えているというデータがあります。
下の図は、1980年から2018年までの40年間のデータから、アメリカ海洋大気庁(NOAA)が熱帯低気圧の増加しているところと減少しているところを解析した図です。赤や黄が増加、青や緑が減少を表しています。
これを見ると、ブラジル沖の海域が薄い赤色で塗られていることが分かります。微増ながら増えているようですが、その一因には海水温の上昇があります。
同じように増加傾向にあるのは大西洋北部、太平洋中部やインド洋北部などです。その反対に減少しているのは、太平洋西部やインド洋南部などのようです。
今後の台風の変化
今後はどうなるでしょうか。
世界全体でみると、熱帯低気圧の数は減っていく可能性が指摘されています。NOAAは今世紀末までに2割減るとも予想しています。
しかし一方で、急速に発達する熱帯低気圧は増加するとも予想されています。台風2号がまさにその例で、30度近い暖かい海上で急激に強まり、一時中心気圧は895hPaまで下がりました。これは1月から4月に発生した台風としては、観測史上最低の気圧です。
急速に発達する台風が増えるということは、準備が徹底されていないうちに強力な台風がやってくる可能性が高くなるということでもあります。今後はそうしたリスクにも備えておかなければなりません。