警察が強制性交等「相当処分」意見で書類送検の山川穂高選手 今後の捜査の焦点は
西武ライオンズの山川穂高選手が書類送検された。一部報道では強制わいせつ致傷罪の容疑で捜査中ということだったが、送検時の罪名は強制性交等罪だった。警察は「相当処分」を求める意見を付けているという。
なぜ罪名が変わった?
まず罪名変更の点だが、そもそも警察が強制わいせつ致傷罪の容疑で女性の被害届を受理したという一部報道が不正確だったか、正しかったとしてもその後の捜査で判明した事実を反映したということではないか。
すなわち、刑法の「性交等」とは膣内性交のほか、口腔内や肛門内への挿入も含まれることから、捜査の結果、単なるわいせつではなく「性交等」に及んで既遂に達していると判断された一方で、「致傷」については因果関係に疑義があるなどとして容疑から外されたのだろう。
強制わいせつ致傷罪は無期または3年以上20年以下の懲役、強制性交等罪は5年以上20年以下の懲役だから、下限こそ後者が上だが、無期懲役を選択できる前者のほうが罪は重い。そのため、前者は裁判員裁判の対象事件であるのに対し、後者は3人の裁判官だけで裁判できる。
それでも、強制性交等罪で起訴されて有罪になれば、よほど有利な情状でもない限り、初犯でもまず実刑になる。報道によると、山川選手と女性との間では弁護士を介して示談交渉が行われていたものの、送検までに示談がまとまらなかったという。
「相当処分」意見の意味は?
一方、警察は送検に際して「相当処分」の意見を付しているという。これは国家公安委員会規則である「犯罪捜査規範」に基づく措置であり、警察の意見には次の4つのパターンがある。
(1) 「厳重処分願いたい」
起訴するのが妥当だと考えている場合
(2) 「相当処分願いたい」
起訴・不起訴については検察に一任したいと考えている場合
(3) 「寛大処分願いたい」
起訴を猶予するのが妥当だと考えている場合
(4) 「しかるべく処分願いたい」
時効が成立しているとか、被疑者が死亡しているとか、告訴がなければ起訴できない事件で既に告訴が取り下げられているといった事情により、不起訴以外にはあり得ない場合
ただ、証拠により犯罪の容疑が明らかな事件であれば、(4)に当たらない限り、警察の意見はほぼ全てが(1)の「厳重処分」となっている。限られた予算や人員を割き、時間をかけて捜査を遂げた以上、検察の判断がどうなるにせよ、治安維持の担い手を自負する警察としては(1)の意見を述べておくというわけだ。
これに対し、(2)は起訴か不起訴かが微妙なライン上にあり、どのような事情を重く評価するかでどちらにも転ぶような場合だとか、証拠が薄く、犯罪の容疑が認められないかもしれないといった場合が挙げられる。
検察の捜査は?
この点につき、一部報道では、伝聞情報に基づいて山川選手が「同意はなかったが無理やりではない」と釈明していると報じられていた。しかし、それだと「無理やりではない」という主張と矛盾することになる。
むしろ、この種の事件によくある「認知の歪み」に基づき、「実際には女性は同意していなかったのかもしれないが、事件当時、自分としては女性が同意しているものと思い込んでいた」といった、故意を否認する方向の弁解をしているものと思われる。
警察としても、「性交等」の事実までは認定できても、同意の有無やその認識の点で女性の供述と対立していて物証や目撃証言などがなく、「強制」の部分についてはどちらにも転ぶ可能性がありそうだと判断しているのではないか。
ただ、検察は処分に際してこの警察の意見に拘束されることはないし、特に意識していないというのが実情だ。(1)でも不起訴にするし、逆に(2)でも起訴することがある。
いずれにせよ、改めて女性や山川選手らの取調べを行うなど、検察でも必要な捜査を遂げたうえで、2人のこれまでの関係やそもそも「レストランの個室のような内装」「泊まれるダイニングバー」「ホテル」などと報じられている場所が一体どのようなところだったのか、いかなる経緯でそこに行くことになったのか、そこで具体的に何があったのか、なぜ警察に被害届を出すに至ったのかなど、真相の解明を粛々と進めることになる。
被害者の意向が重要
とはいえ、強制性交等罪は告訴がないと起訴できない親告罪ではないものの、事件化や起訴には被害者の協力や詳細な事情聴取が不可欠だし、裁判になれば法廷で証言してもらうこともあり得る。性犯罪の厳罰化が図られた2017年の刑法改正に際し、法務省も刑事局長名で全国の検察庁に通達を出し、次のような留意事項を示しているほどだ。
「性犯罪については、もとより、被害者のプライバシー等の保護が特に重要であり、事件の処分等に当たっても被害者の心情に配盧することが必要」
「事件の処分に当たって被害者の意思を丁寧に確認するなど被害者の心情に適切に配慮する必要があることに留意されたい」
検察の現場は、この趣旨に沿って性犯罪の捜査や処分を決しており、たとえ容疑を否認していても、送検後、起訴前に示談が成立し、女性が処罰を望まないということになれば、不起訴にすることになる。その意味で、検察としても、当面は示談交渉の推移を見極めることになるだろう。
検察審査会の審査も
問題は、女性の処罰感情が極めて厳しく、最後まで示談がまとまらなかったものの、一方で検察が「疑わしきは罰せず」ということで「嫌疑不十分」により不起訴にした場合だ。女性は検察審査会に審査を申し立てることができる。
検察審査会の11人の審査員は市民の中から選ばれた人たちだから、一般に性犯罪には厳しいし、山川選手のことを知っているとは限らない。その審査により「起訴相当」か「不起訴不当」の議決が下れば、検察による再捜査が行われることになる。
「不起訴不当」に対して検察が再び不起訴にすれば刑事事件としてはそこで終わりだが、「起訴相当」議決なのに不起訴にし、検察審査会で再び「起訴相当」の議決が下れば、山川選手は強制起訴されることになる。
書類送検後、検察による起訴・不起訴の判断だけで全てが終わらず、事態がさらに長引くかもしれないという様相を呈しているところからも、NPBや球団による処分を含め、この事件への対応の難しさを物語っているといえるだろう。(了)