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新型コロナ感染症:なぜ「両手」を入念に洗わなければならないのか

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 新型コロナ感染症(COVID-19)などのウイルスや細菌の感染では、汚染された場所に接触した自分の手指によって、口や鼻の粘膜から感染することが知られている。最近の研究によると、我々が口や鼻を触るのは利き手ではないほうの手が圧倒的に多いことがわかったという。

自分の粘膜に触れるリスク

 この研究は香港大学などの研究グループによるもので、大学の事務室に設置されたカメラによる動画撮影を使い、実験参加に同意した修士課程と博士課程の学生29人(18歳以上、女性12人)が月曜日から金曜日の5日間(9時から20時59分59秒まで)、手で頭部のどの部位に接触したのかを記録したという(※1)。

 同じ研究グループが行った過去の同様の研究(※2)によると、学生は1時間に平均して98.7回、自分自身に触れ、髪、顔、首、肩の割合が50%以上だったことがわかっている。今回の研究の目的は、それをより詳細に分析することにあったようだ。

 今回の研究に参加した学生の中には、食事をするときだけ左利きで機器を操作したり文章を書いたりするときに右利きになる人が2名いたが、この2名は右利きとした。だが、論文に参加者の右利きと左利きの割合は記されていない。

 同研究グループは、頭部を左右(額、頬など)・中央(鼻、口など)、首、肩など20部位に分けてコード化し、どちらの手がどの部位を何回、触ったのかをビデオ記録によって分析した。

 その結果、非利き手(Non-Dominant hand)のほうが利き手(Dominant hand)より多く(66.1%)髪、顔、首、肩に触っていて、特に非利き手は逆側の額や頬、目以外のほとんどの場所に触れていて、側方性が強くみられたという。

 また、男子学生のほうが女子学生よりも長く利き手を使って髪、顔、首、肩に触れていた。

 当然、コンピュータのマウスは利き手で操作し、他に利き手優位なのはバッグやカップなどを持ったりウォーターサーバーなどの操作ボタンを押す行為で63.5%だったが、机や椅子などに触れるのは非利き手のほうが多かった。

 同研究グループが強調しているのは、参加者は口や鼻、目(粘膜)に平均1時間に34.3回、触れていたが、非利き手の使用は利き手より2.4倍(240%)多かったことだ。これらの粘膜に関係する器官への接触時間は、利き手が8.0秒、非利き手が13.0秒だったという。

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触った時間(秒)と部位(髪、顔、首、肩)と触った利き手(Dominant hand)と非利き手(Non-Dominant hand)の違い。非利き手で触っている時間が長いことがわかる。Via:Nan Zhang, et al., "Most self-touches are with the nondominant hand." SCIENTIFIC REPORTS, 2020

両手を入念に洗おう

 これまでの研究によれば、物品への接触回数や時間は利き手が圧倒的に多いことがわかっている。だが、今回の研究によれば、自分の口元に指を添えたり、鼻をつまんだり、目をこすったりするような行為は、利き手をあまり使わないということになる。

 新型コロナウイルスなどによる呼吸器感染症は、口や鼻から気道、肺などの呼吸器の粘膜から感染し、ノロウイルスなどによる消化器感染症は口から入って腸などから感染する。どちらも手指についたウイルスが体内へ侵入することで感染するが、ノロウイルスなどは食品の場合もある。

 この研究によると、我々は無意識に非利き手を使って約2分に一度、口や鼻、目を触っているようだ。

 接触感染は、入念な手洗い(手指衛生)によりリスクを16%減らすことができ、マスクの着用で無意識に口や鼻に接触しないようになる。手洗いの際には物品に接触する機会の多い利き手を重点的に洗いがちだが、非利き手にも注意が必要になるだろう。

※1:Nan Zhang, et al., "Most self-touches are with the nondominant hand." SCIENTIFIC REPORTS, Vol.10, 10457, doi.org/10.1038/s41598-020-67521-5, June, 26, 2020

※2:Nan Zhang, et al., "Surface touch and its network growth in a graduate student office." INDOOR AIR, Vol.28, No.6, 963-972, 2018

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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